第37話 邂逅
……はて?ここは一体、何処だろうか?
今俺が立っているのは何もない荒野……空は星空で時刻は夜のようだが視界に不自由しないというか結構明るい……しかし、俺はこんな場所に来た記憶はない。
え?また俺知らない場所に飛ばされたの!?
うっそ?ちょ、待てよ!
俺は慌てて辺りを見渡す。
しかし、どこにも俺の拠点であるエインヘリア城は見当たらない。
いやいや、待って待って!唐突過ぎるでしょ!?
落ち着け!ここはアレだ素数だ!ってしまった!スマホが無いから一が素数なのかそうじゃないのか結局調べられてない!二からいくか!?
「好きじゃな、素数」
いや、別に好きという訳ではない。だが、神父さんがそうすれば落ち着くって言ってたから試してみたかっただけだ。
そんな事よりも……俺はここに来る前、何をしていた?記憶が途切れているのか……?
思い出せ……思い出せ……今日は確か……そうだ、リーンフェリア達と村の視察に行ったんだったな。
そしてそこでキリクと打ち合わせをしたり、子爵……いや、カルモスと村の様子を見て回って大層驚かれたり……召喚兵が耕している畑を見たり……そんな一日だった。
よしよし、覚えているぞ……それでそれから……城に戻り、風呂でさっぱりしてから食事をとった。今日のメニューはオムライスと唐揚げ、食後のプリン……うむ、大変美味しゅうございました。
そして軽くイルミットと、召喚兵の作った畑に何を植えるか相談して……それから就寝。
おぉ、完璧に思い出せたな!流石俺、かなりの冷静っぷりだ。今なら冷製スープから冷静ですねって言われるくらい冷静だと思う。
「相当混乱しておるのう」
いや、超冷静だって……って言うかさっきから誰だ?
「ふむ、少しは周りが見えて来たようじゃな」
その言葉に俺は再び辺りを見渡すが、人影は見当たらない。
「誰だ?」
「やっと話が出来そうじゃな。まずは自己紹介をさせてもらおう、我が名はフィルオーネ=ナジュラス。フィオと呼ぶが良い」
「そうか。ところでばーさん」
「誰がばーさんじゃ!殺すぞ!」
「いや……そんな喋り方、長老くらいしかしなくない?あ、もしかしてじーさんだったか?それにしては随分声が可愛いが……」
「よし、死ね!」
次の瞬間、地面から無数の槍が俺に向かって飛び出してきた!
「マジか!?」
俺はとっさに腰に差していた覇王剣を振って、飛び出してきた槍を薙ぎ払いつつ後方へと跳ぶ。
「お?意外とやるのう」
「いきなり何すんだ!じーさん!」
「よし、次は確実に脳みそをぶち抜いてやるのじゃ」
流石に今のをもう一回やれというのはノーサンキューだ。正直、今のを避けられたのは奇跡に近い……ってアレ?俺は何で腰に剣を?
寝てたんだから剣は勿論、鎧だって着ていなかったはずだが……。そう思い自分の姿を見下ろすも、今の俺は完全武装状態。
「大分頭がはっきりしてきたようじゃな。さて、もう一度私の事を呼んでみよ」
「あーフィオ、だったか?とりあえず姿を見せたらどうだ?俺にはアンタが何処にいるかすら分らん。声だけでじーさんかばーさんか判断しろってのは無理があるだろ?」
「なんでその二択なんじゃ!えぇい!少し待っておれ!」
ってか、当たり前のように話していたけど、こいつ俺の考えている事にもツッコんで来てたよな?俺の考えが筒抜けって奴か?気持ちわる!
「お主、失礼にも程があるじゃろ……」
呆れた様な声と共に、俺の目の前で何やら光の粒が集まって人の形を成したかと思うと、次の瞬間集まった光が弾けその場に一人の女性が残る。
身長は百六十センチ程だろうか?長い黒髪は腰の辺りまで伸びているのだが、ストレートパーマでも当てたかのように真っ直ぐな髪は体を動かすたびにさらさらと音を立てそうである。
瞳は黒いのだが……気のせいか光の反射具合によっては赤く見える気もする……不思議な色だ。
年の頃は……リーンフェリアよりも少し若そうだが、少女という程でもない。高校卒業間近から大学生なりたてといった所だろう。黒いドレスに身を包んでいるが……まぁ、中々グラマラスですね?
かなりの美女……正直言ってかなり好みのタイプである。
「ふふん、どうじゃ?美しかろう?私は本当に美しいからな。魅了されてしまうのも仕方ないというものじゃ」
あ、性格不細工だったわ。
「ほんっと失礼な奴じゃな!聞こえておるのが分かった上で考えておるじゃろ!」
「はぁ……分かった分った。それで、ここは何処でお前は何者なんだ?」
「そうやって、混乱しながらも思考を切り替えられるところだけは中々の物じゃな。まぁ図太いだけじゃろうが」
「……」
「……」
どうして人は傷つけあわなければ生きていけないのだろうか?
「各々が個体として確立しておるからじゃろうな。まぁ、私は人族ではないが」
ダメだ、何か知らんが話が全く進まない。
「……そろそろ本題に入ろうか。もう一度聞くが、ここは何処でお前は何者だ?」
「ふむ。時間も押しておるし……仕方ないのう。まずここは、概ねお主の夢の中と言ってもいいじゃろう」
「概ね?」
「うむ。お主の身体は、今も城のベットで間抜け面を晒しながら寝ておる。ただの夢と違うのは、目が覚めた後も私と話した事はしっかりと覚えておる点じゃな」
「それって……目が覚めた時、俺はしっかり疲労回復出来ているんだろうな?」
「さぁ?どうかのう?というか、一番最初に気にするところはそこかのう?」
今は準戦時中という事もあり、覇王はそれなりに多忙なのだ。休養はしっかりとりたい。
「……明日は日中眠いかもしれんが、その点については謝っておくのじゃ」
「……ちっ」
「謝るといった者に対してその態度はどうなんじゃ?お主、器が小さすぎやせんかの?」
にっこりと笑みを浮かべながら額に青筋を浮かべるフィオ。だが突然こんなところに連れてこられた俺の怒りも察して頂きたい。
「……ふぅ、それもそうじゃな。お主の意志に関わらず、こうして強引に連れ去るというのはこれが初めてという訳では無いからの」
そう言って若干気まずげに表情を歪めるフィオを見て、なんとなく理解した。
「俺を……いや、俺達をこの世界に呼び出したのはフィオ、お前なんだな?」
「うむ……その通りじゃ。お主の言う通り、私がお前達をこの世界へと引き込んだのじゃ」
やはりそうなのか……いや、これが完全に俺の夢っていう可能性も十分あるわけだが……。
「いつも思うんじゃが、お主は結構慎重というか、疑り深いというか……疑心暗鬼というか……その癖、最終的に考え無しというか……馬鹿なのかの?」
「大きなお世話だ!っていうか、いつもってどういうことだ?」
「そのままの意味じゃ。私はこの世界にお前が来てからずっと見ておる。その心の内までな」
「ストーカーの最終進化系だな」
ってか心読まれるのがマジダルい……これも伝わっているんだろ?変なこと考えられないじゃん。
「何を考えるつもりじゃ……というか、今はそんなことどうでも良かろう?」
「それもそうだ。なんで俺をこの世界に連れ込んだ。俺は元の世界に戻れるのか?それともこの世界に留まり続けるのか?」
「本当はその辺りも説明するつもりだったのじゃが……もう時間が足りぬのう」
「はぁ!?じゃぁ何しに出て来たんだよ!」
「お主が初っ端から喧嘩売りまくって来たせいで、余計な時間を食ったんじゃろうが!」
「はぁ?そんなの売ってないですぅ。よしんばそうだったとしても、説明しに来たのにそんなの買う方が悪いんですぅ」
「ほんっと、イライラさせてくる奴じゃのう!大体なんじゃさっきからその口調は!覇王ムーブとやらはどうしたのじゃ!」
「心の中読んでくる奴相手にそんなもんしても仕方ないだろ!馬鹿なのかな?あ、馬鹿なんだわ!」
煽り煽られあれあられ……段々と収拾が付かなくなってきたが、それは相手も同じようで、最初姿を現した時は超然とした姿だったのだが、今では髪を振り乱し地団太を踏んでいるフィオ。
「もういい!もういいのじゃ!折角良い事教えてやろうと思ってたけど、もう教えてやらんもんねー!そのまま悶々としながらベッドで目覚めると良いわ!」
「ちっさ!器ちっさ!このフィル何とかいう人、器がちっさすぎてデザートスプーンより水を溜められないんですけどぉ!」
「デザートスプーンを器という阿呆に言われたくないわ!後私はフィルオーネじゃ!名前くらい一回で覚えろ!大体なんじゃ!いい歳して、覇王ムーブって!」
「あーおまっ!そういう事言うか!?それを言ったらもう戦争だろうがよぉぉぉ!」
「『俺が誰だか分かるか?』『俺はフェルズ……覇王フェルズだ!』……ぷふーーっ!」
「やめろおぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は絶叫を上げ、次の瞬間……目の前に飛び込んできたのは、すっかり見慣れてしまった部屋の天井。
どうやらあのフィオとかいう奴の言った通り、俺は寝ていただけのようだ。
だがしかし、かつてここまで不快な目覚めがあっただろうか?いや無い。
……ふぅ、落ち着け、俺は冷静だ。
俺は自分の姿を見下ろす。当然の如く、起きたばかりの俺は鎧を着ておらず、腰に剣も佩いていない。
大きく息を吐いた俺はベッドから立ち上がる。
先程までの事……子細漏らさずはっきりと覚えている。その事からもただの夢と切って捨てるのは早計だろう。
この世界に俺達を呼び出した存在……何かしらそう言う存在が居てもおかしくはないと思っていたが……本当にアイツがそうなのか?
……証拠は何もない。だが、なんとなくアイツが嘘をついている様には思えなかった。アイツが呼び出したというのであれば、多分本当なのだろう。
であれば、もっと色々聞きたい事はあったはずだ……なのになんであんな子供じみた喧嘩を……あれは、夢のせいなのか?なんか妙に感情が抑えられないというか、どんどん悪態が口からついて出るというか……。
常に覇王らしくあろうとしているから、タガが外れたのかね。
それにしてもあのフィオという女性……見た目は百点、中身は零点って感じだったが……なんとなく、また会う機会がありそうな気はするな。
それが再び夢の中なのか、はたまた現実でなのかは分らんが、その時までに聞きたい事を整理しておいた方が良いやもしれん。
……ってか、アイツの言葉を信じるなら、今この瞬間もアイツは俺の事を覗き見ている筈……マジストーカーだな。訴えたら勝てると思う。
そんな感じで重要な邂逅があったはずだが、何一つとして得られた物は無く、俺は普段通りの覇王の一日を始めるのだった。
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