第35話 がんがんいこうぜ
「お待ちしておりました。フェルズ様」
村へと転移した俺の目の前で、青髪のインテリと言った雰囲気の青年が綺麗な礼を取ってみせる。
「キリクか。村に来ていたのだな」
「はっ!フェルズ様にご報告がありまして」
「ふむ、では先にキリクの話を聞くとするか。ウルル、ジョウセン、カルモス達を捕虜たちの所へ案内してやれ。俺達は……」
「場所は用意してあります」
「案内してくれ。リーンフェリア、イルミット、行くぞ」
「「はっ!」」
キリクの案内に従って歩くことしばし、魔力収集装置を置いてある村の中心地から左程歩く事も無く、周囲に建てられている村の建物とは違い、随分としっかりした造りの建物が見えて来た。
「これは……建てたのか?」
「はい。この村では色々とフェルズ様が実験をされておられますので、こういった場所が必要かと思い用意しておきました」
キリクが説明しながら扉を開き、俺達を中へと招き入れる。
「そうか、助かる」
案内された建物は集会所の様な物であったらしく、入ってすぐ広めの部屋があり、そこに長机と椅子が置かれていた。
リーンフェリアが椅子を引いてくれたので俺がそれに座ると、俺の隣にイルミットが、向かい側にキリクが座り、リーンフェリアは俺の斜め後ろに立つ。
「ご足労ありがとうございます、フェルズ様」
「構わん。それよりも報告とは?」
「はっ!現在フェルズ様の御下命により遠征部隊を派遣しておりますが、あと二日で先の戦争より一週間となり、召喚兵達の召喚期限が切れます」
「ふむ、その件については俺もキリクと話をしようと思っていたところでな」
「然様でございましたか」
良かった、俺から切り出さなくてもキリクから報告が上がってきた。これが報連相の重要性か……!される側になって初めて分かるそのありがたみ……。
よし、キリクに色々と確認しながら今後の方針を決めるとしよう。
「まだ詳しくは聞いていなかったのだが、現時点で我等に恭順を示した街はいくつになるのだ?」
「三カ所です。支配下に入れる際人口の少ない村は避け、全て人口一万人程度の街を選んでおります」
「ほう。遠征部隊一つで三カ所も落としたのか、見事だな」
「はっ!恐縮です」
キリクに任せて一週間で三万も人口が増えたよ……因みに俺はこの世界に来て一月でゴブリン含めて五百人位しか増やせなかったよ……。
これが参謀と覇王(笑)の差か……!
「ですが、現在魔力収集装置の設置がまだ出来ておらず、恭順を示したと言っても管理する方法が乏しい事も事実」
「そこは俺が最も懸念していた所だ」
「やはりそうでしたか……申し訳ありません。フェルズ様が敢えて侵攻速度を落としていたというのに、考え無しに支配領域を広めるような真似をして」
「いや、構わない、お前はよくやってくれている。カルモスという領主をこちらに引き込んだのだ。迅速に街を切り取っておかねば、また面倒が増えるだけだからな」
勿論、侵攻速度を俺が敢えて遅くしていたという事実は何処にもないが……そもそもどうやって街とか手に入れたらいいのか皆目見当もつかなかったし。
だからキリクは非常によくやってくれていると思う、流石キリク。まっことさすキリである。
「それにキリク。以前は召喚兵達を一部隊につき週に一度、一拠点でしか戦わせるような事は無かったにもかかわらず、今回は一度の召喚で三拠点も手に入れることが出来たのだ。以前にはない新しいやり方……それを模索して実行に移したお前の功績……俺はそれを非常に嬉しく思っている」
「あ、ありがたき幸せ!」
キリクが椅子に座ったまま、勢いよく頭を下げテーブルに額を叩きつける。
すんごい音がしたんだけど……大丈夫かしら?
そんな俺の心配をよそに、顔を上げたキリクは至極真面目な表情で話を続ける。
「現在ルモリア王都では兵を集めているらしいのですが、まだしばらく時間がかかる見通しです。我々としましては、王都がもたついている間にヨーンツ領内を掌握したいと考えております」
平然と、何事もなかったかのように次の話題に移ったキリクに畏敬の念を覚えるぜ。
「ふむ」
「その為にも、領主不在の領都の制圧を目標としたいのですが……」
そこでキリクは言葉を切って少し表情を変える。
「魔力収集装置の設置だな。問題となっているのは」
「おっしゃる通りです。本日恭順を示した街は、領都の最寄りの街となっております。流石にこの街では多少の抵抗があると考えていたのですが、部隊を寄せたところあっさりと門を開きました。現在その街にオトノハを派遣して魔力収集装置の設置を始めさせたのですが、やはり設置には五日が必要とのことです」
「仕方ないだろうな。だが、恭順を示した街に何かあっては我等の名折れ、ひとまず恭順を示した三カ所の街には、この村より兵を千ずつ送っておけ。魔力収集装置の設置が済めばそれも必要なくなるだろうが、念の為にな」
「畏まりました。そのように手配しておきます。人員は私の方で手配しておいても?」
っと、そうだ。マリー達を派遣しない様に伝えておかなくては。
「そうだな、基本的には任せるがカミラは今回も城に残せ。それと、少し気になることがある。エイシャやマリーと言った、傍から見てただの子供にしか見えない様な将は、暫く戦場には出すな」
「エイシャ達をですか?」
「あぁ、それ以外であれば、キリクの采配で好きに動かして構わん。まぁ、ヨーンツ領内では大きな戦いは、もう起こらないだろう。カルモスの話では、動かせる兵の大半を俺達との戦に出したとのことだからな」
「承知いたしました。それと、丁度今話に出たカルモスですが、次の領都攻めには参加させようと考えております」
よし……エイシャ達の件は何やら思わせぶりな事を言ってうやむやに出来たな。未来の俺が苦労するかもしれないけど、頑張って欲しい。
「あぁ、その話は聞いている。遠征部隊と合流させるのだろ?」
「はい。事前の調査では、領都にも兵力と呼べるようなものは殆ど残っていないのですが、カルモスの娘婿が領主代行として抗戦の構えを取っているようでして……その対応をカルモスに任せてみようかと」
「なるほど。カルモスの能力もそこで見るという事だな?」
「はい。私とアランドールもカルモスと共に前線の街に移動をします。領都は三万強の人口が居るそうなので、圧力を強めにかけようと考えております。遠征部隊の千に加え、私とアランドールでそれぞれ千を率いようかと」
「ふむ。それは構わぬが、キリク。お前は前に出るなよ?」
「はっ!肝に銘じておきます」
キリクは知略系だからな。レギオンズで部隊を組むときは三人の将で一部隊って感じだったからキリクみたいな知略系も戦場に出せていたけど、今はそうじゃないからな。
前の戦争の時にカミラに副将を二人着けて一部隊としていたが、現実の戦場でキリクを前に出すのは危険すぎる。戦闘力に関してはメイド達と同じ初期値だからな。
まぁ、キリクもそれは十分理解しているだろうし、問題は無いだろうけどね。
しかし、もし実際に戦いになるようであれば俺が鷹の目を使う必要があるだろう。戦場において俺のアビリティ程強力な物は無いからね。
「それでは、早速動こうと思いますが、よろしいでしょうか?」
「そうだな、イルミット、他に何かあるか?」
俺が隣に座るイルミットに尋ねると、頬に指を当てたイルミットが首を傾げつつ口を開く。
「そうですね~。まだ傘下に入れていない小規模な村や町について~、その人口を調べておくことは可能ですか~?今は外交官も忙しくしていますし~軍の方でその辺の調査が出来れば助かるのですが~それと可能であれば特産品も~」
「ふむ。確かに人口の把握や特産品の調査を進めておくのは悪くないな。どうだ?キリク可能か?」
「はっ!問題ありません!そちらの調査も並行して進めておきます」
「良し、では以上だ。励め」
「はっ!失礼いたします!」
キリクが立ち上がり深々と頭を下げた後、集会場から出て行く。
キリクが退出するのを確認した俺は、隣に座るイルミットに声を掛けた。
「さて、イルミット、俺達も動くぞ。まずは開墾地の視察、それと村長に栽培状況の確認だが……先にジョウセン達と合流した方が手間が無くていいか」
「それでしたら、フェルズ様はこちらでお待ちください。ジョウセン達には捕虜たちの様子を見た後はこちらに来るように伝えてあります。キリクが外に出ても入ってこないのであればまだ戻ってきてはいないのでしょう」
俺の言葉にイルミットではなくリーンフェリアが提案してくる。
いつの間にそんな段取りを整えたのか……リーンフェリアも中々やるな。
「そうか……ではここで待つとしよう。リーンフェリア、お前も座れ」
「ですが、私は護衛なので……」
「良い。この村で俺が襲われるようなことはあるまい。休める時に休むのも騎士として重要な勤めだぞ?」
「……畏まりました。失礼いたします」
そう言って近くの椅子にリーンフェリアが腰を下ろす。
「ところでイルミット、視察の前に聞いておきたいのだが、この村に提供した種の様子は知っているか?」
「はい~、経過は順調、全ての種が芽を出したと聞いております~」
「ほう?全ての種がか?」
「はい~、全ての種が問題なく~」
「ふむ……全て芽吹くとは予想以上の成果だな」
俺の言う種というのは、城の倉庫に保管してあった植物の種で、特殊な野菜や果物を収穫する事が出来るものだ。
レギオンズでは、自国の街や村から一月毎に魔石とは別に特産品というアイテムを得る事が出来るのだが、小さな村や町には特産品が設定されていない場所もあった。
そんな地域に植物の種を渡すと特産品として設定され、毎月収穫物が納品されるようになるのだ。
食堂で食べる食事は使う食材や料理によって効果が変わり、特産品を食材に用いた場合、ダンジョンで取れる食材には劣るモノの、魔石で購入した食材とは比べ物にならない程、効果の高い支援効果を受けることが出来るようになる。そして何より、ダンジョンで取れる食材とは違い、毎月定期的に納品されるので、気軽に使えつつ効果も高めと、特産品は至れり尽くせりのアイテムと言えた。
しかし勿論欠点もある。
それは、一つの村落に設定できる特産品は一種類のみということ。
トマトを特産品としている村にかぼちゃの種を渡すと、何故かトマトの生産を止めてしまうのだ。正直そこは両方作れよと思ったけど……そういうシステムなのだから仕方ない。
しかしゲームだからこそという部分もある。
土壌を選ばず、季節も選ばず……毎月収穫可能なのだ。
因みに病気や虫害も無く、豊作も無ければ不作もない。
種を渡せばバンバン採れるのである……これを試さない訳にはいかない。
勿論、俺はここを現実と認識して行動をしているので、食材を毎月収穫可能とか土壌も季節も選ばないとか……そう言ったことが起こるとは考えていない。
考えてはいないがとりあえず実験が必要と思い、この村に特産品の種を五種類程渡してみたのだ。
渡した種は……トマト、カボチャ、ネギ、ピーマン、イチゴ。特にラインナップに理由はない。適当に目に付いた物をと言った感じだ。因みに俺はピーマンは好きではない。
どれがどの季節の野菜かは正直知らないけど……多分別の季節の野菜が混ざっている筈……だから同時に芽吹くとは思っていなかったのだけど……どうやらレギオンズ産の種は季節を無視して生えて来るらしい。
「まさか、一つの村で特産品を五つも同時に栽培できるとは思いませんでした~」
「そうだな。どれか一つでも芽吹けばと思っていたのだが、まさか全てとは予想以上の成果だ。それに季節も何も関係なしか……後はどのタイミングで収穫できるか、連作被害等は発生しないか等、長期的に観察していく必要がある」
もしゲームと同じように毎月、豊作も不作も無く一定量が収穫出来たりすると……エインヘリアは農業大国になるかもしれないな。
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