二章 王国と戦争をする我覇王
第34話 熱くなる
「……ダメか。どうやっても強化画面を開くことは出来ない」
先日の戦争から数日、俺は玉座の間でどうにか強化画面を開くことが出来ないか色々挑戦していた。
玉座に座りメニューと言ってみたり、強化と言ってみたり、設定と言ってみたり、玉座に何か仕掛けが無いかと探ってみたり、踊ってみたり……etc。
しかし今の所全く芽は出ておらず、偶に玉座の間に来るうちの子達に愛想笑いを返す日々……そろそろ諦めた方が良いのかしら?
いや……でもなぁ、強力な人材はキャラの新規作成や強化に頼るのが一番楽……勿論この世界にも優秀な人は沢山いるのだろうけど、自分でステータスを設定した子と比べると色々やりにくいんだよな。
エディットした子達なら得意不得意がはっきりしているし、才能とか見抜く必要ないし……後、忠誠心バリバリ高いし……。
いや、まぁ、うちの子達が絶対裏切らないって訳じゃないと思うけど、よっぽどおかしな真似さえしなければ大丈夫……だといいなぁ。
おかしな真似と言えば、この前玉座の間で何とかメニュー画面を開けないかと色々苦心していた際……こう……VRゲームとかでよく空中を指で操作する……的な表現があるじゃない?それを試してみたと言うか……何もない空中を指でなぞっていた所をカミラに目撃されたんだよな……。
超恥ずかしかった……まぁ、幸い覇王の微笑によって事なきを得た訳だが……玉座の間は扉に鍵を掛けられないから、こそこそ妙な事をやるのには向いてないよな。
とは言え……能力強化はこの先必ず必要になる筈だ。
子爵から色々と情報を聞いているが、この世界には英雄と呼ばれる存在がいるようだ。
彼自身は英雄を見た事は無いらしいが、その配下がかつて戦場で目にしたことがあったらしく、ジョウセンの強さはその英雄に勝るとも劣らない物だったと称していた。
……マジで?そんな強い奴がこの世界には居るの?ジョウセン並み?いや、あの時のジョウセンは別に全力だったわけじゃないけど……それでも重装備の兵士を吹っ飛ばすくらいの事をやってのける人物がこの世界に存在するというのは、油断のならない話だ。
だから何とかして強化、それからうちの子達の能力の確認……可能であれば、この世界の人物の能力も確認出来ればかなり助かる。
そうわけで、なんとかゲーム時代のメニュー画面を開けないかと頑張っているのだが、今の所うんともすんとも言わない。
やはり『鷹の目』の様に、アビリティでそういった物が存在していないとゲーム的な機能を使うのは無理なのかもしれない。
もしそうだとすると、新規キャラの作成や強化は不可能という事に……いや、まぁ、ゲームの時みたいにさくさくターンを進めて魔石を確保。それから強化に励むって方法は使えないから、仮に強化をするにしても、カミラみたいにずば抜けた性能を持った強さのキャラを作るのは無理だろう……だが、強敵が現れた時に何かしら対抗手段を持っておくのは大事だ。
故に今日も今日とて玉座の間で奇行に励んでいるのだが、成果は全く無い。
俺は玉座から立ち上がり、十数歩前に進んでから振り返る。
ゲーム画面の玉座の間では、確かこのくらいの距離から玉座の方を見る形で背景が描かれていた。
今まで必死にメニュー画面や強化画面を呼び出そうとしていたが、ここはアプローチ方法を変えてみるべきかもしれない。
そう……今までの俺は恥じらいも多く……こそこそと、さも悪事を働く小悪党が如く実験をしていた。しかし、我覇王ぞ?もっと堂々と行くべきではないのだろうか?
俺は広げた掌を斜め上に掲げつつ、はっきりとした声で宣言するかのように声を出す!
「開け!メニュー!」
玉座の間に俺の声が木霊する。そして、残念ながらメニューは表示されていない。
くっ……!恥ずかしい!
いや、待て!ここで恥ずかしいと感じるのは真剣さが足りないからでは無いのか?
フェルズ。覇王フェルズよ。お前の中の覇王とはその程度の物なのか?違うだろ?もっと行けるはずだ!気合いだ!気合いを入れろ!もっと……もっと熱くなれよ!
「……開けメニューよ!我に力を!!」
「フェルズ様見つけたの!」
「ぴょ!」
突然聞こえた女の子の声に、変な声が出てしまった。
これはマズい!覇王的にかなりマズい事態だ!
いや!落ち着け!色々聞かれてしまっている可能性は否定できないが、ここは俺の覇王力で押し切るしかない!
そう決めた俺はゆっくりと振り返る。
そこには赤髪のローブを着た少女が立っていた。
「マリーか。どうしたのだ?」
「フェルズ様!探していたの!あ、マリーが探してたんじゃなくって、リーンフェリアちゃんが探してたの!」
「リーンフェリアが?」
「そうなの!そろそろ、お出かけの時間だけど、フェルズ様がいないって言ってたの!」
「もうそんな時間だったか。マリー手間を掛けさせたな」
「大丈夫なの!」
一点の曇りのない笑顔を見せるマリー。俺はそんなマリーの頭を軽く撫でながらアビリティ『鷹の声』と『鷹の耳』を起動する。
「リーンフェリア、聞こえるか?」
『はっ!フェルズ様!聞こえております!』
「もう既に全員揃っているか?」
『はっ!問題ありません』
「ではこれよりそちらに向かう。マリーが迎えに来てくれたからな、迎えは必要ない」
『承知しました。お待ちしております』
リーンフェリアの返事を聞いてから、俺はアビリティを解除する。
うぅむ……アビリティや魔法、スキルは何の問題も無く使うことが出来るのにシステムメニュー系は使えない……フェルズの身体に内包された能力じゃないからなんだろうけど……。
軽くため息をついた俺は、意識を目の前に居る少女に戻す。
「はわわわ」
「どうした?マリー」
何やらはわわ言っているマリーの顔を覗き込むと、マリーの緑色の瞳がぐるぐると落ち着きなく回っていた。
「な、ななな、何でもないの!前、エイシャちゃんが言ってた意味が分かったの!フェルズ様は凄いの!」
「……そうか」
いや、全く分らん!
まぁ、元気そうだしいいか……リーンフェリア達を待たせているようだし早く行かないとな。軽々しく謝れない覇王は日本人的にちょっと面倒。
「マリー、リーンフェリアの所まで案内を頼む」
「は、はいなの!」
俺が頼むと、マリーが先導して歩き出す。
その小さな背中を見下ろしながらふと思う……こう見えてマリーはメイン戦闘系のキャラの一人なんだよな。
ゲームだった頃は、ロリっ子は可愛くて強いとか無敵だわーくらいのノリだったけど、こうして現実となり、しかも圧勝だったとは言え戦争というものを経験した身としては……強いからと言ってもこの子達を戦争に出すのは、相当抵抗がある。
エイシャやマリー、それに他にも数人そんな子達はいるが……うん、やはりこの子達は戦争以外で働いてもらうとしよう。本人達に確認を取ったら喜んで戦争に行きそうだけど……俺の心情的にやはりそれはノーだ。
キリク達に編成を任せることもあるだろうから、その辺を言っておく必要がある……どう伝えるべきか少し考えないとな。
ゲーム時代はがんがん最前線に行っていたわけだし……それなりの理由を考えないとマズいな。
そんなことを考えながらマリーの後ろを着いて行くことしばし……リーンフェリア達の待っている部屋に到着した。
「待たせたな」
「いえ、問題ありません。マリーご苦労様」
「はいなの!」
マリーの元気な声を聞いて、俺はマリーに玉座の間での奇行を誰にも話さない様に釘を刺してないことを思い出した。イカン……ぽろっと色々な相手に漏らしそうな気がする。
「マリー」
リーンフェリアに労われた後、この場から下がろうとしているマリーを引き留め、頭を撫でつつ声を掛ける。
「先程の玉座の間での事は秘密だ。良いな?」
「は、はいなの!秘密なの!」
うん、声がでかいよ?まぁ、こう言っておけば多分大丈夫だろう。
俺は部屋から出て行くマリーを見送った後、待っている皆の方に向き直る。
「では、行くとするか」
悪びれずに俺はリーンフェリアに声を掛ける。若干リーンフェリアがそわそわしているような気がするが……もしかしたら予定の時間をかなりオーバーしているのかもしれないな。
これから向かうのはいつもの村だ。一緒に行くメンバーは、リーンフェリアとイルミット、それにウルル、ジョウセン、そして後二人……。
「カルモス達はうちに来て初めての外出になるな」
「はっ!陛下のお供をさせて貰えるとは、光栄の極みです」
カルモス=フィブロ=ヨーンツ。
元ルモリア王国の子爵で、ヨーンツ領の領主だった男だ。因みにもう一人は、彼に仕えていたハリスという騎士だ。
二人は俺達の軍門に降ることを決断し、今日は俺の配下になって初めての仕事となる。
「ははっ!カルモスは堅いな。危険は無いから気を楽にしているといい」
「はっ!ですが……その、転移といいましたか?城に来る時に一度体験しましたが……本当に不思議なものです」
「ふむ。ルモリア王国には存在しないのだったな。今後は転移できる場所がどんどん増えて行くからな、どんどん便利になっていくぞ」
「……素晴らしい話です」
真剣な表情で頷くカルモスに俺は軽く笑みを見せた後、部屋の中央に置かれている装置……魔力収集装置の大元となっている装置へと近づく。
今回俺が村に向かうのは、村の様子を見ることが一つ、村の様子をカルモス達に見せることが一つ、村の近くで捕虜となっているカルモス達の兵の所に二人を連れて行く事が一つ。
以上の三つが目的となっている。
はっきり言って俺が行く必要は全く無いのだが、ここ数日城に籠っていることもあり、気分転換も兼ねて外に出たかったのだ。
「ジョウセン、カルモス達の護衛は頼んだぞ?」
「御意にござる!」
カルモスとハリスの二人は村と兵の様子を見た後、領内を侵攻中の軍に合流してもらう予定となっている。
最寄りの街は戦争の様子を見ていた商人からの情報が届いていたらしく、キリクの編成した侵攻部隊が街に近づいた時点で門を開け放ち降伏の意を示した。
その街にはキリクとアランドールが既に入っており、魔力収集装置の設置も始まっている。
あと数日で設置は終わるのだが、既に侵攻部隊は他の街に向かっており、どんどん支配領域を増やしているらしい。
まぁ、魔力収集装置の設置が間に合っていないけど……開発系の人数が足りてないんだよな。
支配下に入った以上、街の住人を守らないといけないのだが……魔力収集装置の設置が間に合わないと即応が出来ないんだよな。
戦争中なわけだし、転移で兵を派遣出来ないのはかなりマズいし……俺もキリクのいる街に行ってその辺の話をした方が良いかもしれない。
いや、キリクがその辺を考えていないとは思わないのだけど……念の為……そう、念の為確認をしておいた方が良いだろう。
そんなことを考えつつ、俺は村への転送を開始した。
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