第32話 これが覇王の生きる道
「え、エインヘリア王。先程……城を建てているとおっしゃいましたか?その西の平原に城を建てているのですか?」
先程までの真っ青を通り越して、顔色を真っ白にした子爵が、震えながら問いかけて来る。
うむ……ぶっ倒れるかもしれないけどとりあえず否定しておこう。
「いや、建設中という訳ではないぞ」
「そ、そうですか……よかっ……」
「もう既に完成しておる」
「たっ!?」
案の定言葉を失う子爵。このまま行くと顔色が透明になりそうだな。
「我々の城は既にあの地にある。といっても別にあそこで建てたわけでは無いがな」
「……建てた訳では無いとは……?もしやあの地には昔から城があったと……?」
深刻な表情をしている子爵……余程西の平原というかドラゴンが怖いんだな。
「あの平原はそれなりに調べたが、俺達の城以外に人工物は見かけなかったな。そしてあの城は初めから俺達だけの城だ。既にそこにあった城を占拠したわけでは無い」
「お、お待ちください。エインヘリアという国は、昔からあの平原にあった……そういうことでしょうか?」
混乱しながらも子爵は絞り出す様にしながら問いかけて来るが、当然俺はその言葉を否定する。
「そういう訳ではないが……何にせよ、我等の居城は西の平原にあり、我等のいる場所こそがエインヘリアよ」
詳しく説明してもいい気はしたけど、覇王的に、よく分らんけど突然ここに来たってのはちょっとイマイチな気がする。故にここはそれっぽい感じで押し切るに限る。
「ドラゴンという災厄に近隣諸国さえも巻き込むのですぞ?」
「ならば聞くが。お前達は他所の国からそこに城を置かれては迷惑だと言われれば、遷都するのか?」
「そ、それは……」
「同じことだ。例えどのような土地であろうと、俺がいて、俺の城があり、俺の部下達がいて、俺の民がいる。そこがエインヘリアだ。高々蜥蜴程度に遠慮して、城を放棄するなぞありえない」
「……」
俺の説得は無理だと思ったのか、がっくりと項垂れる子爵。
まぁ、俺が王である以上、俺の言葉が正しい筈だ。子爵がそれに口拒んだところで意味は無い。
例え自領がドラゴンによって焼き尽くされる未来が見えていたとしても、子爵は既に完膚なきまでに叩きのめされた後なのだから。何をどうしても意見を通せる立場にはない。
もはやどうすることも出来ないと悟った子爵は、再び顔色を悪くしながら老け込んだ。そろそろ子爵も限界っぽいし、今日の所はこの辺にするか。
「子爵も随分と疲れたようだな。今日の所はここまでにしておこう」
「……私の……」
俺の言葉に反応したのか、子爵が力なくぽつりと呟く。
「ん?」
「……私の部下達は、どうなりました……?」
「キリク、答えてやれ」
「はっ!」
答えてやれって言ったけど……よくよく考えてみれば、キリクが把握出来ているのかしら?確かさっき、イルミットがリスト作成中って言ってたけど、その内容をキリクが把握しているとは思えない……無茶ぶりが過ぎた?
「敵軍千五百の内、死者は三十。負傷者は大小合わせて五百。残りはほぼ軽い打ち身や裂傷等です。指揮官は隊長以上は全て捕縛済み。捕虜の数は千四百。全員武装解除して、百人単位で簡易施設に輸送しております」
流石キリク、眼鏡は伊達じゃない。今度からさすキリって言おうかしら?
「捕虜千四百……」
子爵がぽつりと呟く。ふむ、死者三十か……ジョウセンが派手にぶっ飛ばしていたから、もっと死人が出ているのかと思ったけど、意外と少ないな。派手に吹っ飛んでいたように見えたけど、思っていた以上に敵兵が頑丈だったのか、それともジョウセンがしっかり手加減したのか……。
まぁ、何にしても圧倒的な実力差があったからこそ、それだけの捕虜を取れたんだろうね……敵軍の九割以上捕虜にしてるし……。
子爵が茫然としながら呟いているのも、捕虜の多さによる物だろう……多分。
「捕虜にした兵達は簡易施設に収容。指揮官クラスに関しては、準備ができ次第移送する予定です」
簡易施設とは言っているが、村の近くに粗末な塀を作っただけの吹きっさらしな収容施設なので、碌な物ではない。まぁ、しっかりと見張りは着けるから、逃げ出したりは出来ない筈。
村の近くに置いたのは……魔力収集できるかなーというみみっちい考えからだ。村人的には勘弁してくれって感じだろうね。
そんな事を考えつつ、ジョウセンに視線を向けると、ジョウセンは何も言わずに子爵に近づく。
一瞬ジョウセンの方に顔を向けた子爵は、力なく立ち上がり苦渋に満ちた表情で口を開いた。
「……エインヘリア王。敗軍の将でありながら、傲慢な願いを口にすることをお許しください。どうか……どうか我が領民達をお救い下さい。何卒……何卒……」
「いいだろう。まだ正式に我が民という訳ではないが、何者からも守ってやろう。当然、我等は絶対に無体をせぬと約束する。多少噛みつく程度であれば優しく言い聞かせるくらいですませてやろう」
俺の言葉に頭を下げた子爵が、ジョウセンに連れられて天幕から出て行く。
それを見送った俺は早速キリクに指示を出す。
「ヨーンツ領内に魔力収集装置を設置する。子爵は既に反抗する気はないだろう。街を支配下に入れる際、面倒になりそうであれば代表と子爵で話をさせろ。それでも恭順を示さぬようであれば武力を見せるしかないが、極力平和的に進める様に。子爵の護衛にはジョウセンを着けろ」
「子爵に現地勢力との交渉をさせるのは、些か危険ではありませんか?」
「問題ない。裏切るようならそこまでの人物だったということだが、恐らく子爵は裏切らん。というよりも、我等の城が西の平原にある以上、ドラゴンの逆鱗を撫でているような物らしいからな。民の事を重んじている子爵は、たとえ我等が原因であっても我等の戦力に頼るしかない」
と思う……。
ってか、自信満々にドラゴンとかただの蜥蜴って言ってみたけど、この世界のドラゴンがスッゴイ化け物って可能性もあるからな……。そもそもドラゴンなんてファンタージ生物、ゲームとかでしか知らん。とりあえずあれだ、斬って血が出るようなら倒せるだろう。
まぁでも、一昼夜で幾つもの街を滅ぼしたって表現程度なら何とかなりそうな気がする。国が一撃で亡びる程の超火力みたいな物は持ってないってことだし……街や村が消し飛んだとも言ってなかったしね。
一日でいくつもの村や街を滅ぼすくらいだったら、うちの子達でも可能だし……多分平気平気……だといいなぁ。
でも、うちの城とか壊されたらもうどうしようもないよな……その時は、うーん……本拠地機能、特に魔石を得る機能を、別の場所に移転させられないかオトノハに相談しておこう。
城の各設備が使えなくなるのは痛いけど、最悪魔力収集装置と魔石を作る機構さえ残っていれば何とかなる。
「畏まりました。今回戦場で使った兵と、後方に控えさせていた後詰から遠征軍を出してもよろしいでしょうか?」
「任せる。だが遠征の将からカミラは外しておけ。それ以外の編成は任せる。捕虜の見張りにも残しておけよ?」
「承知いたしました!」
まぁ、キリクなら捕虜の管理なんか言わなくても大丈夫だろうけど……こういった場合、覇王は口に出すべきなのか、それとも口を出さずに信頼するべきなのか……難しいな。
部下が気持ちよく働く環境としては、上は余り細かく口に出さない方が良いのだろうけど……でも心配だし……あぁ、これが口煩い上司の心境ということだろうか?
陰でアイツ細かくてうざい、言われなくても分かってるっての……とか言われてたらマジへこむ。
覇王、胃に穴が空きそう……。
因みにカミラを遠征軍から外したのは、ドラゴンが来た時カミラがいた方が頼もしいからである。
個人的にはジョウセンも居て欲しかったのだが、今回戦働きで大暴れしたジョウセンは、間違いなく子爵のトラウマになっている筈。「子爵は裏切らん」とか格好つけたけど、裏切られたらキリク達の心証を悪くするだろう。だからジョウセンという抑止力を護衛として傍に置いておくことで、子爵に迂闊な行動を取らせなくする……勿論、子爵を裏切り者と襲い掛かって来る奴から守るという点でもジョウセンは最適だろう。
まぁ、ジョウセンは物理最強といっても、カミラみたいに突出している訳じゃないから、他の子達でも問題ない。いや、そんな言い方はジョウセンに悪いな。
ひとまず、ドラゴンについてはウルル達に探させるとして……外交官の数がこのまま手を広げて行くと足りなくなりそうだな。魔石の確保に目途が立ったらメイド達の強化も試したい所だけど……新規キャラ作成と同じく、強化はどうやったらいいんだ?
ゲームの頃は……玉座の間で強化をしていたけど……城に戻ったら試してみるか。
魔石の確保、現地情報の収集、ゲームシステムの調査……後はルモリア王国との戦争。やることは山積みだな。
魔石の確保については……ルモリア王国をまるっと頂ければ不自由は無くなる。ってそう言えば子爵にヨーンツ領の人口聞き忘れたな。
まぁ王国全体で百万くらいなら十万もいないでしょう。子爵と話す前に、とりあえず毎月魔石百万稼げるようになればって考えていたけど、早めに達成できそうだな。ヨーンツ領だけでいくら行くか楽しみだ。
差し迫った問題は、ルモリア王国との戦争とグラウンドドラゴンとか言う奴だな。
子爵の雰囲気から察するにドラゴンの方が危険度は高そうだし、警戒は怠らない様にして……そろそろ飛行船を使うか?
いや、ドラゴンが空を飛ぶタイプだと危ないか……飛行船はただの輸送機だから、多分戦闘力は無いだろうし……まぁ、様子を見ながらだな。
戦争の方は……まぁなるようにしかならんだろ。王都で色々調べてくれている外交官もいるし、動きがあればすぐ対応できるはず。
……この世界に来て、訳も分からず、とりあえず覇王フェルズとして振舞っては来たが……俺は上手くやれているのだろうか?
今回、ついに俺は人の命を奪う命令を下してしまった。割り切ろうと決めたとは言え、思う所が全くないと言えば嘘になる。だがそれでも……俺は覇王フェルズとして生きていくと決めた。
迷いや不安はかなりある……だけど、それ以上に、俺は覇王フェルズでいることを楽しいと思っている。
この先どうなるかは分からない、俺の判断一つでとんでもない事態に見舞われるかもしれない。だが……。
俺は周囲に目を向ける。
リーンフェリア、ウルル、キリク……そしてこの場にはいないエディットキャラ……うちの子達がいれば、何があっても大丈夫と言う気がする。
俺はフェルズ……覇王フェルズだ。
何の因果か、覇王になってから異世界に来てしまった、ただのゲーマーだ。
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