第31話 いわくつき



 脅し過ぎたかしらん?


 この天幕に入って来た時はキリっとした感じの人だったのだが……今は十歳くらい老け込んで魂が抜けたようになってしまっている。


 いや、でも戦争吹っ掛けて来たのは……一応そっちですし?しかもそっちの王様唯我独尊って感じみたいだし?戦う以上負けてやるつもりは無いし?


 とは言え……これでほぼ次の戦争は確定だな。


 今後の方針を決める助けになればと思って話してみたけど、分かったのは戦争待ったなしってことだけだ。


 途中無駄に王権に対して喧嘩を売ったけど、俺偉そうな人とか嫌いだし……後はまぁ、俺の方針とは合わなそうだもんね。


 俺がうちの子達以外に求めることは、正直、産めよ増やせよくらいなもんだからね。


 自由に好き勝手に生きてくれればいいと思う。魔力収集装置のある場所で生活してくれれば俺は満足だしね。流石に犯罪の取り締まりくらいはするだろうけど。


 でもまぁ、あそこで王権に対してオラついたからこそ、最終的にお前らが仕掛けて来たんやん?って感じに持って行けたと思う。多分ね?


 いや、なんか調子こいて色々言ってたけどさ……俺がそんなの分かる訳ないやん?やっぱ、お偉方なんかと話をするべきじゃなかったかね。途中、今何の話しているんだっけ?みたいな感じがしてヤバかったし。


 ここからは少し世間話的なノリの情報収集をしたいけど……この人大丈夫かな?


 さっきまで魂抜けかけだったけど、今は完全に魂抜けてると思う……なんか目が虚ろだし。


「子爵。ルモリア王国にはどのくらいの民が住んでいるのだ?」


 聞こえているといいなぁ……。


「……あ、は……確か百万を超える民が国内にはいたかと……」


「ほぅ」


 思わずほくそ笑んでしまいそうなる情報だ……百万……つまり魔石一千万!ルモリア王国をまるっと頂ければ……それだけで左うちわ生活が……。


 もうこれ完結じゃね?覇王フェルズの物語終了じゃね?


 ゴブリンも探さなくていいし、もう妖精族とかも別にどうでもいい。


 まぁ、バンガゴンガへの義理もあるし、見かければ助けてあげるくらいはしてもいいけど……いや、まて、落ち着くんだ。


 問題は、どうやってルモリア王国の支配下にある村や街に魔力収集装置を置くかだ。


 まるっと頂くと言ったって……どうやって?


 ゲームじゃないんだから、村や街に攻め込んで、防衛部隊を倒したら拠点ゲットという訳にはいかないだろう。


 前回の村の様に、何か困っている事を解決してやる代わりに魔力収集装置を置く?


 悪くない手かもしれないけど、村ならともかく街レベルでそういうのは難しい気がする。


 うーん、王を倒せば国が俺の物になるとか、そんな分かりやすいもんじゃないだろうし……どうしたら?


 ってか、その前にルモリア王国との戦争が本格化するのか。流石に交戦中の相手国の要求を街や村が受け入れるとは思えないな……。


 いや、情報伝達が遅そうだし、意外とこっそりやればいけるか?結界装置付きの方なら置いたもん勝ちっぽい気もするが……。


 ん?いやまてよ。いっそのことゲーム的にいってみるってのもありか?


 今回の村くらいの規模であれば、千人も送り込めば、強引に言う事を聞かせることは可能だろう。仮に大きな街で、十万人規模の街があったとしても二、三万の兵を送り込めば相手の防衛部隊を倒して実効支配出来るはず。


 その後で魔力収集装置を設置……街の運営とかは元々その街を運営、管理している奴に任せればいい。


 俺達は別に、圧政を敷く者ではない。


 重税を課したり、労役を課したり、徴兵したり、女子供を奴隷にしたり……そんなことはしない。寧ろ健やかに生きて貰いたいし、どんどん住民を増やして頂きたい。


 精々特産品を少々納品して貰いたいくらいだが……それも俺達が消費する分だけでいいから大した量は必要としない。何だったら買ってもいいしね。


 この世界の通貨は、魔石でよろず屋から購入したものを転売すればいいだろう。それを使えば金はいくらでも生み出せる。消耗品系がいいと思うけど……既存の経済をぶっ壊しかねないから、その辺は詳しい人に相談が必要だな。


 後は……俺達の支配下となるなら、今までルモリア王国に収めていたであろう税金を廃止してしまっても問題ない。俺達にとって税に当たる部分は、住民たちから毎月得る魔力であり魔石だ。


 それ以外の物を要求する事は殆ど無い……街の上層部にとっては悪くない支配者と言えるんじゃないか?


 うむ、悪くない気がしてきた。


 最初は武力を見せつける感じになるが……黒船的な?だが、それ以上に色々な所を富ませることが出来そうな気がしてきた。


 勿論、現在の管理体制を引き継がせるとは言ったが、悪政を敷いていたような奴には退場願う……ふむ、こちらから代官を置く形にすればいいか。常駐する必要は無いが、定期的……いや抜き打ち監査みたいなことをすればいいだろう。


 お?なんかめっちゃうまくやれそうな気がしてきた。よしよし、この方針で進めてみよう。


「子爵。お前は確かこの地方……ヨーンツ領の領主だったな?」


「は……はい」


 なんか……最初の頃はハキハキしていたのに、めっちゃ歯切れが悪くなったな。


 まぁ、返事はしてくれているし、とりあえず聞きたい事を聞くか。


「ヨーンツ領にはどのくらいの民がいる?」


「……わ、我が民をどうするおつもりで?」


「別にどうするという程の事でもない。我々に攻めかかってきたのだから、当然逆に攻め込まれることも覚悟していたのであろう?とりあえず、子爵の本拠地……領都だったか?そちらにいくらか兵を送らせて貰おう」


「お、お待ちください!私が動かすことの出来る兵の殆どはこの戦へと連れてきました。領都を含め、ヨーンツ領には街を守る衛兵隊程度しか存在しておりません!もはや我等に……エインヘリアに抗える戦力はないのです!私はどうなっても構いません!ですから、どうか……どうか寛大なご処置を!」


「案ずる事は無い、子爵。俺は民を虐げる者ではない。大人しく我が傘下に加わるというのであれば、無駄な衝突は起きぬよ。あぁ、勿論子爵、お前の首を斬るつもりもない。」


「な!?私を生かすと……?何故そのような……」


「ん?おかしいか?」


 はて?殺す必要ってあるのかしら?総大将をやるくらいだからそれなりに能力はあるのだろうし……ゲーム的に考えると、領主だからどちらかというと政治とかが高いのかな?


 まぁ、何にしても俺はノッブの野望では極力敵将は斬らない。捕虜にして、配下にするか逃がすことが多い。あ、大名は配下にならない場合は首斬るけど……城主は寧ろ積極的に欲しい。逃がせば、またその内捕まえれるしね。


 勿論、有力武将を斬りまくって敵の戦力強化を邪魔するって手もあるけど……勿体ないじゃん?能力値高い奴は是非とも勧誘したい。


 まぁ……レギオンズは行動でルート分岐するから、泣く泣く敵将を斬った結果が今の俺なわけだけど……。


「戦を終わらせる為……旗頭を落とすのは戦の常では?」


「ふむ。だが、子爵を斬ったところで俺に何の得がある?俺はまだ子爵がどのような人物かは知らぬが……それはこれから知ればいいことだ。今斬ってしまっては、子爵の力を借りたい日が来たとしても、どうしようもあるまい?」


「……私を取り立てると……?」


「それは子爵次第だな。無理矢理従わせたところで意味は無く、子爵が俺に従う事にメリットを感じなければすぐに裏切るだろう」


「表向きは臣従したとて、面従腹背しておらぬとは言い切れますまい」


 まぁ、一番怖いのはそれだよね……ゲームと違って忠誠心って数字で見えないし……見えたら超楽なんだけど……。


 個人的にはさっきの街への方針とかと同じように、反抗するよりも従っている方がメリットが大きいって思わせるのが一番だと思うけど……損得よりも感情を優先する奴って結構いるからな……そういう奴らには気を付けないと。


 でもとりあえず、この子爵に関しては……。


「子爵、その言葉が口に出る時点で、一度臣従を誓えばお前は裏切るまい。誓わぬ限りは、勝てぬと分かっていても抗い続けそうだがな」


 さっきまでの話から察するに、国とか王とかに忠誠を捧げていそうだしね。それにしてもこの話を始めてから子爵の元気が戻ってきた気がするな……ちょっと若返ったかも。


「私はそこまで高潔ではありません。民の為ならば圧倒的強者に遜り、尻尾を振ることも辞さぬ所存です」


「俺達は圧倒的強者ではないと?何処からどう見ても遜っている様には見えぬが?」


 覇気を取り戻し、挑む様な視線を向けて来る子爵に俺は強者の余裕をもって問いかける。


「確かに、エインヘリア軍の強さは圧倒的でした。我等ヨーンツの兵では百度戦おうと千度戦おうと勝利を得ることは出来ますまい」


「ふむ……それで?」


 ですが、と言いたげな様子の子爵に俺は問いかける。


「ですが……」


 ほら言った!なんかこれ気持ちいいぞ?


「エインヘリア軍には致命的な弱点があるように思われます」


 じゃ……弱点か……何の事だろうか?めっちゃドキドキする。


 戦術が拙いとか……?いや、今回はしょうがないよね?ジョウセンの想定外の大活躍で、パワーオブジャスティスになっちゃったんだし。


「それは兵站です」


 ……兵站かぁ。


 致命的って言うからかなり焦ったけど……ふふん、我等のそれは問題にはなり得ないのだよ。


「エインヘリアという国がどこにあるのかは、失礼ながら存じておりませんが……遠征軍であることは間違いありますまい。であれば……手持ちの資源には限りがある事でしょう……何かおかしなことを言いましたか?」


 子爵が怪訝な顔をしながら問いかけて来る。まぁ、こらえきれずにニヤニヤしてしまったからな。


「いや、何もおかしなことは言っておらんな。物資の準備と補充に関しては何処の軍でも頭を悩ませるところだろう。それに疲労や怪我は人であれば避けられぬものだしな。兵糧に武具、各種消耗品……子爵も今回の戦に当たって随分苦労したことだろう」


「此度の戦はルモリア国内の戦。簡単に兵站を整えられるとは言いませんが、その補給線は強力です。いくら無敵の軍勢を揃えようと、人は食料や水が無ければ戦えないのです」


「……その通りだ」


 ……うちの子達はその事を知らなかったけどね。


 俺が護衛として傍に立っているリーンフェリアにちらりと視線を向けると、スッと視線を逸らされた。


 自覚があるようで何よりだ。


「だが、子爵。俺達の邂逅から既に一月が経過しているが。こちらが物資に苦労しているように見えるか?」


「そ、それは……」


 子爵は俺の言葉に、天幕の中にいる者達に目線を向ける。


 うちの子達は戦場とは思えぬ程清潔感のある状態を保っている。


 さっきまで戦働きをしていたジョウセンも同じ状態なのは、ちょっと俺も納得いかないけど……全員が汚れ一つない姿で健康状態も非常に良好だ。ちゃんとご飯を食べる様に指示を出しておいて良かった。


「我等に物資の枯渇があり得ないとは言わないが……まぁ、数年程度は何の問題もないな。兵糧攻めは我々には効かない。持久戦は望むところだな」


「……まさか、そんな……」


「そもそも、俺達は遠征軍ではないからな。本拠地はそう遠くない。子爵の領都よりもこの戦場に近いはずだ」


 領都までの距離は知らんけど……三十キロ以上はあると思う。最寄りの街が十二キロとかだったはずだし。


「……本拠地が……?それはあの村の事ではないと存じますが……南の森にあるのでしょうか?」


「いや、森ではない。ここより西に平原が……」


「っ!?」


 俺の言葉に子爵が血相を変えて立ち上がる。


 その動きにリーンフェリア達が一瞬反応を見せたが、俺の意志を汲んで、子爵を押さえつけるようなことはせずにいてくれる。


「ここより西の平原……グラウンドドラゴンの住処に拠点を!?」


「グラウンドドラゴンの住処?あそこにはドラゴンがいるのか?」


 ドラゴンか……レギオンズにもダンジョンに行けばごろごろいたけど、大体どんなゲームでも強敵だよね。子爵のこの様子から察するに、御多分に漏れずというか……この世界でもかなりアンタッチャブルみたいだ。


「あそこは我がルモリア王国だけではなく、近隣諸国全てで取り決めた禁足地!過去にあの地を開拓しようと幾度か人を送り込んだことがあります。ですが、そのいずれの時も入植した者達だけではなく、ルモリア王国の各地、場合によっては周辺国までグラウンドドラゴンによる被害が出ることがあったのです!」


 ふむ……以前の会議でキリクの言っていた、いわくってのはこのことか。祟りとかじゃなくて良かった……いや、ドラゴンも十分怖いけど……。


「そのグラウンドドラゴンというのはどの程度の強さなのだ?」


「記録には……一昼夜で幾つもの街や村が滅ぼされたと」


「ふむ……随分移動速度の速いドラゴンなのか?それともドラゴンは群れているのか?」


「ドラゴンが群れを成すなど……ありえない筈です。少なくとも記録には一匹のドラゴンとなっております」


「ドラゴン一匹にあの平原をくれてやるのは広すぎるだろう。それに一ヵ月はあそこで生活をしているが、襲われてはおらぬ。問題なかろう」


「何を言っておられるのですか!グラウンドドラゴンは迷信などではありません!確実に存在する脅威なのです!先程エインヘリア王は民を嘆かせることはないと、そうおっしゃられていたではありませんか!かのドラゴンによる被害は、戦争の一つや二つとは比べ物にならない物なのですぞ!?」


 子爵大興奮だな……まぁ、ドラゴンが暴れたらヨーンツ領が最初に大被害を受けるだろうし無理もないかもしれないけど……。


「落ち着け子爵。ルモリア王国……いや、ヨーンツ領がそのドラゴンに襲われるとしても、その前に実際に城を建てている我等の所に来るであろう。であれば問題ない、ドラゴンが姿を見せたのなら倒してしまえばいい」


「な、何をおっしゃっておられるのか……グラウンドドラゴンですぞ!?その辺の魔物とは訳が違うのです!人が抗えるようなものではありません!アレは天災と言っても良いものです!」


「随分詳しいな。見た事があるのか?」


「……実物はありません。ですがヨーンツ領はその場所柄故、多くの言い伝えや資料が残っているのです。あの地に入植した民や軍がどのような目に合ったか……ましてや城を建てる等……城?」


 自分の言った台詞にきょとんとした表情を見せる子爵。その表情は若干あどけなさを感じさせるものだ。


 老け込んだり若返ったり、忙しい人だな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る