閑章
第33話 仄暗い部屋の中で
View of ???
薄暗闇の中、複数の影が蠢いている。
それは人影。
だが、その誰もが一様に頭まですっぽりとローブを被り、更には顔に仮面を付けていて個人が特定できないようにしていた。
そんな怪しげな一団の中から一人の人物が前に出て、厳かな声で開会を宣言する。
「それでは定刻になりましたし『語る会』を始めます」
涼やかな声が薄闇に響き、ローブを着た人物達が拍手をする。
何について『語る会』なのか、彼らにとってはわざわざ言うまでも無い事なのだろう。
「では、まずは私から……」
開会を宣言した人物がそのまま続けて話をするようだ。
「今日のフェルズ様は食堂で『ビーフシチュー』を食べていらっしゃいました」
その人物の言葉に、仮面をつけた人物達から「おぉ」というどよめきが生まれる。
ここは覇王フェルズの住まうエインヘリア城。
城の主であるフェルズも把握していない集い……『フェルズ様について語る会』である。
「ビーフシチュー、以前はあまり気にしていなかったけど、あたいも好きだな」
「フェルズ様もおいしそうに召し上がられていました」
「食事ねぇ、これも以前との違いということかしらぁ?」
「そうですね~御飯が美味しいなんて~素晴らしい発見ですよね~」
「そうだな。しかも食べないと活動に支障をきたすとは……フェルズ様に指摘された時は驚いた物だ」
「
「それは私達の知れることではないが……少なくとも数年、いや十数年先を見据えて動かれているのは確かだな。それはあの戦乱の頃から変わってはいない」
「……フェルズ様は……凄い……今も……昔も……」
「昔の大将も勿論凄かったけど、最近の大将の発想には驚かされるばかりだよ。開発部長……あ、こほん!開発に携わる人間として情けない限りだけどね」
「そういえばぁ、開発じゃないけど召喚兵の新しい使い方を試していたわねぇ」
「あ~あの村で行っている施策ですね~。面白いですよね~召喚兵に戦う以外の事をさせるなんて~」
「フェルズ様は人手が足りないと考えられているのかもしれん。至らぬ我が身を恥じるばかりだ」
「あー、色々足りてないってのは確かにそうなんだろうけど……大将は新しい事を試したいってのが大きいんじゃないかな?勿論、あたい達がもっと頑張る必要はあるんだろうけどさ」
「
「お役にって言えばぁ、最近フェルズ様が玉座の間で難しい顔をしている事が何度かあったわねぇ」
「それは私もお見かけしたことがある。しかし、私が近づくと何でもないとおっしゃられていたな。気にはなっていたのだが……お前も見ていたのか」
「えぇ……私の時も近づくと笑みを浮かべながら何でもないと言われていたわぁ……んふっ」
「ど、どうしたのだ?急に気持ち悪い笑い方をして」
「失礼ねぇ……ただ、あの時のフェルズ様、少し可愛らしかったのよぉ」
「「!?」」
「何か慌てていたみたいだったしぃ。ふふ、フェルズ様はいつも凛々しいけどぉ、最近、偶にあんなお顔をされることがあってたまらないわねぇ」
「「……」」
「そうそう、りーん……貴女もみたことあるでしょう?」
「わ、私がか?そのようなお姿、見た事は無い。自慢か!?」
「違うわよぉ。ほら、こっちに来て最初の会議の後のぉ……訓練所でぇ」
「あ……あぁ!見た!見たぞ!あの時は色々と動揺していたこともあって色々記憶が曖昧だが……始めてフェルズ様が魔法を放たれた時だな!?」
「そうそう!何時も超然とされているフェルズ様がぁ、一瞬、子供の様に目を輝かせたわぁ。アレは反則よぉ」
「分かる!分かるぞ!あのお顔を見た瞬間、胸がぎゅっとなった!眼福と言うよりほかなかった!」
「「……」」
「……私も……見た。アレは……良い物……」
「む?そうなのか?」
「アランドールに……言伝した後……急いで戻ったら……見れた……とても良かった……」
「本当よねぇ」
「「……」」
「ん?どうしたのだ?お前達」
「……あ~思い出したわ~。それってあの時よね~、発情した猫二匹がフェルズ様に着いて行ったら~訓練をご所望だったっていう~」
「「ぐっふぅ!」」
「あぁ、そのような事もありましたね。
「「……」」
「確かに……あの時の二人は……ちょっと恥ずかしがってた……かも?」
「「……」」
「あー、まぁ、アレだ。最近大将は雰囲気が柔らかくなられたって言うか……以前よりも人間味が増したって言うか、そんな感じがしないかい?だから二人も少し……誤解しちまったんだよ」
「それは~確かにそうかもしれませんね~以前はもう少し~冷徹といいますか~」
「……全てを見通し、最善の手を打ち続ける。戦において常勝無敗……大陸を統一し、魔王を打倒し……その上、誰もが予想どころか想像すらしたこともないような敵、邪神の襲来すらも読み切っていたかのような差配。あのお姿こそ正に神……邪神などというまがい物とは一線を画した存在!無謬の楽土を築きし至高の存在にして真の
「う、うん。まぁ、あたいもそこまでじゃないにしても……以前は大将の言う通りに動いておけば何も問題ないって思っていたよ。実際そうだったしね……でもだからこそ、侵しがたいというか、傍に居る事すら憚られると言うか……」
「そうですねぇ~その気持ちは分かります~」
「だからって訳じゃないんだけどさ。最近の大将は……なんか……いや、前と変わらず凄い御人な事には違いないんだけど……」
「えぇ~わかりますよ~。完璧で超越した存在であったフェルズ様が~かつて押し殺していたであろう人としての温かみや優しさを見せる様になって~女が疼いてしまったと~」
「生々しいよ!」
「違うのですか~?」
「……」
「抱かれたいのですよね~?」
「え、エイシャ!じゃなくって……お前はさっきの感じからすると前の大将の方が良かったのかい?」
「……?何をおっしゃっているのですか?
「そ、そっかー」
「……ですが」
「ん?」
「……最近の
「……へぇ」
「……それがとても気持ちよくて……嬉しくて……」
「「……」」
「あたい……心が洗われるって感覚を初めて味わってるよ」
「私は目が潰れそうですね~」
「飾らない想いというのは微笑ましい物だな」
「そうねぇ……根っこは狂信者ちっくなのに、ギャップよねぇ」
「……チッ……私は、何故女人ではないのだ」
「「……」」
「……」
「今、変な声が聞こえなかったかしらぁ?」
「奇遇だな。私も聞こえた気がする」
「気のせいじゃないか?私には何も聞こえなかったが」
「「……」」
「なんでお前がここに居るのだ?」
「……何を言っている?ここは素性を明かす必要のない集まりだろう?居て何が悪い」
「それは建前だしぃ……そもそもみんな誰が誰かなんてわかっているでしょぅ?」
「その建前がある以上、私がここに居ることに何の問題がある」
「「……」」
「ここは女子の集まりではなかったか?」
「私はそう聞いているわよぉ」
「ふん……何を今更。少なくともお前は女子ではないだろ?性別は女ではあるが」
「最後の言葉はそれでいいな?」
「落ち着きなさいよぉ。二十代前半はまごう事無き女子よぅ」
「……お前にもいずれ分る時が来る。この複雑な想いがな!」
「わ、私は既に大人の女よぅ」
「まぁ、子供であろうと大人であろうと、フェルズ様の興味は一ミリたりとも引けていない様だがな」
「「……」」
「あら~?そんなことはないわよ~?」
「どういうことだ?」
「女の子は~自分に向けられる視線には敏感ってことよ~少なくとも~フェルズ様が私達に興味を一ミリも抱いていないとは言い切れないわ~」
「くっ……妄想の類ではないのか?不敬な!」
「フェルズ様にそちらのケはないみたいだし~貴方は一生感じることの出来ない視線よ~。汚物を見るような視線は慣れているでしょうけど~」
「……」
「……なぁ、大将の前ではポヤポヤしている癖に、あの娘一番黒くないかい?」
「まぁ、強かだからこそフェルズ様も内務を任せているのだろう。そうでなければ内政を取り仕切るなぞ出来るはずもない」
「色々な意味で敵に回したくないわねぇ。気付いたら棺桶に入れられて生き埋めにされてそうな怖さがあるわぁ」
「聞こえていますよ~?」
「ふ、ふん。貴様らはそうやって一生暗闇で盛っているがいい!私はフェルズ様と視界を共有する仲。あぁ……あの一体感。フェルズ様の中に溶け込んでいくような、幸福感!思い出すだけでもう……あ、あ、あぁぁ!」
「「キモイ、死ね!」」
城の主も知らぬエインヘリア城の闇の中。
姦しい声が響くこの部屋で、お互いの素性を探るのは御法度。
身分を気にせず、誰が誰とも知らず自由に語り合う桃源郷。
今宵の参加者もお互いの事は一切知らない、自由な会合である。
ただ一つ。会合の内容に関してだけは今後も揺らぐ事は無いだろう。
「……フェルズ様の……最近の流行りは……食後のプリン……」
「まぁ、でしたら私も明日からプリンを食べることにします。全ては
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