第28話 開戦からの

 


「舌戦というのだろうか?この辺りでは開戦前にあのような作法があるのだな」


 俺はつい先ほど行われた向こうの軍からの降伏勧告について、隣にいるキリクに意見を聞いてみる。


 俺が知らないだけで、レギオンズにもそういう物があったかもしれないからな。なんか、各国の王とか主要キャラとかと初めて戦場であった時、会話イベントみたいなのが発生することもあったし……それが先程相手方がしてきた物と同じ役割なのかもしれない。


「戦いを前に将が名乗りを上げ、わざわざ降伏勧告をしてくるとは予想外でした。どんな意味があるのか調べておく必要があるかもしれません」


 うん、違ったみたいだ。とは言え、キリクの言う通り調べておいた方がいいだろう。


「戦後の禍根を減らすためにも調査は必要だな。それに、戦争に一定のルールがあるかも知れぬ。その辺りを調べる為にも、将の類はなるべく捕虜にしなければな」


「戦争にルールですか?」


「まぁ、仮の話だ。もし戦争に一定のルールがあり、それに違反した場合、周り全てが一斉に敵になる。そういう国家間での取り決めがあるかも知れない、という話だ」


 暗黙のルールならともかく、国際条約とかで明文化されていたりすると違反すると制裁が怖いからね……まぁ、経済制裁くらいなら俺達には問題無さそうだな。


 連合軍とか包囲網とかも……なんだかんだで何とかなるかも知れない。戦線の拡大や食料の不足等の問題は、俺達には無縁な物だ。魔力収集装置による転移、それに魔石を使った物資の確保に兵の補充。魔力収集装置と魔石、この二つさえさえあれば大抵のことは何とか出来る。


 兵站について、以前アランドールに考える様に命令してたけど、普通の軍とは比べ物にならないくらい軽い荷物で済むからな。三万人の軍で必要な食料が三人分で済む軽さだ。しかも移動は最寄りの自軍拠点までは一瞬で転移出来て、徒歩の癖に時速三十キロで行軍しても問題ない。


 召喚兵はいくらやられても翌週には再召喚可能だし、現時点で兵力は一億近くある。


 まぁ、一億を削り切れる様な相手が居るならどうしようもないが……相手はこちらと違って生身だ。怪我から復帰するのも簡単な話ではないだろうし、死ねばそこで終わりだ。


 因みに、召喚兵は倒されても一週間後に呼び出せるようになるが、倒されなくても一週間で消えてしまう。そして一人の将が呼び出せるのは一週間に一回だけとなっている。


 呼び出す数に関わらず週に一回だけなので、温存し過ぎてもダメだし多すぎてもダメだ。


 魔石ががっぽがっぽ手に入るようになれば気にならないだろうが、収入が少ない今、無駄は極力避けなくてはならない。っていうかレギオンズの序盤ってこんな感じだったよな。周回を重ねると、持ち越しの魔石で序盤を駆け抜けられるからあまり気にならなくなるけど。


 因みにこの一ヵ月でゴブリン達や支配下に入れた村から収入はあったが、まだ基本維持費だけを取っても赤字だ。


 最寄りの街にこっそりと魔力収集装置を置くことは出来ないかと考えた事もあったのだが、どうやら魔力収集装置は屋外に設置する必要があるらしく、適当に家でも買ってその中に設置するとかじゃダメだったらしい。


 窓開けてたらいけるんじゃね?と思ってオトノハに試させたのだが、やはり駄目だった。


 って思考が明後日どころか来週くらいの方向に飛んで行ったな。今はこっちに集中しないと……。


「まぁ、その辺の話はこの戦争を終えてからだな。今は我々のやり方で進めるしかない」


「そうですね。敵軍が動き始めた様です。しかし、随分と動きが遅いですが……」


 キリクの言う通り、敵軍が非常にゆっくりとした動きでこちらに向かって軍を進めて来る。


「騎兵が最後列?変わった陣形だな。横陣……いやファランクスか?」


 俺は視界を敵軍にズームして相手の陣形を確認する。


 最前面に大盾を構えた兵を置き、その後ろには少し小さな盾を持った者達が続いている。更に間を縫うように長槍を持った兵が等間隔で配置されているようだ。


 最前面の大盾が正面の攻撃を防ぎ、後列の小さめの盾が頭上をカバーして曲射される矢や投石を防ぐ。そして盾の隙間から長槍で攻撃するという陣形……だと思う。


「ファランクス……ですか?」


「あぁ。部隊一つ一つが盾で守られた小さな要塞みたいな陣形だ。相手の突撃を受け止め、矢を弾き、同時に攻撃をする。中々厄介な陣形だな」


 まだ正面以外の盾は構えていないけど、恐らく間違いないだろう。ってことは、後ろの騎兵は遊撃隊か。ファランクスでこちらの攻撃を受け止めて、その隙に騎兵が縦横無尽に駆け回ると……。


「我等の戦いでは見られなかった陣形ですが……流石はフェルズ様。そのような知識まで御有りとは」


「まぁ、古い文献で見たことがあっただけだ。因みに、あの陣には明確な弱点がある。機動性に欠けるので側面を突かれると非常に脆い。密集している上にあの長槍だからな、方向転換するだけでも一苦労だ。それを補うための後方に配置した騎兵なのだろうが……もう一つの弱点は致命的だな。キリク分かるか?」


「はい。範囲攻撃ですね?」


「正解だ。別名密集陣形とも呼ばれるあれは、範囲攻撃に非常に弱い。エリア系じゃなくても一部隊を丸々吹き飛ばせるだろうな」


「しかし、そんな致命的な弱点を放置したままとは……考えられるとすれば、魔法への対抗手段を持っているといった所でしょうか?」


 魔法への対抗手段か……それは考えつかなかったな。


「魔法への対抗手段か。俺達の常識で考えるなら装備かアビリティだが、彼らは召喚兵ではなく生身だ。兵士全員に魔法への対抗手段を装備させるのは中々コストがかかりそうだな」


 レギオンズの装備なら魔法ダメージを軽減、吸収、反射と言った三種類の対抗手段があるけど、どれも癖が強く、使い勝手が悪い。


 魔法ダメージ軽減は特定の属性を軽減するだけなので、違う属性には全くの無防備になる。


 吸収に至っては吸収できる属性以外のダメージが倍になる。


 反射はその名の通り魔法を跳ね返すのだが、回復もバフも跳ね返すのでこれまた使いにくい。


 はっきり言ってバランス悪過ぎであるが……レギオンズはどちらかと言うと攻撃偏重に設定されているようで、防御系の装備は総じて使い勝手が悪い。


 正直この辺の装備は、持ってはいるけど倉庫の肥やしだ。


 アビリティの魔法耐性はパッシブ系で、一度覚えれば永続的に効果がある。なので戦闘系の子達はほぼ耐性系のアビリティを覚えさせている。


「まぁ、何かしらの魔法対策があったとしても、今展開している魔法系の部隊はカミラだからな。反射無効や耐性貫通のアビリティを使えば問題なく吹き飛ばせるだろう」


 まぁ、未知の技術で魔法を防がれる可能性も十分あるけど、そんなことを言っていたら身動きが取れなくなるしな。


「とはいえ、今回の一番槍はジョウセンだ。相手の陣形との相性は悪いが、機動力があるからな。横から崩すとしよう……ジョウセン、準備はいいか?」


『はっ!勿論にござる!』


「よし、それではこれより我等の戦を開始する。先陣を切るのはジョウセン、お前だ。敵は密集隊形を取っている。これに正面からぶつかるのは、剣兵で構成されているお前の部隊では分が悪い。しかしこの隊形、側面からの攻撃には非常に脆いという弱点がある。お前は機動力を生かし側面から相手に一撃を加えろ。下がる時の合図を聞き逃すなよ?」


『委細承知!』


「カミラ、ジョウセンが接敵次第前進してもらう。ロッズ、リオ、カミラの守りを頼んだぞ」


『『はっ!』』


 ジョウセンに続き、その後ろに布陣しているカミラ達にも声を掛けた。


 ロッズとリオはそれぞれ槍兵と剣兵を率いており、カミラ率いる魔法部隊の副将に着けている。二人ともレギオンズ時代は戦闘部隊に所属しており、能力は一線級だ。


「進軍開始!」


『『はっ!』』


 俺の号令と共に、ジョウセンの部隊が進軍を開始する。


 その動きはじりじりと前進を続けている敵軍とは雲泥の差だ。


「それにしても、敵軍の動きは随分鈍いな。魔法はともかく、もう弓の射程には入っているだろうに、まだ何の動きも見せない」


「見る限り弓兵は盾兵の後ろ、騎兵の前に布陣しているようですが……弓を構える様子すらありません……何かの罠でしょうか?」


「あの進軍速度を見るに、こちらを警戒しているのは間違いないと思うが、弓すら撃ってこないのは……あぁ、こちらを呼び込もうとしているんじゃないか?」


「なるほど、呼び込んで殲滅……ということですね」


 ゲームでは釣り戦法と呼ばれる方法だな。防御力の高い兵を囮として使い、突出して来た敵を囲んで倒す。そうやって相手の兵力を削りながら戦線をじわじわと上げて行く。敵AIの賢さにもよるけど、基本的にどのゲームでも有効な戦法だ。


 そんな事を考えつつ、キリクと戦場を分析しながら話をしていると、ジョウセンと敵軍との距離がかなり詰まってきた。


「ジョウセン、速度を上げて側面に。そして出来る限り足を止めるな」


『承知!』


 返事と共にジョウセンの部隊が加速、一気に敵軍の側面に向けて移動を開始する。


 ゲーム画面の時よりも移動速度が速い感じがするな……相手の動きが遅いからか?


「カミラ、そろそろ出番だ。ジョウセンの接敵後、指定地点まで一気に移動しろ」


『了解よぉ』


 よし、カミラの方も問題ないだろう。敵軍の様子は……一気に進行方向を変え、側面に回り込もうとしているジョウセンの動きに動揺しているようだな。ゲームの時には敵軍の動揺なんて表現されていなかったけど……実際の戦場であれば仕方ないだろうな。


 ジョウセン達の移動速度は、俺達が初めて村に来た時よりも早い……、俯瞰視点な上、距離を測る様な物が無いから正確には分からないけど、時速六十キロくらい出ているんじゃないだろうか?相手の騎兵より速いんじゃないかな?


 このジョウセンの動きに敵が動揺しなかったら、逆に俺の方が動揺するね。


 しかし……こうやって俯瞰視点で戦場を見ていると、現実感が薄れるな。あまりいい傾向じゃない気がするが……いや、今は余計な事を考えるな。


 その余計な事を考えた一瞬で、ジョウセンの部隊は敵軍の側面に辿り着き、敵軍と激突!


 次の瞬間、三國〇双もかくやと言わんばかりに、敵軍の兵士たちが吹っ飛んでいく。


 ……はぁ?


 呆気にとられる俺を他所に、敵軍に食い込んだジョウセンの部隊は、そのまま敵軍前衛を蹴散らしながら移動を続け、あっという間に横並びだった敵軍の端から端まで突き抜けてしまった。


 俺の予定と違う……俺はこう……機動力に長けるジョウセンの部隊が敵の側面を突いて混乱させ、それと同時にカミラが進軍。所定位置に移動後、ジョウセンの部隊を一旦引かせ、カミラの部隊による魔法攻撃。相手の混乱を拡大した所で、ジョウセン、カミラの部隊で再び突撃。


 そんな流れで考えていたんだけど……もう敵軍の前衛、壊滅しちゃったな。


 敵軍の様子は……混乱というよりも茫然としている感じだな。まぁ、気持ちは分かる。さっき思わず覇王らしくない声を出しそうになったからな。


 っと、イカン。


 ぼーっとする前に指示を出さねば……しかしこの実力差は嬉しい誤算だ。自分達がある程度強者である自覚はあったが、ここまで圧倒的とは思わなかった。


 これだけの実力差ならば……作戦変更だ。


「カミラ、逃げられない様に敵軍の背後に壁を作れ。ジョウセンは敵後方の騎兵を中心に狙え!カミラの魔法に巻き込まれるなよ?後方で待機している部隊も突撃だ!一人も逃がすな!指揮官は必ず捕えよ!」


 本来、敵の逃げ道を完全に塞いでしまうと敵軍は開き直り、死兵となって最後まで抵抗を続けるので良くないとされているが、これだけの圧倒的戦力差だ。死ぬ気になったからと言ってどうにかなるものでは無いだろう。


 生身の人間が走行中の新幹線の前に飛び出す様な物だ。


「「はっ!」」


 俺の指示の直後、敵軍の背後に物凄い高さの炎の壁が出現する。これは……フレイムウォールじゃなくフレイムエリアか?


 フレイムエリアは戦争パート用の魔法で、本来は敵軍にダメージを与える物だが……リアルで見るとこんな感じだったのか。ダメージって言うか普通に一軍丸ごと焼け死ぬな。


 ゴブリンの集落で俺はこんなもの撃とうとしていたのか……エイシャがアドバイスしてくれ良かった……大火災になる所だったな。


 そんな暢気な事を考えていられるほど、突撃を開始した我が軍は圧倒的で、開戦から十分足らずで敵軍は壊滅。総大将を含む指揮官クラス十数名の捕縛に成功。


 我が軍の被害は皆無なれど敵軍千五百はその全てが倒れ伏し、後に残ったのは我等の旗のみである。


 ……どこぞの大本営発表でも、もう少し控えめだぞ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る