第16話 よぅじょこわい



 集落を焼き尽くし、何故か気絶していた狩人を起こしてしっかりと跡地を確認させた後、俺達は村へと戻った。


 思いのほか狩人の足が遅く体力が無かったり、気絶したりと予定よりかなり時間がかかってしまったが……まぁ、村には狩人を送り届けて村長に報告させればもう用事はないしな。


 この後はどうするかな?城に戻るか、カミラたちに合流してバンガゴンガ達を城まで送るか……覇王的には城に帰った方がらしいとは思うが、どうしたもんか……。


 そんなことを考えながら村の中に足を踏み入れたのだが……ん?


 何やら雰囲気が違うような……。


「フェルズ様……騎士と村長が……魔力収集装置のところで……揉めてる」


「騎士?揉めているとはどういうことだ?」


 騎士ってことは……ゴブリン討伐に来たってことだと思うが……何故揉める?


 折角来たのに他の奴に依頼したとかで揉めているとか?なんとなくだけど騎士ってプライド高そうだし……お前らの為に来てやったのにどういう事だ的な?


 いや、民の為に的な騎士もイメージ的にはありだが……そもそもそういうタイプなら揉めないだろうしな。


「ゴブリンの討伐を……フェルズ様に頼った事と……魔力収集装置を設置したことを……騎士が文句を言っている……消す?」


「消すのは無しだ。派遣された騎士にしてみれば怒りを覚えても無理はないだろうしな。だが、魔力収集装置に文句をつけているのは見逃せないな。ウルル、案内してくれ」


 結界がある以上、魔力収集装置に手出しは不可能だと思うが……結界があろうがなかろうが、アレに手を出されるのは容認できない。魔力収集装置は俺達の国の根幹だからな。


 しかし、この世界に来て初めて戦う事を仕事としている人物との邂逅だ……出来ればどの程度の力量なのか、この世界においてはどのくらいの強さなのかを知りたい所だな。いや、流石にそこまでは分らんか。


 そんなことを考えながらウルルの先導に従い歩いていると、何やら喚き声が聞こえて来た。


 なんというか……ヒステリックな物を感じるな。めんどくさそうな相手のようだ。


「平民如きが!どこまで私を馬鹿にするつもりだ!」


 めっちゃブチ切れてる……っていうか馬に乗ったままなんだな。


 しかし、ゴブリン退治に派遣されて来たって割には三人しかいない様だが……あの数のゴブリンを三人で殲滅できるのか?広域殲滅の手段が無ければ確実に逃げられるだろうし……そういう手段があるってことか?


「けしてそのようなつもりは……!」


「ではどのようなつもりだと言うのだ!貴様等がゴブリン退治を陳情したのだろうが!それが別の人間に頼んだから必要ないだと!?」


「その件につきましては……本当に申し訳なく……」


「軍を起こすのにどれだけの費用が掛かると思っている!貴様ら程度の収めている税だけで軍を起こせると思っているのか!?」


 プライドというより、金の問題で怒っているのか……現実的ではあると思うが、それを村長に怒っても仕方なくないか?


 っていうか三人で軍ってことは……もしかして俺達と同じように魔石を使って兵を召喚出来るのか?


 そうなると、魔力収集装置の事も当然知っている事になる……もしそうなのだとしたら、やはりここはソードアンドレギオンズの世界なのか?


 そうであれば、自分達の設置していない魔力収集装置が設置してあることに憤慨するのは当然……いやいや、レギオンズ基準で考えるなら集落に設置していないのはおかしい。


 設置コストに回収が見合わない?だが一度設置すれば永続的に動くってオトノハは言っていたし……いずれは回収出来そうだよな。


「いや、あの……その……」


 俺がそんなことを考えている間にも、村長はどんどん追い詰められているようだ。


「もしや、軍が戦わなければ費用は発生しないとでも思っているのか!?それとも税を納めているのだから軍を派遣させて無駄足を踏ませるのは当然の権利だとでも?」


 いや、ただの村人がそこまで考えるわけないよね?っていうか偽の通報で警察を出動させて怒られているみたいな感じだが……村長からしたら首が飛びかねないって感じだろうな。


 とはいえ、今の所この騎士の憤りはもっともな物だし、村長が困っても俺は特に関係ないしな……まぁ、流石に斬られそうになったら助けてやってもいいが。ん?そう言えばゴブリンの処理は俺から言い出したことだったっけ?なら積極的に助けるべきか?


「それにこれだ!この奇妙な物体はなんなのだ!貴様の村にある物だろう!?何故説明出来ない!」


 お?


 魔力収集装置の事は知らないのか……?ブラフ……じゃないよな?村長相手に嘘ついても仕方が無いし。


「で、ですからそれは……ゴブリン退治をしてくださった……あ!」


 魔力収集装置の傍で死にそうな顔で騎士とやり取りをしていた村長が俺に気付き、救世主を見た的な表情になった。


 まぁ、気持ちは分からないでもないが……助けてくれた相手にさらに厄介事を押し付けようとするなよな……。


 ここで俺に迷惑を掛けない様に立ち回れば……見直すところだが……。


「騎士様!あちらの……あちらの御仁がゴブリン退治と、こちらの物を設置したのです」


 ……助ける気が失せたな。


 いや、まぁ、村長が騎士に逆らえるわけもないか。


 普通に首落とされそうだし。


 とは言え、仮にも恩人である俺達に面倒ごとを押し付けようとする人物に信用はおけない……この村と関わるのはこれで終わりだな。


 結界付きの魔力収集装置はこのまま置かせておいてもらうがな!


 そんなことを考えていると、馬に乗った騎士がこちらに馬首を向け近づいてくる。


「おい!きさ……ま!?」


 馬に乗ったまま近づいて来た騎士が俺に声を掛けてきたのだが……途中でその声が悲鳴のような物に変わる。


 原因は……俺と近づいて来た騎士の間に突然現れた小さな桃色の髪の女の子……エイシャが手にした杖を振るい、馬の首を吹き飛ばしたからに相違ないだろう。


「うぉおおお!?」


 一拍遅れて横倒れになる首なしのお馬さん……ごめんな、君は悪くないのにうちの子が……後でしっかり供養させてもらうよ。


 そんな不幸な馬から投げ出された騎士が這いつくばっている所に近づいたエイシャが、感情の色が全く感じられない声音で騎士に話しかける。


「……貴方は、どれだけの不遜を働けば気が済むのですか?」


「は……?貴様、見習い神官か?」


「誰が口を開くことを許可しましたか?」


 ぽかんとした様子の騎士に対して、今度は若干怒気を滲ませた声音でエイシャが話を続ける。


「何を言っている!貴様、私を誰だと……!」


「黙りなさい。主は貴方如きが自由に発言することを許していません」


 エイシャの崇める神って超厳しくない……?


 そういえばレギオンズには神官とか神とかいたけど、宗教については特に言及されてなかったよな。


 エイシャの神って誰なんだろ?創造神か?


「いえ、フェルズ様は誰よりも慈悲深く寛大です。なので、まずは地面に跪き額を地に擦り付けなさい。その上で心臓を差し出しなさい、そうすれば一言くらいは発することを許しましょう」


 ……それって断末魔の声ってヤツじゃない?


 後、気のせいか……フェルズ様って聞こえた気がする。


 いや、まぁ……確かにエンディングで神の一柱になってたけど……でも称号的には覇王だしな……。


「狂信者がぁ!?」


 立ち上がろうとした騎士の頭を踏み潰し、地面にめり込ませるエイシャ。


 よぅじょこわい……


「コッポル様!」


 後ろの方で呆気に取られていた二人の騎士が馬から飛び降り、剣を抜いてエイシャに迫り村人から悲鳴が上がる。


 まぁ、悲鳴を上げる気持ちも分かる。


 なんせ鎧を着た騎士二人が剣を振りかぶり、何処からどう見ても可憐な美幼女に斬りかかったのだから……次の瞬間血飛沫があがり倒れ伏す美幼女がいるのは想像に難くない。


 しかし、待っていただきたい。


 十数秒くらい前に、その美幼女が何をしたか思い出して欲しい。


 その手にした……明らかに殴ることに向いていない華美な杖を振って、お馬さんの首を跡形もなく吹き飛ばしたのは彼女だ。


 馬の首が消し飛ぶんだぜ?


 その一撃、鎧で防げるものだろうか?


「エイシャ、殺すな」


「はい」


 背中越しに振り返りにっこりと笑みを見せたエイシャは、徐に杖を振り、騎士の振った剣先を消し飛ばす。


 マジシャンかな?


 いや、大神官だったわ。


 俺がそんなアホな事を考えている間に、足を払われた騎士が先程のオッポレ?とかいう騎士と同じような体勢にさせられ、地面に顔をめり込まされる。


「見事な手際だ、エイシャ」


「も、申し訳ありません。あの者のあまりの無礼さに、つい我を忘れてしまい……見苦しい物を見せました」


「いや、気にする事は無い」


 頬を若干赤らめながら言うエイシャはとても愛らしい……若干……怖かったし、多少……信仰の向かう先が気になったけど……深く突っ込むと藪蛇っぽいから放置しておこう。


 我が国は信仰の自由を推奨する。


「それで、村長……この者達は?」


「は、はひ!?その方々は!その……!」


 顔色を真っ青にして、マッサージ器もかくやとばかりに震える村長だが……正直優しい台詞を言ってやるつもりはサラサラない。


「その装置は、ゴブリンへの対処の報酬として設置したものだ。別にそれを守る必要は無いが……せめて義理くらいは果たして貰いたいものだな」


「あ……ぐ……」


 真っ青を通り越して真っ白になってきた村長の顔を見て……脅しすぎたかという思いが湧き上がってくる。


 まぁ、結構イラっとしたけど……仕方ないと言えば仕方ないしな……。


 それに……俺は覇王フェルズだ。


 この程度の事で目くじらを立てていては、部下達に狭量と思われるかもしれん……でも、あっさり許すと甘いと思われるかも……覇王的な匙加減を誰か教えてくれませんかね?


「まぁ良い。それで、この者達はこの辺りを治める国の騎士か?」


「は、はひ!おっしゃる通り……ゴブリン討伐の為に送られた騎士団の先触れの方々です!」


「ならば、ここでこうして先触れが地面にめり込んでいる以上、村長が取れる道はそう多くないな」


「そ、それは……?」


 お前のせいだろうがという目で俺の事を見て来るが……俺のせいですが、何か?


「一つ、やがて来る騎士団本隊に先触れなど来ていないと嘘をつく。二つ、先触れは来たが本隊が来ることを伝えた後すぐに帰ったと嘘をつく。あぁ、その場合、この三人の事は我々で処理しておくので気にする必要は無い」


「……」


「まぁ、どちらを選ぼうとも、その装置は当然そこに置かれたままだからな。本隊が来た時同じような問答が起こらないとは言えないな」


 俺の言葉により一層恨みの籠った視線を向ける村長。


 番外として、突然頭と体が泣き別れするって選択肢が出そうだから、もう少し柔らかい目にした方が良いと思うな……俺が話しているからって理由で後ろの子達動かないけど、俺が言葉選びを間違えたらいつでも飛び出しそうだ。


 実は、三つ目の案は俺達の事を襲って騎士団に許しを請うか?って言うつもりだったけど……今の感じでそんな事言ったら、後ろの子達を刺激するだけかもしれないからやめておこう。


「……そして三つ。俺達の完全なる庇護下に入るかだ」


「そ、それは一体どういう意味で……?」


「俺達がいかなる外敵からも守る。相手がゴブリンだろうとその辺の騎士だろうとな。俺の庇護下……俺の民になるという事だ」


「……その……守って下さるというのは分かりますが……民と言うのは……?」


 村長の困惑はよく分かるけど……どうやって伝えたらいいのか分らん。


「そのままの意味だ。この村を俺の統治下に置く。お前達が我が民となるのであれば、守るのは当然であろう?」


「……」


 意味が分からないという顔から、何を言っているか分からないというような表情に村長。いや、どっちも同じ理解不能って感じの顔だな。


「俺達の実力は……今見ただろう?この程度の騎士であればどれだけ数が増えようと俺達の敵ではない。それに……俺達の兵数はそこらの国より多い筈だ」


 俺達が動員できる兵数は……どのくらいだ?一万前後呼べるのが……あー、確か四つの戦線で同時に戦えるように準備はしていたな。


 一部隊に部将が三人で、一つの戦線に最低五部隊、メイン攻撃部隊は十部隊を置いていたから……あー、思い出してきた。十、八、五部隊が基本戦闘部隊だな。つまり統率100前後が六十九人で六十九万。


 さらにRPGモード用のキャラ達はダンジョンアタックの為に戦争参加させていなかったけど、普通に一万は召喚できる。これが五人で五万。


 そして……未強化の子達だって一人五千は呼び出せるし……オトノハ達内政系の強化をされている子達だって当然五千は最低でも呼べる。


 結局一度に呼べる兵数は……強さ度外視なら百万は軽く行きそうだな。


 しかも部将がやられない限り魔石で再召喚は出来るから、負傷だ死者だは気にする必要は無い。


 この世界が実は近代くらいの文明度で人口爆発後とかならともかく、この村の文明度から察するにそこまで多くの人口を支えられるとは思えない。


 騎士の装備も鎧と剣みたいだし……精々中世、下手したら安土桃山どころか源平合戦……もっとさかのぼって三国志か春秋戦国時代くらいってのもありえるか?


 この世界の広さにもよるだろうけど……一国が一つの戦場に送り込めるのは、万単位の動員が出来るかどうかって感じかも知れん。


 まぁ、ここが秘境中の秘境って可能性もある……都会に行ったら空飛ぶ車とかロボット兵団とかいる可能性もゼロじゃない……。


 って、村長の事放置してたな。


「まぁ、どれを選ぶかは好きにするがいい。だが、決断は早い方が良いと思うぞ?こうして先触れが来ているのだ、そう遠くない内に本隊も来るだろう」


「……で、ですが!」


「俺にとってこの村に来たことは成り行きでしかないし、ゴブリンに困っているというから助けてやっただけだ。さぁ、どうするのだ?村長。決断するのはリーダーの仕事だ……そしてその責任を取るのもな」


「……」


 とまぁ、このように迫ってはいる物の……村長が決断出来るだけの判断材料に乏しい事も事実だ。


 偉そうに大言壮語を放つ行きずりの人間を信じるよりも、派遣されてくる騎士を信じるのが普通だしね。


「私は……」


 たった数分で二十歳くらい老け込んだ村長が重々しく口を開いた。


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