第15話 集落の最後
俺はリーンフェリア、エイシャ、オトノハ、それにオトノハの部下を連れて、ゴブリン達のいる森近くの村にやって来ていた。
今日はバンガゴンガとの約束の日、ゴブリン達の引っ越し当日だ。
村にはゴブリンの件が片付いたと報告に来ただけだが、その報酬として魔力収集装置を村に設置しに来たのだ。魔力収集装置については以前来た時にオトノハから簡単に説明して貰っているが……理解しているかどうかは知らない。
因みにゴブリン達の集落には主力級のメンバーを五人程送り込んでいる。ゴブリンの集落に待機して貰っているカミラ達と合流次第移動を開始してもらう予定だが、カミラと共に集落に残ってもらっていたウルルには、俺達の方に合流するように伝言を頼んである。
「騎士様!今日は如何されましたか?」
村に到着した俺達に気付いた村長が、急ぎ俺達の下にやって来て声を掛けて来た。
「うむ、先日のゴブリンの件だが今日で片が付く。それで、以前話していた報酬の件を頼もうと思ってな」
「確か……魔道具を村に設置するという件ですな?」
「あぁ、彼女から説明を受けていると思うが、設置するだけで特に何か害のあるものではない。ただのオブジェとでも思ってくれればいい」
俺はオトノハを示しながら村長に告げる。
「は、はぁ。お約束ですから設置するのは構いません」
若干不安げな様子を見せながらも村長は頷く。まぁ、得体のしれない物を村に置くのだから不安になる気持ちは分かるけど、こちらとしては死活問題なので遠慮はしない。
「そうか、では作業を開始させてもらう。オトノハ頼む」
「あいよ。それじゃ作業を始めるよ!簡易版だからチャチャッと済ませちまうよ!」
オトノハが部下に命じて魔力収集装置の設置を始める。
一時間もあれば設置が終わるらしいから先に村長に話をしておこう。
「ところで村長」
「なんでしょうか?」
「森にあったゴブリンの集落だが、今の所破壊せずにそのままにしてある」
「はぁ」
なんとも気の抜けた返事をするな……まぁ、別にいいけど。
「だがあのまま放置するのは良くなかろう?」
「そうなのですか?」
「……例えば、野盗が根城にしたりしたらどうする?塀は高く建物もかなりしっかりしている。森の奥とは言え、かなりいい拠点になるぞ?」
「そ、それは……」
俺の言葉に村長は顔色を変える。今までゴブリン達から襲われたりすることは無かっただろうが、今後あの村を拠点にするものが現れた時、村が被害を受けないとは限らない。
寧ろ隠れ住んでいたゴブリン達を追い出したことで、この村が野盗や魔物に襲われる可能性は増えたかもしれない……まぁ、その事を教えてあげるつもりは無いが。
「それは困るだろう?だから今日焼いてしまうつもりなのだが……村から誰か確認の為に人を寄越してくれないか?」
「村からですか……?」
「あぁ。依頼完了の証として、ゴブリン達の集落が焼けたところを見れば村長も安心できるだろ?」
「ふぅむ……」
「森の奥だからな。今から向かって……焼いて戻るのに……夕暮れ時には村に戻ってこられるだろう。何、道中の安全は我々が確保してやる。だが森歩きに慣れている人物の方が良いな。無駄に時間を食うのは好ましくない」
「分かりました。確かに騎士様のおっしゃる通り、村の者の目で確認させてもらった方が良いと思います。狩りを生業としている者が居りますので、その者を連れて行っていただけますでしょうか?」
「いいだろう。装置の設置が終わり次第、集落に向かう。それまでにその者を呼んでおくがよい」
俺の言葉に村長は深々と頭を下げると、物凄い勢いで駆け出して行った。
そんなに慌てなくても……ってそうか、魔力収集装置の設置がどのくらいで終わるか伝えて無かったからか。万が一にも俺達を待たせるようなことになってはってところか?
俺は指示を出すオトノハの元気な声を聞きながら、村長が戻ってくるのをのんびり待つことにした。
「き、騎士様……まだ……遠いんですかい……?」
「もう少しだ」
俺の後ろを歩く村の狩人が息も絶え絶えといった様子で問いかけてきたが、適当に返事をする。
森歩きに慣れている者と指定したんだが……予想以上に体力が無いな。まぁ、時速三十キロの移動を軽々とこなせる俺達と比べる方がおかしいか。
だがまぁ、村の狩人程度とは比べ物にならないくらい、俺達の身体能力は高いってことが分かったのは収穫としておくか。
とは言え……そろそろ集落が近いのは嘘ではない。
今ここに居るのは、俺、リーンフェリア、エイシャ、オトノハとオトノハの部下コリンとサリナ……後、村の狩人。
コリンは所謂ドワーフチックなずんぐりした体型に短い手足。桃髪に黒目の男で一応魔法の得意属性は聖と闇……とは言え魔法能力は全然鍛えていないので、キャラクターを作るときに選んだ属性という程度のものでしかない。
サリナも銀髪灰目の美少女だが、コリンと同じく魔法能力は初期値のままである。
二人ともオトノハの部下……開発系のキャラだから戦闘能力を伸ばす必要が無かったのだ。
強さ的にはメイド達と同等だから何かあった時は全力で守らないといけない……まぁ、ゴブリン達よりは強いらしいけど。現に狩人が疲れ切っているのに対して、コリンたちは全く疲れた様子を見せていない。頼もしい限りだね。
とりあえず、今ここに居る面子で火の魔法を得意としているのは俺だから、集落を燃やすのは俺の仕事だ……。まぁ、わざと火の魔法を得意としている部下を連れてこなかったわけだが……折角思いっきり魔法を撃つ機会だからネ!
この狩人が火の魔法の達人という可能性は無きにしも非ずだが……そう言えばこの世界にも魔法はあるのだろうか?魔力自体はあるみたいだが……その辺も調べないとな。
そんな事を考えつつ、俺は訓練所以外で放つ初めての魔法に気分が高揚するのを抑えきれなくなってきていた。
「とりあえず、エリアで焼けばいいか」
フレイムエリアは戦争パートでのみ使える魔法だけど、今は普通に使うことが出来る。
消費魔石は他の魔法とは桁違いだけど……軍相手に使うような魔法なら集落くらい燃やせるだろう。
「フェルズ様、お待ちください。流石にエリア系は範囲が広すぎるかと愚考します」
俺の呟きが聞こえていたらしく、隣を歩いているエイシャが待ったをかけてきた。
「ふむ?そうか?」
「はい。あの規模の集落であれば、ストーム系を六発ほど放てば跡形もなく処理できるはずです」
「ふむ……そんなものか。魔法の発動範囲や効果に関して、記憶が心もとないな。もう少し訓練所で属性毎に色々と検証するべきだったか」
攻撃魔法の範囲もそうだけど、幻や聖属性の魔法は他のことも出来るしな……訓練所での練習はどちらかというと個人戦の練習……剣技や単体魔法ばかり使っていたからな。
なんか体が自由自在に動くからそれが面白すぎて、そう言った検証をするのが抜けていたな。
あの村とゴブリン達から回収できる魔石が約二万……まだ施設維持費だけでも赤字だから、好き勝手に魔法を外で使う事は出来ないが……まぁこの調子なら結構すぐ確保出来そうだ。
「聖属性の検証をする際は私にお任せください!」
そんな事を考えていると、若干鼻息荒くしながら、エイシャが胸を張りながら自薦して来た。
「そうだな、その時はよろしく頼む」
「はい!」
エイシャがとてもいい笑顔で返事をする。
「ふぇ、フェルズ様!光属性は是非私が……」
「あら?リーンフェリアさん?光属性なら私も使えますよ?と言いますか……私の方が使いこなせると思いますよ?」
エイシャとは反対側に居るリーンフェリアが名乗りを上げたが、その台詞を遮るようにエイシャが小首を傾げながら言う。
「くっ……!」
悔しげに呻くリーンフェリア。まぁ、仕方ないよね……エイシャは後衛系のキャラでリーンフェリアは前衛系のキャラだ。
リーンフェリアが光を得意としていると言っても、後衛系のエイシャの方が魔法の適正は高くなっている。
「……魔法の検証なんて話になったら、カミラ一人で全部済むんじゃないかい?」
最後尾を歩くオトノハが身も蓋もない言葉を放ち、両隣の二人が石化したように固まる。
まぁ、確かに全属性の適正を最大に上げた、魔法系最強キャラであるカミラ一人で話は事足りるけど……。
「いや、魔法の検証には多くの者に参加してもらうつもりだ。適正による効果や威力、範囲の違い等も確認する必要があるからな。カミラは勿論、エイシャやリーンフェリア、それにメイド達にも手伝ってもらうことになるだろうな」
「……フェルズ様は、あたい達よりも研究開発に向いているんじゃないかい?」
俺の意見を聞いたオトノハが、困ったような笑みを浮かべながら言うが……俺は軽く笑いながら首を振る。
「自分達の力を正しく把握するのは大事だ。研究開発とは少し違うだろうな」
っていうかそんな難しそうなことできるわけがない。ゲームなら指示するだけで数ターン後には出来てたしな……いや、今も指示するだけだから同じか?
そんなことを考えながら歩いていると、ゴブリンの集落が見えて来た。って、そう言えば内輪の話をしていたけど、狩人の人がいることを忘れていたな。
横目で表情を盗み見るが……疲労困憊って感じで俯きながら歩いており、こちらの会話を気にしている様子は無いな。
「集落が見えて来たぞ」
俺が声を掛けると死にそうな顔をしながら狩人が顔を上げる。
「あ、あれが……?」
茫然とした表情で集落の塀を見る狩人……まぁ、君のとこの村より立派だもんね。
「集落に居たゴブリンは三百以上。もう一人も残っていないが……どうする?中に入るか?」
「……いや、見る必要は無い、です」
「いいのか?ならば今から燃やしていくが……あまり前には出るなよ?」
「へ、へい」
さて……作業を開始するとしますか。
「エイシャ、ついて来てくれ。リーンフェリア、オトノハ、コリン、サリナはこの場で待機。しっかりと守ってやれ」
俺はぱぱっと指示をだして集落へと向かう。ウルルは何も言わなくてもついてくるだろうし、魔法に関してはこの場で一番詳しいのはエイシャだ。
まぁ、魔法を使うだけなら俺一人でも問題ないはずだけどね。
「森のど真ん中で炎系の魔法を撃っても大丈夫か?」
今更ながらそんなことに気付いた俺はエイシャに問いかける。大火災とかになったら……えらいこっちゃで……。
「水を使う者はいませんが……いざとなれば、リーンフェリアに凍らせるように命じればよろしいかと」
「ふむ……なら遠慮なく燃やすとするか」
っていうか、俺は水を得意とする人間を連れて来るべきだったのでは……?
完全に人員の配置ミスをしている気がする……まぁ、それを認めるわけにはいかないのだが……。
「エイシャ、どの辺りに魔法を撃てばいいか指示を貰えるか?」
「し、指示ですか!?」
エイシャが糸目を見開いて驚く。
「あぁ、こういう風に魔法を使うのは初めてだからな。どのくらいの範囲に影響が出るのかよく分からない」
「……畏まりました。では僭越ながら、し、指示を出させていただきます!まずは向こうの建物にフレイムストームを。その次は移動するのでついて来て下さいますか?」
「あぁ、よろしく頼む」
こうして、幼女大神官に指示されながら、村の中を巡りながら範囲魔法で焼いて行った。
フレイムストームの魔法は背の低い炎の竜巻と言った感じだったが、凄まじい熱量で近くにいるだけでこんがり焼けてしまいそうだった。
いやこんがりというか……がっつり炭化するかと思った。自分で撃った魔法だったけどちょっと逃げたし。
それはそうと、エイシャのアドバイス……いや、指示に従って魔法を放ち大して時間もかけずに村を焼き尽くすことが出来た。
バンガゴンガ達には申し訳なくもあるが……我は大変満足である。まぁ、ここに戻ってくることは出来ないだろうし……破壊活動を満喫したことは許してもらいたい。
オトノハ達が頑張って作ってくれた、うちの城下を気にいってくれると良いけど……まぁ、まだ仮設住宅だが。
そんなことを考えながらリーンフェリア達と合流すると、何か恐ろしい物でも見たかのような表情で狩人が気絶していた。
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