第14話 驚愕の新事実……!

 


 ひと悶着あるかと思っていたゴブリン達の会合は、意外とあっさりと終わったらしい。


 バンガゴンガによると、騎士が送り込まれてくる事の脅威よりも、俺達が狂化した魔物と戦っている姿を多くのゴブリン達が見ていたのが決め手になったとの事。


 砲艦外交なんかしてない……よね?


 まぁ、真相はさておき、にこやかな雰囲気で契約は交わされ、ゴブリン達は俺達の城下に移り住むことになった。


 引っ越しの準備に数日欲しいという事だったので、三日程してから迎えに来ることにした。


 家具なんかはこちらで用意するので身の回りの物だけでいいとは言ったが、長年住んだ場所との別れだ。全員が同じ場所に移動するとは言え、色々と気持ちを整理したいだろう。


 ひとまず俺達は一度城に戻ってきたのだが、この三日の間にお約束が如く騎士が攻めて来ても業腹なので、集落にはウルルとカミラを残した。


 いざという時は幻惑魔法で騎士の足止めをして、その隙にゴブリン達を移動させるのだ。


 一万七千にも及ぶ収入をみすみす失ってたまるものか、という気持ちが無いわけでは無いが……それ以上にバンガゴンガと話をして思ったのだ。問答無用で殺す必要どこにもないじゃん、と。


 まぁ、何にせよ……話の通じる奴を殺す必要は無いといった感じの覇王で行こうと思う。同じ種族でも話の通じない奴は沢山いるしね。


 とりあえず森の外にある村の村長には、ゴブリンの件は数日で片が付きそうだと報告してある。


 目を真ん丸にして驚いていたけど、ゴブリン達の移動が終わったらもぬけの殻になった集落でも見せてやればいいだろう。


 閑話休題。


 とりあえず、城に戻ってゴブリン達の準備を待つ俺は、部屋で頭を悩ませていた。


 突然レギオンズの主人公になった上、自分がエディットしたキャラと一緒に謎の世界に放り込まれた……とかいう悩みではない。


 部下たちの食生活についてだ。


 この世界に来て三日、食堂で誰もご飯を食べている様子の無いことに気付いた俺は、近くを掃除していたメイドに問いかけた。


 みんないつ食事をしているのん?と。


 いや、もう少し硬い口調だった気もするが、とりあえずそんな内容を尋ねたのだ。


 すると、彼女は答えた。


「週の初めです」


 ちょっと何を言っているか分からなかった俺は首を傾げた。


 俺の前に立っていたメイドも俺を見ながら首を傾げた。


 そのまま見つめ合うことしばし……メイドの子はエディットしただけでまだ鍛えていない子だから、ちょっと顔と名前を覚えきれていないけれど、とても可愛い子だった。


 見つめ合っている内に思考がそっちに向かい始めたところで、俺は初心に戻り尋ねた。


 食事は週に一回なのか?と。


 するととてもいい笑顔ではいと言われた。


 週休一日どころか週食一回!?


 負債者を地下施設に拉致して強制労働させる、金貸しグループも真っ青な労働条件である。


 黙り込んでしまった俺を見て、メイドの子がおろおろとし出したので、俺は礼を言いその場から離れた。


 これはどう考えるべきだろうか……部下たちはお腹が空かないのか?それともどこぞの塔を登った先で貰える豆のように一粒で一週間過ごせる的な?


 そこで俺はエイシャや部下にいる幼女や少年達の事を思い出す。


 育ち盛りにちゃんとした食生活をさせないのはダメだろう。


 だが……一応確認は取るか。


 俺は椅子から立ち上がり……あれ?部下を呼びたいんだけどどうしたらいいんだ?


 呼び出すコマンドとか無いんだが……あぁ、誰かに頼めばいいのか……。


 そう気づいた俺は部屋の扉を開いて廊下に顔を出すが……誰もいない。


 さっきは偶々掃除しているメイドの子がいたけど……今は誰もいない様だな。


 皆、普段何処で何をしているのだろうか……いや、多分色々働いてくれていると思うけど……武官系は訓練所とかに行けばいるかな?


 開発とかの職人系は研究所とか工房かな?


 メイドとかは掃除だろうけど……このとんでもなく広い城を二十人くらいで掃除できるものなのだろうか?


 っていうか部下達って何人くらいいるんだ……?


 俺の創った子達が全員いたとして……百人は作ってない筈だけど……多方面で戦えるくらいの人数は余裕でいたからな……。


 ゲームの時は、主要メンバー以外は育て終わったら適当に使ってたし……正確な人数がわからん。


 今度キリク辺りに確認しておかないとな。


 そんな事を考えながら適当に歩いてみるが……誰とも会わない。


 広すぎるのも考え物だな……目的地に行くにも時間がかかるし、人探しも大変だ。


 普段であれば徐にウルルと呼べば出て来てくれるけど……流石に三十キロ近く離れた森の中だからな……いくら超凄腕の外務大臣でも無理ってものだろう。


 ちょっと試してみたい気もするけど、試すなら自室でだな……誰かに聞かれてたら恥ずかしい。


 とりあえず、場所を知っている訓練所にでも向かうか?誰かしらいるだろうし……。


 そんな風に考えながら、何気なく窓の外に目を向ける。


 相変わらず広々とした草原が広がっているが……あぁ、そうだ。オトノハ達がゴブリン用の仮設住宅を建設中だったな。そちらに顔を出してみるか。


 ……いや、待てよ?俺の命令に従って一生懸命働いてくれている子達の所に行って「やぁ、ちょっと聞きたいんだけど、ご飯食べてる?」とか言って邪魔するのはどうだろうか?


 何せご飯を食べさせていないのは俺なのだ、そんな俺が一生懸命働いている皆の所に行ってちゃんと飯食ってるか?って……うん、暴動が起きてもおかしくないよな。


 そんな事を考えながら所在なさげに廊下をうろうろとしていた所、先程の子とは違うメイドが掃除をしている所に出くわした。


 俺の姿を見つけたメイドの子は掃除の手を止め、頭を下げて動きを止める。


 呼吸も止めているんじゃないのっていうくらいピクリとも動かないメイドを見て、この子に頼めばいいかと思いつく。


「忙しいとは思うが、一つ頼みごとがしたい」


「何なりとお申し付けくださいませ」


「キリクとイルミット、アランドールを俺の執務室に呼んでくれ」


「畏まりました」


 メイドの子に三人の呼び出しを頼んだ俺は、一生懸命執務室の位置を思い出す。


 大丈夫……俺は執務室に行ける覇王だ、自分の城でけして迷子にはならない……だから何一つ問題はない。






 まぁ、予想通りというか……俺は城で迷った。それはもう迷いまくった。どうしても現在位置と施設の位置関係が掴めないのだ。窓から外を見て、何度飛び降りようか悩んだくらいには迷った。


 ……呼び出した三人には非常に申し訳ない事をしたと思っている。


 何せ執務室に三人を呼び出してから、既に一時間は経過している。


 あのメイドの子も俺と同じように城で迷っていたりしていないだろうか?その可能性に一縷の望みをかけて、俺は奇跡的に辿り着いた執務室の扉を開いた。


 部屋の中には、いつからそうしていたの?と聞きたくなるような直立不動っぷりで立っている三人とメイドの子がいた。


 超気まずい……。


 だが、気合を入れて……気にしていないという感じを装い、部屋に足を踏み入れソファに腰掛ける。


「待たせてすまないな。三人とも座ってくれ」


「「はっ!」」


 三人が俺の向かいに座り一拍置いてから、俺の前にメイドの子がお茶を出す。


 いつの間に入れたのか分からないけど……実にいい香りがしている……気がする。正直そう言うのはよく分からん。


 って俺だけ?これも食事の話に関わってくるような……水分摂取も週一なの?


「昨日の話は聞いていると思うが、何か聞きたい事はあるか?」


「いえ、ございません。リーンフェリア達から子細漏らさず報告を受けておりますので」


 代表してキリクが返事をする。


 こういう時はいつもキリクが代表になって会話をしているけど……部下達の序列ってどういう風に決まっているのだろうか?ゲームの時はそんなの無かったしな……。


 って今はどうでもいいか。


「そうか。城の方は何も問題なかったか?」


「はっ!何一つ」


 昨日の件で情報共有しようと思ったのだが……三秒で終わってしまった。


 まぁ、これは軽いジャブみたいなものだからな、本番はこれからだ。


「ところで、三人は食事をとっているか?」


「……は、取っておりますが」


 一瞬俺が何を聞いたのか理解できなかったのか、キリクの返事に間があった。


 まぁ、突然何をってなるよね?普通執務室に呼び出して、ご飯食べてる?って聞かないよね?


「ふむ……どのくらいの頻度でだ?」


 食事の頻度聞くっておかしくない?普通一日に二回か三回だよね?聞くまでも無いよね!?


「はっ!週に一回です!」


 やっぱりそうなのね……!?


 しかし……俺はなんと聞いたらいいんだ?お腹空かない?って……覇王風にどう聞いたら?


 腹は空かぬか?


 その質問めちゃくちゃ間抜けじゃない?


「……」


「……」


 い、いかん……なんか言わないと。キリクだけじゃなく、イルミットやアランドールも疑問符を浮かべている気がする。


「……食事の頻度を上げるのはどうだろうか?」


「それは……何故でしょうか?」


 ご飯を食べるのに何故もクソもねーですよ?……と言いたい所をぐっと堪える。


 これは彼らに罪はない……だってレギオンズのゲームシステム的に、食事は設定しておいたものを週に一度取るってものだったのだから……だが、今いる此処は現実で、彼らは実在している人間だ。


 システムの枠から飛び出さなければならないだろう。主に空腹的な意味で。


「これも、今までとは違う試みの一つだ」


「……そういう事ですか。分かりました。では週に二回でどうでしょうか?」


 だから休みの話じゃないんだってばよ!


「日に二回ではどうだ?」


「一日の内に二回も食事を!?」


 キリクだけではなく、イルミットとアランドールも目を真ん丸に剥いて驚いている。


 その反応に俺の方がびっくりだよ!


「聞けキリク。それにイルミット、アランドール。お前達とあの大陸を駆け抜け、統一したのはこの覇王フェルズだ。だが、あの時の俺と今の俺、同じ存在だとは言い難い」


 俺が聞けと命じたからだろう。三人は身じろぎ一つすることなく、真剣な表情で俺の言葉を聞いている。


「だが、それは俺だけに言えることでは無いと思っている。キリク、イルミット、アランドール。お前達もあの頃と同じという事は無い筈だ。それは成長であったり気持ちの変化であったり……しかし、それは当然の事だ。ずっと同じ存在でいられることなぞありえないのだ」


 俺の言葉に神妙さを増した表情に変わる三人……と、扉の横に控えているメイドちゃん。


 メイドの子達の名前も全員調べないとな……メニュー画面的な機能どこかで使えないだろうか……?


 一瞬どうでもいい思考がまぎれたが、俺は言葉を続ける。


「……何故なら俺達は今ここで生きているのだから。そして、これも当然のことだが……生きていれば腹は減る」


 俺の言葉にギョッとした表情になる三人とメイド。


「お前達は……腹が減っていないか?」


 少なくとも俺は腹が減る。


 覇王フェルズの身体であっても腹が減るという事は、キリク達だって腹が減ってもおかしくないはずだ。


「……そ、それは……確かに……」


「やはりそうか……かく言う俺も、お前達と同じ状態でな。これは早急に対策を取る必要がある」


 対策というか、ちゃんとご飯を食べましょうってだけだけどね?


「キリク、全員に通達しろ。これより食事は最低一日二回だ。二回は必ずとるように。希望する者は三回とっても構わぬ。だが体調に変化が出たならすぐに報告を上げる様に」


「はっ!」


 椅子に座ったまま頭を下げるキリクから視線を外し、その隣にいるイルミットに命令を出す。


「イルミット。食事の回数が増えることで、食堂維持にかかる魔石の量がどのように変化するか算出しろ。それと、ダンジョンからしか採ることが出来ない食材や、街から納品されていた特産物の放出を一旦ストップする。当面は魔石により購入可能な食材から作ることが出来る料理のみを提供するように」


「はっ!」


 って、あれ?


 ゲームの時はよろず屋から在庫無限でアイテムは購入できたけど……今も使えるのか?


「そういえば、よろず屋はどうなっている?今まで通り魔石で商品の購入は可能なのか?」


「はい、問題ありません」


「そうか……ならばよいが、問題があったらすぐに報告するように伝えてくれ」


「承知しました」


 在庫の補充ってどうやっているのか非常に気になるな……っていうかよろず屋って俺が作ったキャラじゃなくってお店専用キャラみたいなのがいたよな……そのうち確認しておこう。


 それはさておき、今はこっちを片付けないとな。


「アランドール。今まで俺達には兵站の概念が無かった。だが、今後遠征する必要が出た場合、皆の食事の事を考える必要が出て来る。恐らく召喚した兵に食事はいらないだろうが、部将となる皆は必要だからな。輜重隊を編成する必要が出て来るかも知れん。食事と部隊の運用について今後どうするべきか調べ草案を作れ。キリク、イルミット。この件にはお前達も手を貸す様に。アランドール、人手が必要ならすぐに言え。これはかなり重要な話だ、ぬかるなよ?」


「はっ!一命に替えましても!


 うん、そこまで重く考えなくてもいいけどね?


「今外に出ている者達にも必ず伝える様に」


「「はっ!」」


 これで大丈夫かな?危うく皆が餓死するところだったな……死因は餓死および栄養失調……冗談じゃないな。


 いや、犠牲者が出る前で本当に良かった……今までで一番いい仕事をした気がするよ。


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