第11話 はじめてのたたかい
「く!こんな時に!」
めちゃくちゃ凶悪な表情になったバンガゴンガが、歯を剥き出しにする。正直怖い。
「フェルズ!今すぐここから退け!この辺りは戦場になる!」
さっき聞こえて来た声は北からなんか来るって言ってたっけ?北ってどっちだ?っていうかこの世界ちゃんと東から日が昇るのかしら?
そんなどうでもいい事を考えている俺に焦れたのか、バンガゴンガが再び大声を出す。
「フェルズ!聞いているのか!?」
「あぁ、聞いている。それはそうと、バンガゴンガ。手を貸すぞ?」
「何を言っている?」
「俺はお前達と話をしに来たんだ。ここまで来て一言二言話しただけで帰っても仕方ないだろ?」
「だからと言って……狂化した魔物は危険だ!毎回死者が出る!それがお前達にならないとは限らないんだぞ!」
ふむ……この状況で俺の我儘に付き合って説明してくれるバンガゴンガは、やはりいい奴っぽいな。死なせると色々と面倒になりそうだし……ゴブリン達が迎撃で死者が出ても撃退できる程度らしいから俺達なら問題ないだろう。
「ここで話していても仕方がないだろ?バンガゴンガお前が迎撃に出るなら、邪魔にならない様に着いて行くだけだ」
「……好きにしろ!」
そう言って駆け出したバンガゴンガを俺は追いかけ、当然部下達もその後を着いて来ている。
「ところでバンガゴンガ、何と戦うんだ?」
「……狂化した魔物だ。知らないのか?」
俺の問いかけに少し走りにくそうにしながらバンガゴンガが答えてくれる。
「初耳だな。どうやって見分ければいいんだ?」
「明らかに動きのおかしい目の赤い奴が狂化した魔物だ……見ればすぐに判断出来るはずだ」
「そうか……」
俺が話しかけたことで少し走るペースは落ちたが、バンガゴンガは全力で走っているような感じだ。しかし、身体能力の差は歴然だな……正直小走りくらいの感じで着いていける。
そんな風に軽い気持ちで前を走る巨漢に着いて行くこと数分程、進行方向で怒号の様な物が聞こえてきた。
次の瞬間、バンガゴンガが地面が捲れる程速度を上げて駆け出していく。どうやら全力では無かったようだ……。
「戦闘は俺、リーンフェリア、ウルルの三人で行う。カミラ、オトノハ、エイシャは後方待機。魔法の使用は禁止する」
「「はっ!」」
俺は手早く指示を出した後、走る速度を上げた。
近づくにつれて何とも言えない匂いが鼻腔を突く……ちょっと行きたくなくなって来た……返り血とか付いたらどうしよう……。
そんな俺の想いを無視するように、リーンフェリアが俺を追い越していく。ウルルの姿は見えないが……既に戦闘を始めているのだろうか?
早く行かないと戦闘が終わってしまうかもしれないが……ちょっとここまで漂ってくる臭いのせいで行く気が削がれていくと言うか……いや、行くと決めたのだから覚悟を決めて行こう。
足に力を込めて……それ以上にくじけそうな心に力を込めて俺は走る速度を上げ、戦場に飛び込んだ。
視界に移ったのは襲い掛かられるゴブリン……レギオンズのゴブリンとは体の色が違うけど、先程まで話をしていたバンガゴンガに比べると、そこまでムッキムキって感じじゃないな。
っていうか、別種族くらい見た目が違うな……ってそんな暢気に観察している場合じゃないな。
俺はゴブリンに伸し掛かっている狼に一気に接近して……剣で斬りつけて伸し掛かられているゴブリンまで剣が届くとマズいので蹴り飛ばす。
俺の蹴りを受けた狼は……なんというかサッカーボールと言うよりもミサイルくらいの勢いで飛んで行き、木にぶち当たり動かなくなった。
おおぅ……あまりのぶっ飛びっぷりに俺と、伸し掛かられていたゴブリンの二人が目を丸くしながら見つめ合ってしまう。
「……大丈夫か?」
「あ、あぁ」
俺は倒れているゴブリンに一度頷き、他の魔物を求めて駆け出す。幸い……というか襲い掛かって来る魔物はいくらでもいる。
俺に向かって爪を振り下ろそうとしている巨大な熊の胴を薙ぐように、手にした剣で素早く斬り……あれ?手ごたえが無い……。
振り下ろされた爪は……俺の目にはゆっくり過ぎて、欠伸をしながらでも躱すことが出来るのだが……俺は更に逆袈裟に熊を斬りつけ……やっぱり手ごたえが全然ない!?
その後、熊に数度斬りつけたがやはり手応えは無く、熊は元気に俺に襲い掛かって来る。
この剣……熊を斬れないの?いや、熊に限らず何も斬れないのでは……ちらりとリーンフェリアの方に視線を向けるが……彼女はバッサバッサ魔物を斬って捨てている。その向こうではウルルも一瞬で数匹の狼を三枚おろしチックにしている……魚じゃないんだから……そんな風に斬ったら思いっきり骨ごと斬ってるじゃない……。
まぁ、それはさておき……どうやら魔物を斬れていないのは俺だけのようだ。
俺が熊を倒せていないのを好機と見たのか、狼が二匹ほど俺の元に駆け込んでくる。
こうなったら……全部蹴りで倒すか?エースストライカーになっちゃうか?
狼が跳躍して俺に食らいつこうとしてきたところに合わせ、思い切りミドルキックをかます。
見事にヒットしたその一撃は狼を勢いよく吹き飛ばし、狙い通り熊の魔物にぶち当たった。
おっし!狙いどお……り?じゃないな!狼が熊に当たった瞬間、熊がばらばらに弾け飛んだのだ。これには覇王もびっくり。
でもぶつけた狼は普通に原型を留めているな……これは一体……飛び掛かって来たもう一匹の狼を明後日の方向に蹴り飛ばしながら考える。
いや……まさか……そんなことがあるのか?
さっきまでの俺の手ごたえの無かった剣……あれがもしや、手ごたえもない程鋭く斬れていたのだとしたら……斬られたことに気付かずに熊が動いていた……?
そんなことある……?
めっちゃえぐい感じにバラバラだから確かめたくはないけど……流石に狼をぶち当てただけでこうはならんよな?
これは俺の腕なのか……それとも覇王剣が凄いのか……多分剣が凄いのだろうな。訓練所ではこんな現象起こらなかったし……。うーん、他の武器があればいいのだが……鉄の剣とか持ってきておけばよかったな。
レギオンズに於いて最弱の性能を誇る鉄シリーズの武器は、武力を1だけ上昇させる、あっても無くても大して変わらない武器だが、普通に武器としては使えるだろう。
意外と切れ味が凄すぎる覇王剣よりも使えるかもしれんが……流石に今日ここに連れてきているメンバーで、鉄の剣を装備させている奴はいないな。
そんなことを考えながら、覇王剣を片手に襲い掛かって来る敵を次々と蹴り飛ばしていく。
リーンフェリアやウルルの活躍もあり、もはや戦いの趨勢は決まったような物だろう。
バッサバッサと薙ぎ払われていく魔物の群れに、ゴブリン達が啞然とした表情で俺達の戦いっぷりを見ている。
しかし……二人に比べて俺の戦い方は格好よくないな……熊に前蹴りをかまして吹き飛ばしながら、リーンフェリア達の戦い方に羨ましげな視線を送ってしまう。
そんな俺の視線に気づいたのか、リーンフェリアがにっこりと笑顔を見せながら剣を振りぬき、血糊を払う様に剣を振るい鞘に納める。
その直後、リーンフェリアの傍に居た熊の、上半身が下半身と泣き別れて地面へと落ちる。
格好いい……。
俺がリーンフェリアに見惚れていると、若干頬を赤らめたリーンフェリアが小走りに近づいて来た。
「……フェルズ様。如何されましたか?」
「……いや、見事な剣だ。実に美しい」
「ふぇ……は、は!有難き幸せ!」
おっと……いかん。顔を真っ赤にしながら、膝をつこうとするリーンフェリアの腕を掴み持ち上げるようにする。
「膝をつく必要はない。戦闘は……もう終わったようだが、ここは戦場だ。俺に尽くす礼よりも大切なことがある」
というか、平時でもあんまり膝をつかなくていいよ?
「フェルズ様……周囲に、敵影なし……索敵範囲を……広げる?」
そう続けたかったのだが、それよりも早くウルルが俺の傍に現れ報告してくれた。
「いや、一先ず必要ない。カミラ達と合流して、先程のゴブリンの長……バンガゴンガと話をする。上手くいけば集落の中に入れてもらえるだろうし……オトノハに、その場合は前の村と同じように魔力収集装置を置けるか確認するように伝えておいてくれ」
「かしこまりました……」
ウルルが指示を受けていつものようにスッと消える。
……別に一緒に歩いて合流しても良かったと思うのだが……あぁ、俺がオトノハに伝言を頼んだから先に行ったのか……。
なんとなく申し訳ない思いに駆られながら、カミラ達の方に向けて歩き出すと、当のカミラ達がかなりの速度で走り寄って来て俺の前で跪く。
いや、ほんとそれやらなくていいんだよ?凄い話にくいからね?
「……膝をつく必要は無い。俺はお前達が膝をついている姿を余人に見せることを好まないからな。それに、そんなことをされなくてもお前達の敬意は常に俺に届いている」
もしかしたら、進んでやりたがっているのかもしれないけど、話のテンポが悪くなるし止めて貰う方向で進めよう。
「はっ!御下命賜りました!」
カミラが代表して返事をすると、四人が一糸乱れずに同時に立ち上がる。
玉座の間でも思ったけど、息の合わせ方が凄すぎる……。
そんなどうでもいい事を考えていると、バンガゴンガが険しい顔をしながら近づいて来たのでそちらに向き直る。
……多分険しい顔だと思うけど……もしかしたらゴブリン的な笑顔かも知れないな。
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