第10話 ゴブリン……ゴブリン?



 あっさりとゴブリンの集落を見つけたウルルに案内されて、俺達はゴブリンの集落を目指している。


 既に夕暮れ近くの時間帯なのだが……ウルルの見立てではゴブリンの強さは何と言うか……話にならない程度で、うちのメイドでも集落を殲滅できるだろうとのことだった。


 因みにうちのメイド達は全員未強化状態のエディットキャラなので、うちの子達の中では最弱である。


 そんな子が殲滅出来るのであれば……俺達が揃って行くのはオーバーキルもいい所だろう。


 因みにレギオンズにもゴブリンはいたのだが……まぁ、普通に雑魚だったな。


 当然メイドの一撃で屠れる。


 まぁ、どの世界でもゴブリンは雑魚の代名詞みたいな感じかね?


 そんなことを考えながら森の中を苦も無く疾走していると森が途切れ、高さ三メートルくらいの塀と木で作られた見張り台が忽然と姿を現した。


 ……ん?森のど真ん中に……?


「……着いた……」


 ウルルが立ち止まり呟く。


 え?これゴブリンの集落なの?


「ここが?」


「……中にゴブリンいっぱい……」


「想像と違うな……」


 もっとこう……野性味あふれるスタイルで集落を築いているものとばかり……。


「あの村より立派ではないか?」


「……塀の中の家も……結構しっかりした造り……」


 ゴブリンって腰ミノ一つでげぎゃぎゃって笑うイメージだったんだが……かなり文化的な生活を営んでいる気が……。


「フェルズ様、殲滅を始めますか?」


「ん?」


 傍に居たリーンフェリアが今日の晩御飯はどうしますか?みたいな感じで聞いてくる。


 俺はリーンフェリアの顔を見た後、ゴブリンの集落の方に視線を向ける。


 当然聳え立つ塀に阻まれて集落の様子は見えない……が、これ殲滅していいのか?


「……少し待て」


 今俺の目の前にはゴブリンの集落……非常に文化的な生活を営んでいるように思える……冒険者がこの集落を発見したらしいが、どう考えてもこの集落は一月やそこらでは出来ないだろうし……長らくここに集落があったのは間違いない。


 しかも村長の話では、村に被害を与えている訳でもない……対話出来るか試してから判断してもいいんじゃないか?


「……この程度の集落であれば殲滅は容易いな」


「はっ!あの塀は殲滅には都合がいいですし、取りこぼしなく殲滅することが可能です」


「よし、ならば問題ない。俺が許可を出したら、リーンフェリア、ウルル、カミラ。三人で集落を殲滅しろ。全員魔法の使用も許可する」


「「はっ!」」


「ただし、許可を出すまでは何があっても絶対に手を出すな。例え攻撃を受けてもだ。いいな?」


「「はっ!」」


 これでいきなり殺戮に走ったりはしないだろう……後は……ゴブリンと会話が成り立つかどうかが問題だ。会話にならなかったら殲滅ルートだが……。


 そんな物騒な事を考えつつ集落に近づいていくと、物見櫓から矢が放たれ、俺達の進行方向……少し離れた位置に刺さった。


 次の瞬間、俺を除いた全員から物凄い圧が放たれたのだが、俺が咳払いをすると嘘のように霧散する。


「止まれ!そこの人族!ここより先は我等の村だ!怪我をしたくなければ即刻立ち去れ!」


 おぉ……言葉が通じるじゃないか。しかも問答無用で攻撃して来たのかと思ったらただの警告……これは話し合いが出来そうだな。


「我々はこの森の傍にある村から依頼されて来た者だ!危害を加えるつもりはない!そちらの代表者と話がしたいのだが、取り次いでもらえないだろうか!」


 俺が物見櫓の上から警告をしてくる人影……ゴブリンに聞こえる様に声を上げると、若干物見櫓が騒がしくなる。


 恐らく何か話し合っているのだろうが……うぅむ、やはり俺のイメージするゴブリンとかなり違う……。


 やがて結論が出たのか、先程警告して来たのと同じ声が聞こえてくる。


「分かった!今村長を呼ぶ!だが、それ以上我等の村に近づくことは許可出来ない。それより一歩でも踏み込んでくれば矢を射かける!」


「承知した!この場で村長殿が来るのを待たせてもらう!」


 うむ……普通に会話が成り立ちそうだな。でも……これからどうするべ?会話が成り立つと言っても……付近の村人が怯えているからどっか行ってくれとは……言えるわけないよな。


 呼び出しておいて話は無いって言うのもアレだが……まぁ、仕方ないよね。我、出たとこ勝負の覇王だし。


 ってそうだ……村の調査結果を聞いてなかったな。今のうちに確認しておくか。


「オトノハ。あの村の魔力の調査はどうだった?魔石を生産できそうか?」


「あぁ、問題ないよ。魔力収集装置を置けば魔石を生産できるし、生産量も予定通りの数行けると思うよ」


「……それは良い話だ。これで今後の方針も決まるな」


 情報収集、そして魔力収集装置を各地に設置していく……特に大きな街には絶対に設置したい。レギオンズの頃は一番大きな街の発展度を最大にしても、十万人が人口の上限だったが……それ以上に人の多い街とかあるかも知れない……百万都市とかあったら、そこに設置するだけで毎月一千万の収入だ。美味し過ぎる……。


「フェルズ様……申し訳ありません、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」


「ん?構わないぞ?リーンフェリア」


 何やら意を決したというか……覚悟を決めたような表情をしながらリーンフェリアが尋ねてくる。


「何故御身自ら、ゴブリン如きと対話を成されるのでしょうか?確かに現在の状況に対して、情報が不足していることは理解しております。ですが、それでもゴブリン如き下等なモンスター相手に……」


 どうやらリーンフェリアが代表で質問しているだけで、同じ疑問を全員が抱いているような雰囲気だな。


「ふむ。リーンフェリア、確かにお前の言っている事は正しい」


「では……」


「だが、その正しさは俺達がかつて居たあの場所での正しさだ。そして、今この状況においては認めることが出来ない正しさだ」


「……」


 目に見えてリーンフェリアが落ち込むが……他の子達も似たような感じだな。


「考えてもみろ、俺達の知っているゴブリンがあのような集落を築いたり、流暢に話しかけてきたり出来たか?」


「そ、それは……」


「今は自分達の常識こそが最大の敵だと考えろ。俺は今から会うゴブリンをモンスターだとは思っていない。あの様子を見る限り、俺達とは違う人種……そう考えて対応するつもりだ」


「……申し訳ありません、フェルズ様。私が浅はかでした」


 リーンフェリアだけじゃなく、全員がその場に膝をついて頭を垂れる。


 まぁ……俺にとっては欠片も常識が通じない状況だからな……なまじ自分達の知っている情報が混ざっているリーンフェリア達は、考えが引っ張られるのだろう。


「分かってくれたのであれば良い。俺への忠誠故の言葉だしな、咎めるつもりは無い。だが、これだけは忘れるな。俺達が覇者であったのは既に過去の事だ」


「「!?」」


 一度は納得した面々だったが……俺の一言に衝撃が走る。


 ……それは良いとして、やっぱり俺なんか演説癖が付いている気がする。


「俺の始まりは、大国に挟まれ、吹けば飛ぶような小国の主だ」


 まぁ、周回を重ねて強化しまくった状態だけどね……。


「もう一度、初めからやるだけだ。大した話じゃない……皆ついて来てくれるのだろう?」


「勿論です!」


「楽しみだ……本当に楽しみだ。だから、お前達も楽しめ、全力で楽しめ!こんな機会もう二度とないぞ?未知への挑戦というやつだな」


 周回を重ねて知り尽くしたゲームを始める時とは違う、封を開けて買ったばかりの新しいゲームを始める時と似た様な高揚感。一体どんなことが待ち受けているのだろうかという期待感……それと同じような物を今の俺は感じている。


 だが少し……いや、かなり気が大きくなっているとは思う。だって、この世界において俺達が強者である保証はない。にも拘らず、俺はこの世界で覇王を目指すと宣言した様な物なのだから。


 いや、流石に重要人物皆殺しルートは辿らないけどね?だが、魔石を得る為に支配地域を伸ばすつもりではある。


 まぁ、魔力収集装置の設置さえ出来れば、制圧する必要は無いと思うけど……俺達が一勢力として旗揚げをするのであれば、その力の源になる魔力収集装置の設置は支配下以外では許されないだろう。


 魔石が手に入らないとジリ貧だし……村程度なら丸め込んで何とかなっても、街に魔力収集装置を置かせてくれって言っても受け入れられるとは思えないしな……武力衝突は避けられないだろう。


 銃器とか発達していないといいんだが……いくらリーンフェリア達でも撃たれたらやばいだろうし……それに、魔力があるのはオトノハの調査のお陰で分かっているけど……この世界の魔法についても調べなくては……多分あるよな?


 うん、やはりいきなり武力行使はダメだな。情報収集がやはり一番大事だ。


「よし、そろそろ立つんだ。彼らは貴重な情報源になり得るが……敵対する可能性もあるのだからな」


「「はっ!」」


 丁度いいタイミングだな……俺が立ち上がるように命じるとほぼ同時に村の門が開けられて……どう見てもゴブリンに見えない巨躯な……いや、アレ何?


 のしのしと近づいてくる巨漢は……二メートル以上の身長に、俺二人分くらいはありそうな胸板。丸太を小枝の様にへし折りそうな巨大な手。


 絶対ゴブリンじゃないと思うが……まぁ、ゴブリンの村の村長がゴブリンとは限らないよな。


「俺と話したい変な人族がいると聞いて来たが……いや、すまない。俺の名はバンガゴンガ。この村で村長をしているゴブリンだ」


 ゴブリンダッタヨ。


 って呆けている場合じゃないな。挨拶を返さないと。


「俺はフェルズだ。バンガゴンガ殿と呼べばいいかな?」


「敬称は不要だ。バンガゴンガで良い。それで、フェルズ。何用でこの村に来た?ここはゴブリン達の里、お前たち人族の益になる様な物は無いぞ?」


 思った以上に理知的な話し方だな……こんな恐ろしい見た目なのに……。


「俺達はこの森のすぐ外にある村から依頼されて此処に来た」


「……以前追い返した人族の件だろうか?」


 バンガゴンガが額にしわを寄せつつ言うが……恐らく村で聞いた冒険者の事だな。すぐにその話が出て来るという事は気にしていたって事だろう。


「あぁ、追い返された冒険者から話を聞いた村人が、村の近くにゴブリンの集落があることを不安に思っていてな。俺達に調べて来て欲しいと依頼して来た」


「……フェルズよ。依頼されたのは調査ではないのではないか?」


 ふむ……そう言うのも分かるのか。


「まぁ……そうだが、お前達は森から出て人里を襲うのか?」


「……襲う必要がないな。俺達の生活はこの森の中で完結している。無論攻め入られれば抵抗はするが……それは俺達に限らず当然の事だろう?」


「それは当然だな。しかし……ふむ、困ったな」


「ん?お前たちは俺達の討伐を引き受けたのではないのか?」


「そんな依頼は受けていないな。俺が受けた依頼は調査と……対処が出来るようであれば対処する……それだけだ」


 俺の言葉に首を傾げるバンガゴンガ。そう言った動作は人間と同じなんだな。


「……お前達は相当な手練れにみえるが?対処とは、つまりそういうことだろう?」


「ははっ!物騒だなバンガゴンガ!確かに全滅させてしまえば後腐れないかもしれないが……だが、勿体ないだろ?こうして会話の出来る相手を問答無用で殺してしまうなんて」


 っていうか……俺に命を奪うって行為が出来るかどうか……。


「……その言葉は予想外だったが、しかし、対処と言うのはどうするつもりだ?十年と言わずここに住んでいる我らに、ここから出て行けとでも言うのか?」


「それについては……」


「村長!北の方から狂化した獣が来る!」


 俺の言葉を遮るように見張り台から声が上がり、村の方から何かを打ち鳴らすような音が聞こえて来た。


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