第9話 第一村人発見

 


 何故か俺がソードアンドレギオンズの主人公、フェルズの姿になって一晩が明けた。


 寝て起きても状況に変化はなく、俺は相変わらず覇王である。


 そのこと自体はほぼ受け入れている俺であったが……現在、俺は高揚する気分を抑えることが出来ていない……。


 いや、あんなの無理だって……魔法は出るわ、剣を手にしたら……なんだこれ?


 俺とは思えない動き……矛盾しているようだが、俺の意思を俺以上に汲んで体が最適な動きを行うのだ。


 俺の意思にも拘らず俺の想像を超えるというあの異常事態……ある種万能感と言っても良い感覚……状況はこれっぽっちも理解出来ないが……少なくとも俺は魔法やスキルを操り……途轍もない身体能力をもって……戦闘を行えるらしい。


 リーンフェリアとの昨日の訓練は凄まじい物だった……身体能力や動体視力の異常さにも驚いたが……何より激しい戦闘を繰り広げながらも、俺自身考え事を出来る程余裕があるのだ。


 もしかしたら外見だけではなく、中身の方も覇王フェルズの能力に影響を受けているのかもしれない……今の所、俺は俺に違いないと思うが……だが、そんな不安も吹き飛ぶくらい昨日の体験は鮮烈だった。


 今なら世界を取れる……そう思ったね!


 まぁ、そんな感じで朝からかなりのご機嫌っぷりを見せている俺は、心持弾む足取りで城門へとやって来た。


 そこには既に覇王フェルズの……いや、俺の部下達が並んでいた。


 リーンフェリア、ウルル、エイシャ、カミラ、オトノハ……昨日指示した通り、ここで俺が来るのを待っていたのだろうけど……いつから待っていたのか怖くて聞けない。


「ウルル、案内を頼む」


「……了解」


 昨日の会議で決めた通り、俺達はこれから昨日ウルルが発見した村へと赴く。


 片道三十キロの道のりだが……昨日確認した脅威の身体能力であれば、数時間もあれば余裕で辿り着けるだろう。


 因みにレギオンズに騎馬兵という兵科はいない。


 何故なら、戦争パートで召喚する兵は、召喚する武将本人の分身の様な物で、武器や防具は含まれるが、馬は呼び出されない。つまり馬に乗っても周りを囲む兵は歩兵のみとなる。


 そして何より……自分達より遥かに身体能力の劣る生物に騎乗しても意味がない……という事らしい。いや……でも移動手段としてはありだったのでは?と思ったが……城にも馬を飼育している施設は無いのでそういうものだと諦めよう。


 って訳で……移動手段は己の足である。


 まぁ、まだ朝も早いし、昼頃には辿り着けるでしょ。


 俺がそんなことを考えているとウルルが駆け出し、リーンフェリア達が後に続く。


 フェルズになる前の俺であればあっさりその場に取り残されただろうけど、今の俺はハイスペック覇王である。予想外の事態に慌てることなく冷静に対処する。


 すんごい速度で駆け抜けているけど、昨日身体能力を確かめている俺は驚く事は無いが……この速度で村まで行くのかしら?俺歩いていくと思っていたのだが?


「ウルル、どのくらいで村に着く?」


「……一時間……くらい」


「……そうか」


 村までは約三十キロだよな?


 速さを求めるには……距離割る時間……三十キロ割ることの一時間……うむ、俺の計算によれば、現在我々は時速三十キロで突っ走っていることになるな。


 短距離ランナーの最高速度よりは遅いけど、マラソン選手よりも遥かに早い……まぁ、何とかなりそうな気はするが……例え全身鎧に包まれていてもな!


 そんなことを考えながら走っていたが……。


「エイシャ……大丈夫か?」


 俺は目を瞑りながら、涼しい顔で走っている桃髪の幼女に声を掛ける。


「……?はい。大丈夫ですよ?どうかされましたか?」


 エイシャは動きにくそうな聖職者用のローブのまま事も無げに走りつつ、まるでティータイムの会話の如き余裕のある口調で首を傾げる。


「……いや、問題なければいいんだ。オトノハも大丈夫か?」


 まぁ、エイシャは見た目はあれだけど、戦闘も出来る能力だから問題はないか……それより戦闘能力をあまり上げていないオトノハの方がやばいかもしれないと思い声を掛けた。


「このくらいどうってことないさ。大将は……ちょっと心配性になったかい?」


「……心配性というよりも……今は皆の能力がしっかりと把握できていなくてな。その辺も確かめていきたいんだ」


「あぁ、そう言う事かい。まぁ、この程度問題ないさ、体を鍛えていないメイド連中だって、このくらいは涼しい顔をしていられるだろうさね」


「……なるほどな」


 こうして喋りながら走っていても、しんどいと思うどころか周りの景色に注意を払う余裕すらあるのだが……これは、俺の身体能力が特別高いから可能と言う訳ではなく、能力的にほぼ初期値のメイド達でも余裕なのか……性能高すぎなのじゃが?


 まぁ、その辺はこれからも継続して調べて行くとして……村ってどんな感じだろうか?


 交渉……上手くいくといいんだが……あれ?交渉?


 あ……言葉……通じるのか!?






 ウルルに先導されること約一時間、想像していたよりも小さな村へと俺達は到着した。


 二百人くらい住んでるって話だったからもう少し大きな村なのかと思ったけど……一世帯五人家族で四十世帯……農村部は子だくさんのイメージがあるから、もう少し家族が増えて世帯数が少なくなると考えればこんなもんなのか?


 そんなことを考えていた俺は……言葉の壁についてどう対処するか頭を悩ませていた。


 走っている最中にその事を皆に伝えたところ……恐らく大丈夫という心強いお言葉を頂いたのだが、欠片も安心できていない。


 彼らにとって言葉は一種類しかないしね……俺の言っている意味が分からなかったのかもしれない。


 そんな不安と共に村に踏み込んだ俺の前に第一村人……以下五名くらいが現れた。


「おぉ!騎士様!来て下さったのですね!」


 もし神がいるのであれば、俺はそれに感謝を捧げたい。


 言葉が……通じる……!


「貴様……」


「リーンフェリア」


 折角話しかけてきてくれた第一村人に対して、威圧感を剥き出しにするリーンフェリアの名前を呼んで下がらせる。


 って言うか……リーンフェリア以外の全員から一瞬不穏な空気が立ち上ったのだけど……村人さん達完全に委縮しちゃったし……。


「すまない。そちらは……?」


「も、申し訳ございませぬ!騎士様!私めはこの村の村長でございまする!」


 膝に手を置き、頭を下げながらなんとも言い難い口調で謝る第一村人もとい村長。


 なんか任侠系の挨拶かな?って感じのポーズだが……怯えているのは物凄く分かる。


「部下が失礼した、村長殿。頭を上げて欲しい」


「は、ははぁ!」


 俺は覇王じゃなくってやはり殿様なのかもしれんな……。


 さて……それはさておき……どうするのがいいかな?


 さっき村長は来てくれた……そう言っていた。


 つまり村長は、この村に騎士を呼んでいたってことだよな?何故騎士を呼ぶ必要があるか……騎士が警察みたいなものだと仮定すれば、まぁ十中八九厄介事だよな?


 まさか畑仕事の手伝いに騎士は呼ばないだろうし……さて、この場合俺が取るべき行動は……騎士の振りをするか、人違いだと否定するか……二択だな。


「それと、村長。何やら騎士の派遣を求めていたようだが、私は要請を受けてここに来たわけでは無い。通りすがりの様な物だ」


「そ、そんな……」


 俺の返事を聞いてがっくりと項垂れる村長。


「ふむ……何やら緊急性のある話なのか?俺で良ければ話を聞くが?」


「いえ……流石に、騎士様と言えど、一人や二人では……」


 まぁ、鎧を着ているのは俺とリーンフェリアだけだしな……一人二人と言う気持ちは分かるのだが……村長の言葉に再び気色ばむうちの子達。そして怯える村人たち。


 俺が首だけ振り返ると、恐縮したように怒りを抑えるのを見て内心ため息をつく。


 怒られるのが分かっているならもっと自制しなさいよ……。


 とはいえ、何度も謝るのもアレなので、俺はそのまま村長に話しかける。


「ふむ……人数が問題であるのなら気にする必要は無いぞ?この場にいるのはこれだけだが、我々はもっと大所帯だからな。村人を怯えさせるわけにはいかないのでこの人数で立ち寄ったに過ぎぬ」


「お、おぉ……申し訳ございませぬ、騎士様。決して皆様を侮ったわけでは無く……」


「よい。それで話を聞こうじゃないか……」


「ははぁ!それでしたら……汚い所ではありますが、私の家で話をさせて頂きます。どうぞこちらへ……」


 そう言って案内された村長の家は、他の家と大差ない物で……村長と言えど別に権力がある訳でもない、ただのまとめ役みたいな感じってことだな。


 さて、なんでわざわざ村長の話を聞くかと言うと……一つは情報収集の為、そしてもう一つは、恩を売りつけてこの村に魔力収集装置を置かせてもらう為だ。


 勿論、設置前にオトノハに調査をさせる必要はあるが……。


「ふむ……話を聞くだけなら全員いる必要は無いな。リーンフェリア、オトノハ。お前たちは外に出ていろ。村長殿、よろしいかな?」


「はい!勿論です!手狭な家で申し訳ありませぬ!」


「問題ない、気にしないでくれ。二人とも、村の方達に迷惑を掛けぬように……頼んだぞ?」


「「はっ!」」


 これで調査はオトノハがしっかりしてくれるだろうし、リーンフェリアが護衛を務めてくれるなら問題ないだろう。


 さて、それじゃぁ話を聞くとするか……俺達で解決できる問題だといいけど……。


「それでは、村長殿。話を聞かせてくれるかな?」


「は、はい!実はこの村の南にある森に、ゴブリンの集落が出来てしまったようなのです」


「ふむ……ゴブリンの集落」


 ゴブリンか……ゲームではよく序盤の雑魚敵として出てくる奴で、レギオンズでもそんな扱いだったモンスターだな。


「ゴブリン共はネズミよりも早く数を増やしていくと聞きます。まだ被害は出ていないのですが……それも時間の問題かと」


「被害が出ていないのに集落が出来たことに気付いたのか?」


 てっきり、被害が出ているから何とかして欲しいってことだと思ったのだが。


「はい。以前冒険者が薬草採取にこの村を訪れ、暫く森に入って薬草を取っていたのですが。かなり森の奥深くまで入っていったらしく……その時にゴブリンの集落を見つけ命からがら逃げだしてきたのです」


「冒険者……命からがらという事は、その冒険者はあまり手練れでは無かったということかな?」


「その冒険者の腕前は私には分かりませんが……集落を発見した時に矢を射かけられ、慌てて逃げ帰って来たと言っておりました」


「なるほど……」


 ゴブリンの強さがこの話じゃ判断出来ないな……。


「ふむ……このまま派遣されてくる騎士を待っていて、その間に被害が出てはやり切れないであろう?私達の方で調査をして処理できそうであれば処理しよう」


「あ、ありがとうございます!……ですが、その……お礼の方はいかほどご用意すれば……」


「ふむ……そうだな。では、二つほど頼みたいことがある。私達は遠くから旅をしてきていてな、この辺りの話を聞きたい。もう一つは……ゴブリンの調査を済ませてからにするか。あぁ、金銭的な要求をしたりするつもりはない」


「は、はぁ」


「説明してやりたいのだが、俺は上手く説明が出来なくてな。後で俺の仲間から説明させる。変な要求はしないから安心して欲しいんだが……すまんな」


「い、いえ……」


 いや、ほんとごめんね?不安にさせるとは思うけど……魔力収集装置を置かせてくれって言ったとしても、俺はそれが何なのかを説明出来ないんだよな。


 説明はオトノハに任せるとして……とりあえずウルルにゴブリンの集落の場所を調べて貰うか。


「ウルル」


「……はい」


 俺が名前を呼ぶと、やはりどこからともなくウルルが姿を現す。村長さんめっちゃびっくりしているね。


「話は聞いていたな?ゴブリンの集落を探してくれ。但し手は出さない様に。見つからなかったとしても夜には戻ってこい」


「……了解」


 俺の命令を受けて、音もなく姿を消すウルル。その技、俺も出来るようになるかな……ちょっとやってみたい。


「い、今の方は……?」


「俺の部下だ。彼女に任せておけばゴブリンの集落はすぐに見つかるだろう」


「た、頼もしいですな……」


 明らかにビビっている様子の村長が口元をひきつらせながら言う。まぁ、得体のしれない相手に頼んでしまったって所だろうな。気持ちはよく分かる。


 だが諦めて俺の糧になって貰いたい。


 いや、殺すわけじゃないけどね?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る