第6話 会議をしただけで仕事をした気になってはいけない



 俺は会議室に配下のキャラ達を呼んだ。


 流石に謁見の間に集まった全員と同時に話し合うのは不可能なので、この場にいるのは七人。ウルル以外の役職持ち達だ。


 そんな中、参謀のキリクが立ち上がり会議の開始を宣言する。キリクは青髪の坊ちゃん刈りと言った感じで瞳の色は紫。眼鏡をかけているイケメンだ。若干神経質そうにも見える。


「今日はフェルズ様が御帰還を果たされた記念すべき日です。本来ならば国を挙げて……世界中で今日と言う日を祝いフェルズ様を讃えなくてはならない」


 いや、そんな記念日は必要ありませんよ?謁見の間で演説したのだっていっぱいいっぱいで足が震えていたのに……。


「そんな大事な日だと言うのに水を差す様な事態が発生しました……既に皆も確認していると思いますが、城下町が忽然と姿を消しました。これだけでも異常事態ですが、話はそれだけに収まりません。イルミット報告を」


 現在会議の進行役を担ってくれているキリクは参謀という役職だが……この参謀、ターンの初めに何をしたらいいか行動指針の様な物を教えてくれる役を担っている。


 ゲームの序盤ではやらなければいけない事が多く、優先順位を教えてくれるので非常に助かる存在なのだが……これがゲーム後半になってくると『準備は整いました、攻め込みましょう』しか言わなくなるとんでもねー参謀だ。


 どんな気弱な性格を設定していたとしても、ガンガン行こうぜしか作戦を提案してこない参謀に何の意味があろうかって感じだが、戦闘時のバフが優秀なので設定しない理由も無い。


 俺が着席したキリクを見ながらそんなことを考えている間に、イルミットが緊張感のかけらもない、のんびりした口調で先程俺が城壁の上で聞いた話を報告する。


「というわけで~魔力収集装置を利用した拠点間通信も~、拠点間移動も~、使用できない状態になっています~」


 正直言って、イルミットが間延びした口調で喋りながら体を揺らすのに合わせて、何とは言わないが……魅力的に揺れる物に目を奪われて話が殆ど頭に入ってこなかったのだが、報告は先程聞いているから問題ないだろう。たゆんたゆん。


 とか考えている間に、今度はリーンフェリアが立ち上がり報告を始める。


「現在フェルズ様の指示により、ウルルが部下と共に周囲の偵察に出ている。交戦は避け、何かを発見次第報告に戻るように言われているのですぐに情報を持ち帰るだろう」


 リーンフェリアの報告を最後に会議室が重い沈黙に包まれる。そんな中、俺はゆっくりと目を瞑り考え込んでいる……ように見せかけて、話を振られないように必死に気配を殺していた。


「状況は理解出来ました。不幸中の幸いと言えるのは……常であれば各拠点に代官として派遣していた者達が全て城に居た事ですね」


 それは……邪神戦を前に俺が全キャラクターを本拠地に戻して最終決戦に備えたからですかね?


「オトノハ、魔力収集装置が一斉に壊れたという可能性は考えられるか?」


 俺は薄目を開けて会議室の中の様子に目を向ける。キリクが話を向けたオトノハは開発部長……武器や防具、薬だけでなく街のレベルを上げたり、魔力収集装置を建設するのも彼女が指揮を執っている。


「あー絶対にないとは言い切れないけど、正直ありえないね。アレは一度稼働したら魔力がある限り動きを止める事は無い、理論上は百年経っても動き続ける代物さ。さっきイルミットと一緒に確認したけど、各地に配置してあった魔力収集装置との繋がりが完全に切れている……接続先その物が一斉になくなったんだ。ただの故障でそんなことはあり得ないさね」


「王城に設置している大本が壊れている可能性は?」


「ありえないね。アレはこの国にとってフェルズ様の次に大事な物だ。一切の手抜かりは無いと断言するよ」


 キリクの問いに若干不機嫌な様子を見せながらオトノハが言い切る。


 でも、オトノハ。究極のライフラインだから覇王より大事だと思うよ?後、民の方が大事なんじゃないかしらん?あ、民、俺、魔力収集装置ってことか……いや、そんな雰囲気は全くないな……。


 キリクも念の為に聞いたと言った感じで、そこはあまり疑っていなかったのだろう。


 オトノハに頷いた後、今度は大将軍であるアランドールに視線を向ける。


「アランドール。軍の方は問題ないな?」


「うむ。フェルズ様の御下知により、いつでも出られるように待機させておる」


 アランドールが重々しく頷く。その姿は歴戦の戦士と言った感じで、非常に頼りがいのある外見をしている。


 エディットキャラの中では最年長の見た目で、灰色の髪に瞳は金色。属性の組み合わせはリーンフェリアと同じだが一番と二番が逆になっているだけで老人っぽい感じになったのでそのまま老人キャラにしたのだ。


 大将軍だけあって統率と指揮の能力が高く、共に最大値である125となっている爺さんだ。


「だが、魔石が補充出来ないとなると兵の召喚は控えた方がいいじゃろうな」


「その辺は状況次第ですね。出し惜しみをしては取り返しのつかないことになる可能性もあります。魔法の使用も慎重にならざるを得ませんし……」


「魔法の使用が制限されるのは辛いわねぇ。うちの子達、殆ど何も出来なくなるわよぉ?」


 魔法の話が出た事で、宮廷魔導士であるカミラが口を開く。


 魔法を使用する際に魔石を使用しなければならないのは前述の通りだが、これはRPGパートや戦争パートの前に魔石を使い魔力をチャージすることで魔法が使える。


 つまり、魔法自体を使用しなくてもチャージした時点で魔石を消費してしまうという事だ。


「少ないとは言え、施設の維持費もかかる。魔石生産の目途が立っていないのだから仕方なかろう」


「それは分かるけどぉ……」


 アランドールの言葉にカミラは不満気な表情を見せている。そんな彼女の髪は金で瞳の色は赤である。


 イルミットには劣るモノの御立派な胸部装甲を持ち、気崩したローブからは肌と一緒に色気が出て来ているのだが……彼女には他のキャラにはない設定があったりする。


 因みにカミラは俺が作ったエディットキャラの中で唯一髪と目の色が得意属性を現していないキャラだ。


 レギオンズの魔法の属性は十種類、その内最低二属性をエディットキャラは使用することが出来るようにしてあるのだが、カミラだけは唯一全ての属性を最大値まで上げてあるキャラだ。


 魔法職としては最強のキャラで色々と裏設定ありのカミラは、間違いなく育成するのに使った魔石の数もダントツだ。勿論お気に入りだからこそ手間暇かけて育て上げたわけではあるが……戯れに着けた設定が現実に反映されているのかどうかは近いうちに確かめておこう。


「カミラ、魔法が使えないのは皆同じです。それに魔石の生産手段を得ることが出来れば問題ありません」


 不貞腐れているカミラにリーンフェリアが窘めるように言う。


 そうだな……リーンフェリアの言う通り、魔石の確保が最優先……周囲の状況把握とどちらが大事かと言われると難しい所だが……何かあった時の対処として、個人としての強さはともかく、軍として対応しなければならない事態になった際、魔石無しではどうすることも出来ないだろう。


 一億はあれど、一億しかないのだ。


 軍を動かして消費する量を考えれば軽々に使う事なんて出来る筈もない。俺は小心者で貧乏性な覇王だからな!


「ですが……聖魔法まで使用を制限する訳にはいかないのではないでしょうか?」


 桃色の髪に目を瞑っている……と言うか糸目の少女が声を上げる。


 彼女はエイシャ。彼女は何処がと明言はしないが、絶壁の持ち主である。まぁ、それも仕方ないことではあるけどね。何故なら彼女は幼女枠である。しかし、俺は敢えて声を大にして言おう、確かな胸部装甲を持った幼女もまた素晴らしいと。


 閑話休題。


 エイシャの言った聖魔法と言うのはいわゆる回復系の魔法のことだ。


「それはそうじゃな。聖魔法が無ければ我らが戦うと言っても限界がある」


 アランドールが重々しく頷くが、他の面々も異論はないようだ。まぁ、いくら俺が貧乏性と言っても回復手段無しで戦えとは言わない。


 現状、戦いが起こるかどうか分からないけどね。


「では現状は魔石を節約しつつ、警戒態勢を維持。後はウルルの情報待ちといった所ですね。他に意見はありますか?」


 キリクが締めと言った感じで確認を取るが、皆が頷き会議は終わろうとする。


 ウルルがこの会議中に戻って来てくれれば、もう少し先の話が出来たのかもしれないが……。


「フェルズ様。魔石の節約、警戒態勢の維持、それから外交官達による情報収集を最優先とする行動方針でよろしいでしょうか?」


「……確認したいことがある」


「はっ!何なりと!」


 キリクもリーンフェリアも確認したいって言った時の返事が一緒だな……いや、どうでもいいけど。


「施設に関してだ。維持費は魔石で賄われているとしても正常に稼働しているのか?」


「はい~施設は全て正常稼働しております~」


 俺の問いにキリクではなくイルミットが答える。


「では、食堂はどうだ?今まで食材は税として特産品が毎月収められていたり、ダンジョンで魔物を倒して手に入れていたが、今はそれもないだろう?無論備蓄はあるだろうが……」


 俺のその言葉に全員が顔色を変える。特に変化が激しかったのは施設管理をしているイルミットと全体を纏めるようにしていたキリクだ。


 キリクなんか蒼白を通り越して髪にも負けないくらいの青い顔になっている……。


「も、申し訳ありません!フェルズ様!魔石の事ばかりに気を取られ食料の事まで……」


 これは……ゲーム的には仕方がないと思うところではある。


 レギオンズには兵站というシステムは無かったし、食事に関してもターン毎に食べれば多少のバフが掛かる程度の物でしかなかった。


 今いるこの世界が現実かと言われれば、首を傾げないでもないが……少なくとも今の俺はこの世界に居て、腹が減ってきている。


 これはきっと、しっかり食事をとらなければ死ぬと思う。


 だが、それが彼らにも適用されるかどうかは分からない。レギオンズの一ターンは一週だったからな……食べなくても平気なのかもしれないし……そうであれば食事に関する関心が低くても仕方ないだろう。


 俺がそんなことを考え黙り込んでいると、ますます顔を青褪めさせたキリクが切腹をしそうになったので慌てて止める。


「待て待て!何故腹を切る!」


 国産ゲームだからだろうか……?完全に外国人……いや青髪の外国人は天然ではいないと思うが……それはどうでもいい。日本人には見えないキリクが、いきなり切腹しようとするのはどうなん?いや、日本人でも腹を切る奴はいないと思うが……。


「食料の在庫は~かなりあります~。十年程度であれば食材を仕入れなくても問題ありません~」


「……なるほど」


 ……量はともかく……腐らないの?いや、ゲーム時代は腐る事は無かったけど……今は腐る可能性があるのでは?


「食堂の維持に使っている魔石の大半は食材の維持に使っておりますので~」


 俺の心を読んだのか、イルミットが補足情報を教えてくれる。


 どうやっているのかは知らないが、魔石によって食材の保存をしているらしい……魔石しゅごい……。


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