第7話 ここから始める覇王の道
「食料についても当面は問題ないということだな?しかし、これも魔石同様に何かしらの方法で調達する必要があるだろう」
「はっ!」
恐縮しきっているキリクが椅子に戻らず土下座のまま返事をする。いや……そんな物凄い事言っている訳じゃないんだし、もっと気を楽にして欲しいんだが?
「キリク、席に戻れ。話しにくい」
「申し訳ありません!直ちに!」
椅子取りゲームで音楽が鳴りやんだ瞬間の子供のような勢いで、椅子に戻るキリク。
「オトノハ、飛行船はいつでも使える様に準備しておいてくれ」
城で維持している施設の中に飛行船の発着場というものがある。飛行船とは……まぁその名通り空飛ぶ船だ。
ゲームでは、自拠点間は転送で移動出来たので殆ど出番のない物ではあったが、山脈を越えた敵地に侵攻する時や海を越えた大地に侵攻する時に必要だった代物で、それ以外には使い道は無かった。
「飛行船を?何艘だい?」
「一艘で構わん。軍を送るわけじゃない。ウルルの持ち帰る情報次第では、飛行船を使って辺りを調べた方が良いかもしれんからな」
「飛行船を調査に使うのかい?……なるほど……そんな使い方が……」
やはりそうなのか?……オトノハの呟きを聞いて俺はあることに気付く。先程の食糧の件もそうだったが、エディットキャラたちはゲームのシステムに沿った形でしか基本的に動けないのではないだろうか?
お腹が空くから食料は大事、空から調査した方が広範囲を調べることが出来る。そんなことは考えるまでも無く分かることだ。
しかし、レギオンズにはそう言ったシステムは無かった。だから彼らはその発想に辿り着かない。
これは非常にまずいかもしれない。
レギオンズはいわゆるJRPG……まさに日本のロールプレイングゲームと言った感じで、自由度というものはあまりなく、決められたシナリオを辿っていく物語だ。
シナリオの数が沢山有れども、フリーシナリオ、オープンワールドと呼ばれるような自由な遊び方を楽しむゲームではなく、やることは基本戦闘だけだ。
そこにはシステム的な制約がふんだんにある。
現実であれば空飛ぶ船があれば利用法はいくらでもあるだろう、しかしレギオンズでは山や海を越えて敵地に攻め込む用途でしか使えない。
だからキャラたちはその使い方までしか考えが至らない。
……これは意識改革を促してどうにかなる問題なのか?現実となってしまった世界で、彼らはシステムの枠を超えて自由に行動が出来るのか?
……まぁいいか。やってみないと分らん。どうせ、今この瞬間ですら訳の分らん状況なんだ。ぐちぐち悩んだところでなるようにしかならない。
何より……彼らには意志がある。意志がある以上、自ら考えて行動できるはずだ。
「飛行船を使うかどうかは、ウルルの報告次第になるがな」
「分かったよ。何かあったらすぐに出せる様にだけはしておくさね」
城壁から見渡す限り平原だったとは言え……ここが北海道とかって可能性もあるしな。無許可で飛行船とか飛ばしたら大問題になる。
まぁ、誰の土地か分からないが、巨大な城が突然立っただけで大問題だと思うが……もしここが日本だったら、俺達は確実に不法占拠中の危ないコスプレ集団だな。
いや、日本じゃなくて異世界であったとしてもその可能性は十分あるか。SFチックの未来的な感じの異世界だったらやべぇな……。
「それと魔石の件だが……節約するのはいいが、不測の事態に備える必要がある。全員最大値までチャージしておけ。何かあった際に後衛が動けないのでは被害が出るだろう」
「よろしいのですかぁ?」
俺の言葉に喜色を浮かべたカミラがしなを作りながら尋ねてくる。
「当然だ。俺たち全員の身の安全以上に優先するものはない。いいか?全員だぞ?誰かが捨て石になったり……先程のキリクの様に責任を取って自刃などは許さんからな?」
って言っておかないと、何か失敗する度に腹を切りそうだからな。
「「……」」
そんな事を思いながら言った台詞に、何故か全員が目を潤ませているのが怖い……。
少し会議室の中が静寂に包まれたのだが、その静寂を破ったのは会議室の中に突然現れたウルルだ。
扉……開いてないのにどうやったの?
「……戻った……どうして、皆泣いてる?」
可愛らしく小首を傾げるウルルに俺の心は和むが、指摘された者達はそうもいかない。
「馬鹿な!フェルズ様の御前でそのような醜態を晒す訳がないだろう!?」
「その通りだ!馬鹿者!貴様、目が悪くなったのではないか!?」
何故かウルルに食って掛かるキリクとリーンフェリア。そしてそれにムッとした表情を見せるウルル。
「……私の視力は……三キロ先から……視力検査出来る程……」
視力検査の範疇にないな……とりあえず、三キロ先から上とか下とか言われても聞き取れないぞ?
「……ウルルよ。報告を頼みたいのじゃが?」
何故か睨み合っている三人を見ながらアランドールが呆れたように言う。但しその目は真っ赤だ。
「……村を発見した……規模は二百人程度……治安は普通……発展度は低」
報告内容がゲームで間者を飛ばした時に得られる内容だ……まぁ、それはいいか。それより人口二百……レギオンズで言うなら一番ランクの低い村だな。
魔力収集装置を置いたとしても月に二千しか手に入らない。しかし……
「悪くないな」
俺の呟きに全員の視線が集まる。
「ウルル、村までの距離は?」
「……およそ、三十キロ」
三十キロの往復をウルルは自分の足でしたの?まだウルルが外に出て二時間も経ってないと思うけど?ってかまっすぐ行って帰って来ただけじゃないだろうし……ウルルって時速何キロ出せるの?
そんな思いをぐっと飲み込み一言
「なるほど」
そう呟いた俺をじっと見つめる八人……物凄いプレッシャーなんだが?
「この状況……魔石や食料も大事だが、何より必要なのは情報だ」
「では、街に外交官を……」
「待て、キリク。外交官はダメだ。敵対している訳じゃないぞ?」
「はっ!申し訳ありません」
何も知らない村人相手に外交官は過激すぎるからな……呼び方を変えるべきだと思う。
さて……どうやって情報収集をするか……正直、ここまで話した感じから、キャラ達に任せるのは不安が残るし……俺が行くしかないか?
だが、自分の能力も把握していないのにいきなり外に出るのは……そうか、その前に訓練所で能力を調べてから行動しよう。
訓練所とは食堂や飛行船発着場と同じく、魔石を使って維持している施設で……訓練による能力強化や、RPGパートにおける技や魔法、パーティ編成の確認をしたり、戦争パートにおける戦争の練習をしたりすることが出来る施設だ。
とりあえず今日の所はそこで能力をチェックして……明日ウルルに案内してもらって、村に行くか。
「ウルルが発見した村へは明日、俺が向かう」
「「!?」」
俺がそう宣言すると、会議室に居た全員の顔が強張る。
まぁ、普通は軽々しく王が動いたらダメなんだろうけど……今回は仕方ないだろう。まぁ、訓練所で俺がへなちょこだと分かったら行くのは止めるが。
それにレギオンズの頃は主人公もばりばり前線に立ったり、ダンジョンに突っ込んで行ったりしてたから……問題ないと思う。
「勿論ウルルと二人でと言う意味ではない。何人かは連れて行く……アランドール、キリク、イルミット」
「「はっ!」」
「お前達には城を任せる。何かあれば外交官を俺の元に走らせろ」
「「はっ!」」
俺の言葉に三人が頭を下げる。それを確認した俺は残りの五人にも声を掛ける。
「ウルル、お前は俺を村へ案内。ただし、村についてからは姿を隠し、村人に気付かれない様に行動してくれ」
「……はい」
「リーンフェリア、エイシャ、カミラ。お前たちは護衛として同行してくれ」
「「はっ!」」
「それとオトノハ、お前も同行してくれ。但しお前の役目は調査だ。魔力収集装置をその村に設置することが出来るのか、設置できたとして魔石を生産することが出来るのか。情報収集と同様に最重要任務だ。頼むぞ」
「任せとくれ」
オトノハが力強く頷いたのを見て、俺は椅子から立ち上がる。
「最後に一つ、お前達に……いや、この場に居ない者達も含め、伝えておかなければならないことがある」
全員の真剣なまなざしが俺を射抜く。だが、今から言う言葉は絶対に伝えておく必要がある。
俺にとってだけではなく、彼らにとってもここは紛れもない現実なのだから。
「今、我々は不測の事態に見舞われている。だからこそ、今まで通りでいてはならない。各々がその意志を持って考えて行動せねばならないのだ!絶対に思考を止めるな!我々が大陸の覇者であったのは過去の事と考えよ!再び我らは歩み始めなければならぬのだ!」
ここがレギオンズの世界であれば……エンディング後の世界であれば、平穏に過ごすことが出来たと思う。
まだその可能性はゼロではないが……この状況から見るに、限りなくゼロに近いと言えるだろう。
だが……だからと言って何をどうする訳でもない。謁見の間でフェルズを名乗った時と変わらない。
ここがゲームであろうと現実であろうと、俺が生を諦めず進んでいくことに違いはない。
「そして、以前のままではないのは俺も同じだ。リーンフェリアには既に伝えているが、俺は神界に居た影響か、記憶に不確かな部分がある。それはつまり……皆が忠誠を誓った覇王フェルズとは別の存在と言えるかもしれない」
拒絶されてしまうのではないかと言う不安はある。
だが、誤魔化しながら彼らと付き合っていくのは違うと思う。
今ここに居る彼らの思考が、ゲームシステムの枠を超えることが出来なかったように、彼らの中に居る覇王フェルズもまた、ゲームシステムの枠の中だけにしか存在していなかった覇王だ
覇王フェルズを操作していたのは確かに俺だ。だがそれは、俺イコール覇王フェルズと言う訳ではない。
「だが……それでも、俺は俺でしかない」
ゲームと言う枠を超えた彼らの前に立つのが俺であると言うのであれば、俺も超えて行かなければならない物がある。
「ついて来て欲しいと言うのが傲慢な願いだと言うのは分かっている。だが、俺はお前たちの中に居る、かつてのフェルズを超えて見せる!だから、お前達も、昨日までのお前達を一歩で良い、超えて行ってくれ!」
俺の言葉を聞いた全員が、その場に跪いた。
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