第4話 宣言と確認



 謁見の間が大歓声に包まれている。


 俺が名乗りを上げた瞬間、大音声が鳴り響き……正直俺はビビった。いや、反応はあると思ったよ?ちょっと狙ってましたし?でもここまでとは思いませんでした。


 それだけここに居る皆が感極まったのだろうし、煽ったのは俺だ。謁見の間で大騒ぎしていいのかしらと思わないでもないけど……この場にいる中で一番偉いのは俺だろうし、俺は全く気にしない。


 何も問題ない。


 問題は無いが……俺が喋るタイミングもない。


 どうしよう?これで挨拶終わっていい……わけないよな?名乗っただけだし……とりあえず手とかスッてあげてみる?そしたら一斉に黙ったりするかも?そういうの見たことあるし?


 そう思い、俺はスッと手を上げてみる。


 次の瞬間謁見の間を破壊せんばかりに鳴り響いていた音が、寸分の狂いなく鳴りやんだ。


 マジか……訓練されすぎぃ……っといかんいかん、我覇王ぞ?


「……まさかこのような形で皆に会う事が出来るとは思っていなかったが、俺は今ここに居る」


 これは全力で本心だ……正直状況は未だよく分かっていない。それでも俺はこうして皆の前に立っている。覇王フェルズを名乗った時と同じ……自分の意思でだ。


 俺は今、覇王フェルズの皮を被っているだけのただのゲーマーだ。


 これが現実だと言うのであれば……俺は、他人の築き上げた功績……そこから生まれた忠誠をかっさらっただけの盗人。本来であれば、今跪いている彼らの忠誠を受けること等あってはならないと思う。


「本来、俺はここに……皆の前に立つ事が出来ない筈だった」


 しかし……ここに居る以上……フェルズの姿である以上……俺が俺でしかない以上、俺がフェルズだ!文句は受け付けない!


「だが、何の因果か、俺はこうしてこの姿でここに居る!」


 ここはエンディング後の世界……何が起こるかは分からないが……きっと大丈夫……危ない事は無い筈!日々平穏な覇王ライフを満喫できる筈!だって統一してるもん!悪政を敷かなきゃ大丈夫っしょ?


 短いけど……演説はもう終わりだ!最後に唯一ある主人公の台詞で締めるか!


「ならば誓おう!我が剣は闇を切り裂く為にあり!我が盾は後に続く者を守る為にあり!我が前に道はなく、我が歩みこそが道となる!全てを併呑せしめよう!覇王フェルズの名の下に!」


 主人公が称号を得た時の台詞だ。前半はどの称号でも同じだが後半は得た称号によって変わる。覇王はオラオラ感があるね。


 とは言え、これからの覇王はちょっとマイルドに生きますよ?


 俺の言葉を聞いて跪いている皆の目が、涙を流しながらもギラギラしてきだしたしね……ここで少し息を抜こう。正直煽り過ぎた感あるし……。


 そう考えた俺は、玉座に乱暴な様子で座る。


「まぁ、この大陸は平定しているから、今後はそれを盤石にしていく感じになると思うがな。戦争ならともかく、そういうのは苦手だ……皆、手を貸してくれるか?」


 嘘です、軍事も政治も無理でござる。


「「はっ!」」


 皆が一斉に頭を垂れて返事をしてくれる。色々とやっていけるか不安ではあるが……内政系のキャラもいるはずだし、なんとかなるよね?


 そのまま……しばしの間謁見の間に静寂が訪れる。


 え?これどうしたらいいのかしら?閉会宣言的なのないのかしら……?


 あ、もしかして俺が退室すればいいのか?しかし……無言で去るのも……あぁ、そうだ。


 俺は玉座から立ち上がり口を開く。


「皆の働きに期待している……リーンフェリア」


「はっ!」


 俺はリーンフェリアの名前を呼び、そのまま歩き出す。すると俺の後ろをリーンフェリアが付いてきた。扉はどうしたらいいんだ……このまま行くと俺が開ける感じなのだが……いいのか?それは覇王的にいいのか?


 そんな杞憂は扉の横にいたものが開けてくれたおかげで霧散する。俺は心持ゆったりとした歩調で謁見の間の外に出るとリーンフェリアに話しかける。


「少し、話せるところに行きたい。私室……いや、執務室に案内してくれるか?」


「はっ!畏まりました!」


 いきなり私室に女の子連れ込んだらあかんやん?覇王とは言え、紳士ですし?仕事してるアピールも必要ですし?


 っていうか俺に私室ってあるのかな?執務室の背景絵あったけど……私室って無かった気がする。


 覇王……寝る場所あるかな……?


 そんなことを考えていると、リーンフェリアが応接室のような場所に案内してくれる。ソファが向かい合う様に置かれていて、その間には低めのテーブルが置かれている。どう見ても書類仕事をするには向いていない高さのテーブルだ。


 あれ?執務室って言った気がするけど……あぁ、もしかしたら奥にある扉がそうなのかな?そんな風に扉を見ていると、リーンフェリアが扉を開けてくれた。


 その先にはゲームで見覚えのある部屋があった。やはりこっちが執務室か。本棚に囲まれた重厚な執務机……座っているだけで滅茶苦茶仕事できる人に見えそうだけど……そう言えば文字って日本語かしら?国産ゲームなんだから日本語であって頂きたい。


 とりあえず、今はこっちの執務室は使わなくていいか、椅子が一つしかないし……手前の応接セットをつかうとしよう。


「リーンフェリア、座ってくれ。何度もすまないが、聞きたいことがある」


「はっ!失礼します!」


 リーンフェリアが一礼の後、俺の向かい側に座る。背筋がびしっと伸びていて……非常に堅苦しいが……まぁ、あの謁見の間での様子を見る限り仕方ないのか?


「まずは、リーンフェリア。君は近衛騎士長だよな?」


「はっ!その通りです!フェルズ様より任命いただきました!」


 やはりそうか……拠点パートでは国の大きさに応じてキャラに色々な役職をつけることが出来たんだよな。もしその役職の配置が俺の記憶通りだとしたら……この世界は俺のセーブデータが元になって作られていると考えて間違いないだろう。


 エディットキャラは名前も俺がつけているから……同じなんてことはあり得ないしね。


「……今から俺の記憶が間違っていないか確認する。間違っていたらすぐに指摘してくれ」


「畏まりました」


「大将軍はアランドール。内務大臣はイルミット。外務大臣はウルル。大司教はエイシャ。開発責任者はオトノハ。宮廷魔導士はカミラ。参謀はキリク」


 俺は役職用に作ったキャラの名前を思い出しながら上げていく。因みに、特に理由は無いがアランドールとキリク以外は全員女の子だ。不思議だ。


 因みにこの役職、それぞれ国や味方キャラに対して支援効果……いわゆるバフがかかるだけで、役職についているからといって何があるわけでもない。バフを最大限付与することのできる能力を持たせたキャラを配置しているだけである。


 リーンフェリアの近衛騎士長という役職も同じで、味方全体への防御系のバフを掛けるポジションだ。


「はい。相違ありません」


 リーンフェリアの肯定を受けて、俺は確信へと至る。これは、間違いなく俺がエディットしたキャラ達……そして俺のクリアデータだ。


 それはつまり……ゲーム中最高難易度である、白の国選択の覇王・邪神ルートを最高難易度設定でも楽々クリア出来るくらい育成が進んでいるという事だ!


 ……いや、待て待て、結論を出すのは早いぞ。


 俺のエディットしたキャラであっても育成済みとは限らないじゃないか……ステータス、ステータスを聞けば育成済みかどうか分る。


「リーンフェリア。お前の武力はいくつだ?」


 武力とは、RPGパートにおける攻撃力、戦争パートにおける一騎打ちの強さの数値だ。


 リーンフェリアの正確な数値は覚えていないが、確か装備無しで120に行くかどうかと言った所だったはず……MAXが125なので相当な武闘派である。


「も、申し訳ありません……いくつというのは……どうお答えすれば良いのでしょうか?」


 顔面を蒼白にしたリーンフェリアが小刻みに体を震わせながら、絞り出す様に俺に聞いてくる。


「ん?どう答えれば?普通に数字で答えてくれればいいのだが……」


「数字でございますか!?」


 リーンフェリアが目を見開くようにしながら声を上げ、その後ぶつぶつと小声で何やら言っているのが聞こえてくる。


「え?数字で武力を?……普通……普通って、どうしたら……?あ、あぁ……フェルズ様の問いに答えることが出来ないなど……おねぇちゃん、どうしよう……」


 リーンフェリアが目をぐるぐると回しながらどんどんテンパっていくのだが……これはステータスを見る方法が無いという事か?これは予想外だ……メインで使っていたキャラなら、大体誰がどのくらいの能力で何に向いているとかは覚えているが……まぁ、何とかなるか。それより、リーンフェリアがおねぇちゃんって……そう言えば姉がいる設定だったか?そういう細かい設定は流石に覚えてないぞ……?


「フェルズ様!申し訳ございません。私はフェルズ様の問いに答えることが出来ません!この役立たずの首を今すぐ落としてまいります!」


 ふぁ!?


 少し思索に耽っている間に、リーンフェリアが自決を決心していた!?


 勢い良く立ち上がったリーンフェリアが部屋の外に出ようとするのを慌てて止める。


「お待ちなさい!リーンフェリア!座るのだ!」


 慌てたせいでなんか変な口調になってしまったが、仕方あるまい。覇王だって慌てることはある。


 座れと命令したおかげか、リーンフェリアは大人しく言う事を聞きその場で床に座る。


 いや、椅子に座っていいのよ?


「すまない、リーンフェリア。俺の聞き方が悪かった。少し待て」


 武力の数値化は無理……何か方法は……一騎打ちの強さ……いや、ゴーレムだ。


 レギオンズのRPGパートにゴーレムと言う魔物がいる。こいつは魔法を使えばさくっと倒せるのだが、物理攻撃だと一定以上の武力が無いとダメージを与えることが出来ないのだ。


「アダマンタイトゴーレムをリーンフェリアは鉄の剣で傷つけることが出来るか?」


「可能であります」


「分かった。椅子に座れ」


「はっ!」


 アダマンタイトゴーレムにダメージを入れることが出来るのは武力が115以上必要で、鉄の剣は武力を1上げることが出来る。システム上素手には出来ないのでリーンフェリアの武力は114以上……俺の育成した強さとほぼ相違ないと言えるだろう。


 もう一つ確認しておくか。


「装備無しで率いることのできる兵の数は何人だ?」


「一万二千です」


「一万二千……」


 詳しい説明は省くが、レギオンズの一般兵は武将によって召喚されるシステムで、武将一人が呼び出すことの出来る兵の数はそのキャラの統率の数値の百倍。


 リーンフェリアは一万二千の兵を率いることが出来るので、統率の数値はその百分の一の120だ。


 これで間違いない、リーンフェリアの能力値は並みの育成具合ではない。


 浮かれない様に慎重にここまで確認したが……これは浮かれていいんじゃないか?


 レギュレーションを守っているから決してチートではないが……あの謁見の間に居た半数以上がリーンフェリア程ではないにしても一線級の育成状況のはずだ……勝った……これは勝った……ぐふふ。


 俺は椅子からゆっくりと立ち上がり、リーンフェリアの傍に移動する。


「ありがとう、リーンフェリア。お前たちが居てくれて良かった。俺は心の底からお前たちの事を誇らしく思う」


「ふぇ、フェルズ様!」


 リーンフェリアがソファとテーブルの隙間で片膝をつこうとして全力でテーブルに頭を打ち付ける。


 ……俺がすぐ傍まで来てしまったからそんな狭い所で膝をつく羽目になってしまったのだな……正直すまんかった。


「フェルズ様!そ、そのお言葉だけで……我等は……!」


 ぎゃん泣きといった声のまま、リーンフェリアが喋り始めたが、その瞬間扉が凄い勢いで叩かれ、外から俺の名を呼ぶ声がする。


「フェルズ様!大変!大変なの!ここにいる!?フェルズ様!」


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