第8話 犯罪と冒険者
竪穴住居は、深夜になると真っ暗だ。魔力で小さな明かりを灯すと、藁を積んだ上にシーツをかけたベッドで、うつ伏せに眠る者がいる。その枕をはぎとり、それを後頭部から押し付けると、背中に馬乗りになった。
いくら寝起きが悪くとも、目を覚ました相手はすぐ、事態を悟った。
「やっぱり……生きていたか」
「ほう? サカラは気づいていた、と?」
オレのお尻の下では、サカラがうつ伏せに横たわる。
「ジャースネイクの巣窟は、隊列の三、四人目を襲う。だからパーティーで入ることは厳禁。間を開けて通過するのが鉄則だ、私は後で盗賊のスキルでもどり、あそこを見た。服はボロボロで残っていたが、荷物はない。逃げたか……とは思ったけれど、まさかこんなに早く……」
「復讐にくることが分かっていて、よくぐっすり眠れるな」
「盗賊なんて、いつも反撃を意識するものさ。襲撃は早くて数日後……。それまではたっぷり休む。それが盗賊だよ」
枕で押さえつけるため、表情は見えないけれど、サカラはそのとき自虐的に笑っていたはずだ。
「なら、そんな寝不足のサカラに訊こう。何でオレを嵌めた? オレを殺せ、と依頼したのは誰だ?」
「ギルドを通した、匿名の依頼だよ。もっとも、ジョドもモドフも、それがなくともアンタを殺すつもりだったから、よい口実となった。惨たらしく殺して……というのも渡りに船さ」
渡りに船……の使い方は正しいのだろうか?
「なら、冒険者がロタ・ディエーヌを襲ったのは、誰からの依頼だ?」
「ディエーヌ家からだよ」
「自分の娘を強姦させようとしたのか?」
「否、多分母親だろう。ロタとは血の繋がりのない、後妻だよ。多分、妊娠でもしたんだろ? 自分の子供に家の財産、権力を継がせたくなった……。かといって前妻の子を殺すに忍びなく、強姦で手をうった」
「冒険者は〝犯罪には手を貸さない〟が、暗黙のルールのはずだ」
「この町では、ディエーヌ家のいうことが絶対……なんだよ。恐らく、父親もそれを了承した。隣町へと使いに出されたのも、そういうことだろう。良家との縁組を遠ざけるために、疵ものとする。冒険者はそれに手を貸すだけ……。だから四人もそれに乗ったんだよ」
事情が分かってきた。
でも、そうなるとオレを殺せ、と依頼したのは誰? 計画を台無しにされたディエーヌ家……と思えるが、自分の娘を強姦する依頼を公然とだしておいて、今さら匿名にする必要はない。
「なぁ、一つ頼みを聞いてくれるか?」
サカラはうつ伏せになりながら、背中に馬乗りになるオレの、その足に艶めかしく指を這わせてくる。
「私、こう見えて処女なんだ。どうせ殺されるのだとしても、男を知ってから……にしたい。エルフとのセックスは最高なんだろ? 冥土の土産にちょうどいい。それとも盗賊を生業とする、ガサツな女は嫌いか? 嫌じゃないなら、今晩……」
「そうか……。じゃあ、味わってくれ」
ドンッ! 手にした矢を、背中から突き刺した。
「その腰つき……。どこが処女だよ。生憎、デオンの女とやる気はない」
「私は……処女だよ」
悶絶するサカラは、肺から空気が漏れているために話をすることさえ困難な中、そう呟く。オレもその言葉に、枕を押さえる力が緩んだ。
サカラは最後の力をふりしぼり、オレを跳ね飛ばして自分の荷物に飛びつくと、そこから何かをとりだして、ピンを抜く。
手榴弾ッ⁈ その竪穴住居は、一発で吹っ飛んでいた。
レイン・オブ・テラー ~〝卑怯〟をもつエルフ~ まさか☆ @masakasakasama
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