第7話 復讐の宴

「仲良くしようね、相棒❤」

 オレの背中から這い上がってきた小龍が、肩に乗って、そう甘い声をだす。姿をみるとツチノコ想像図、そのものだ。頭と胴が太く、首はくびれて、そこに小さな尾がつく。ただ、小さいけれど手足があって、ヘビや龍より、トカゲやサンショウウオに近いように見えた。

「相棒? 仲間とみとめるのか?」

「長いこと、洞窟に閉じこめられていたから、私は外の世界のことを何も知らない。アナタが死ねば、私は困るし、私が死ぬと、アナタは未来永劫、私からの復讐に怯える、でしょ?」

 エルフも、竜族も、長寿だった。

「長いこと狙われ続ける……か。分かったよ。でもその話し方、声もそうだけれど、キャラ変か?」

「声は首の長さとか、体のつくりが違うから、仕方なくない? 話し方は、昔の私はこんな感じだよ」

 一人称も変わったけれど、もしかしたら……メス?


「分身……も、魔法をつかえるのか?」

「さぁ?」

「さぁ……って」

「最近、この分身を覚えたんだよ。つくるのも初めてで、何ができるか? おいおい確認してみるつもり」

「分からないこと尽くし……か。名前は?」

「竜族に名前はないよ。神族からは『激甚龍』と呼ばれていたけど……」

「暴れ過ぎだろ、その異名……。じゃあ、ドラえごんと呼ぼう」

「何? ドラゴンの真ん中に『え』を入れても、私のお腹にポケットはないよ」

「お気に召さない……というか、元ネタ分かるのか?」

「転生者を喰ったとき、その記憶をみたのよ」

「喰ったのか……。じゃあ、エアトにしよう。EATと書いて『喰う』だよ」

「OK、それで構わないよ。そんな話をしていたら、お腹空いた。食事は? なければオマエを喰う」

「それは非常食として、最後にしてくれ。それより、洞窟をでないと食べ物もない。出口はどこだ?」

「知らないよ。私は泉に縛られていたんだよ。神ってば、私を封じた泉の上に、土を乗せて埋めたんだ。私が暴れたり、大声をだしたりして、やっと地上までの空間ができたんだよ」

 よく地震の例えに、地下でナマズが暴れる図を描いたりするけれど、まさに水龍がそうだったようだ。そしてごく最近、洞窟ができた理由も分かった気がした。


「洞窟ができたら、魔獣が湧くようになって、それを喰らっていたの」

「だから、オマエを連れて歩くと、魔獣が近づいてこないのか……。サイズは縮んでも、匂いで分かるのか……」

「私、体臭はないよ!」

 体臭より、気配かもしれない。体に貼りついているので、大分慣れてきたけれど、邪悪な感じはひしひしと感じさせた。

 やっと地上にでてくると「やったーッ‼ 久しぶりの太陽!」

「夕方だけど……。さて、これからどうするか……」

「仕返しするんじゃないの?」

 ここまで、オレが洞窟に入ってから、泉に墜ちるまでの経緯については説明しておいた。

「仕返し? してどうする。このまま死んだと思わせておけば、追手もかからず、後腐れもないだろ?」

「それでいいんだ? へぇ、意外とチキンだね」

「…………。オマエは、何をさせたいんだ?」

「暴れたいだけよ。久しぶりに……」


 カルクソヌの町、夜――。

 ギルドをでて、ほろ酔いで歩くのはヘリオだ。お調子者の彼は、金はなくとも酒の席に誘われることが多く、したたかに酔っていた。でも、急に胸倉をつかまれ、裏道に引きずり込まれると、壁に腹を向けて体をおしつけられ、脊髄の辺りをぐっと押さえつけられた。

 こうされると、体が伸びた状態となり、身動きがとれない。それでも、顔だけを後ろに向けた。

「こ、これはミトラの旦那……。生きていたんスね……」

「オレが怒り心頭……というのは分かるだろ。なら、正直にすべて話せ」

「オ、オレ……見習いッスよ。詳しいことは何も知らないッス」

「そうか……。なら、死ね」

 壁に押しつけられたまま、首を横に裂く。鮮血が壁に飛び散るけれど、すぐには死ねない。血が気管に入って、そのまま窒息するのを待つしかない。ヘリオは首を掻き毟りながら、口をぱくぱくさせ、そのまま動かなくなった。


「毛も生えていない冒険者に殺されそうになったの? 弱いんじゃね?」

 エアトが背後から、そう声をかけてきた。

「〝卑怯〟は、相手の仕掛けた罠、策略も感知するらしいが、魔獣の純粋な食欲まで感知したりしない。だから嵌められたんだよ」

「これ、食べていい?」

「これは宣戦布告の証。ここに残しておく。どうせ後で、たっぷり食えるさ。何しろ今日は、オレのご帰還パーティーだ」

 オレはニヤッと笑った。


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