四、やくざ者たち
雨上がりの涼しい風
わたしを乗せていく
どこまでも どこまでも
気の遠くなるようなその先まで
人間たちの楽しげな声
わたしは失せていく
いつまでも いつまでも
誰もいない遠く未来まで
またいつもの夢か
わたしたちも夢を見る
それはそれは楽しい世界
夢の中はわたしの世界
わたしが主役
わたしが正義
わたしが全て
あなたはどこに
わたしたちも夢を見る
それはそれは恐ろしい世界
夢の中はあなたの世界
あなたが主役
あなたが正義
あなたが全て
わたしはどこに
夢も現実も同じ
交互にやってきては弄んでいく
人生山あり谷あり
良いこともあれば 悪いこともあるのさ
帳尻が合うようになっているのさ
本当かな
みんなの幸福は みんなで担保している
わたしたちは運命共同体
楽しいときも つらいときも 一緒さ
さあ 手を取り合って
理想の共産主義だよ
抜け駆けは駄目だよ
そんなことしたら殺すから
面倒な生き物だよ
ケダモノが笑顔の仮面を付けて踊ってる
きまったスーツに血だらけの仮面
それは誰の血
ケダモノが紳士に振る舞って涎を垂らしてる
上から下まで舐めまわして 股間は上機嫌
それはどうして
ケダモノが涙を流して訴えてる
ぐしゃぐしゃの顔に迫真の演技
それは誰のため
全部自分のため
正直になればいいと思うよ
ケダモノはどんなに背伸びしても ケダモノなんだから
おや そんなことを考えてたら 家の前にケダモノが
真っ黒の車 真っ黒のスーツ 真っ黒のサングラス
烏人間のお出ましさ
なんちゃら人間コンテストに出たいのかな
でもケダモノらしくて わたしは好きだよ
人間もどきよりも清々しいと思わないかい
自分はケダモノです ってアピールしてるんだから
正直者だよ
おや なにか言ってる
葛木のボケは帰っとらんみたいですわ どうしましょう
さっさと探してこいや アホかお前
テレビさながらの言い回し
それでも本物は迫力がちがうな
わたしたちの中にも こんな性格のはいるのかな
もしかして わたしがそういうタイプだったりして
あのアホのせいで 儂はムショに入ったんじゃ
こんな田舎におったとは驚きや
いかついボスはタバコを吹かす
これは不味いよ
あっ 両方の意味でね
言い忘れてたけど 久資は元はやくざ者なんだよ
どういうわけか今 この人たちと揉めているみたい
人間の世界は大変だね
殺してしまえば 因縁ともオサラバ
だけど できないからこんなことに
久資はあと何日生きられるのかな
わたしはあと何日で終わるのかな
なんだか胸がざわついてきた
懐かしい匂いがするよ
わたしは戻るのかな
あの頃に
どちらのわたしが出るか賭けるかい
鬼が出るか蛇が出るか
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