三、わたしの夜

 ぽつぽつ しとしと ざーざー

 自然の音楽隊がやってきた

 舞台は賑やかだ


 カンカン ドドド ヒューヒュー

 飛び切りの声援が送られる

 観席は賑やかだ


 わたしたちの夜は長い


 人間みたく決まった時間に寝ないからね

 呑気にそんなことをしてたら喰われるよ

 睡眠は小刻みに

 ジャーキーのように


 わたしの夜は長い


 一ヶ月やそこらで習慣は変わらないからね

 どっしり構えて朝日を待つのさ

 暗がりに身を潜めて

 闇に溶けるように


 わたしの体は真っ黒


 朝を待つにはおあつらえ向きさ

 真っ黒なボディにぎらつくライト

 気分は高級外車

 燃費が悪いのが玉に瑕


 わたしの目は真っ黒


 闇に潜むにはおあつらえ向きさ

 真っ黒な服に 闇を照らす日本刀

 気分は忍者

 荒い呼吸が玉に瑕


 どうして今日はこんなにキザなんだろう


 どうして

 うーん 夜だからかな

 答えはそれで十分だよね

 ほらっ 夜は無限の可能性が広がってるから


 どうして

 うーん 静かだからかな

 うるさくて とても静か

 ほらっ 夜は無限の可能性が広がっているよ


 毎日 夜がやってきて朝がやってくる

 変わらないけど 二度と来ない

 そんな毎日をわたしたちは生きてる


 おや 名言みたいだね

 人間たちもこんなことを言っては 大勢から称賛される

 そんな自分が大好きで誇らしくて たまらない

 気持ち良すぎる

 何度も味わいたい


 おや わたしもそうみたいだ

 わたしたちはこんなことを思っては 吠えて鬱陶しがられる

 そんな自分が憂鬱で無力で 腹立たしい

 不快すぎる

 二度と御免だ


 おや やっぱりちがう

 わたしたちは 同じようで全くちがう

 畜生風情が 人間様と同じわけがあるかって言うのかい

 畜生はお互い様さ

 粋がるんじゃないよ 人間


 どうにも今日のわたしはおかしいね


 自分の中に自分がいる

 それもひとりじゃない

 夜がそれを呼び覚ます


 わたしはジン


 久資が付けてくれた

 ジン じん 陣 人 塵 仁

 どれかな

 どれでもいいや

 そんなことないよ

 やっぱりこっち


 そんなこと考えてたら朝がやってきた


 自然の音楽隊は引き上げて 小鳥の伴奏者がやってきた

 今日も心地よい音色を響かせてるよ


 さあ 今日も一日頑張ろう

 でも わたしはもうひと眠り

 雨上がりの涼しい風が頬をくすぐるけど

 ふっ 起こそうとしたって無駄だよ

 わたしは眠ってるんだ

 本当のわたしは眠ってるんだ

 久資に拾われたあの日から


 いつ起きるんだろう

 もう起きないかな

 夜になったら試してみよう

 そうしよう

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る