付録

著者あとがき

 ストーリーの展開やキャラの運命に至るまで、ほぼ全ての要素を弄りに弄りまくった結果、基本構想が出来てから脱稿までに1年8か月も掛かってしまったという、超異例の作品となりました。これまでは、一度執筆に行き詰まると、そのまま書く事を諦めてボツとなる……というパターンがお決まりだったのですが、今回は諦めずに最後まで書ききったので、まぁ自分としては上出来だったと言えるでしょう。


 では、どうしてそんなに何度も構想を練り直す事になったのか? というお話なんですが。それは今回『吹奏楽』をテーマとして選び、主軸に据えているからなんです。

 ファンタジーであれば『魔王を討伐する』、アクションストーリーなら『敵の首領を倒す』、スポーツなら『ライバルを降し、大会で勝利する』など、必ず『宿敵を倒し、目標を達成する』という目的が明確になっており、その為に主人公とその仲間たちが『ストーリーの中で成長し、強くなっていく』過程が描かれますよね。しかし吹奏楽というジャンルでは、そもそも『宿敵』の存在を明らかにし難い。優れたプレイヤーが他所の楽団に居て、その人を越える事が目標と設定するのは良いのですが、例えばコンクールなどに於いて金賞を受賞するなどの結末を描いたところで、それを『勝利』と表現するのは些か苦しい。よって、本作に於いては『宿敵との和解』という結末を紡ぎ、それが主人公の目標を達成させる鍵になるという展開に致しました。


 本作のアイディアは、所謂スポ根ストーリーの王道としてしばしば描かれる『弱小チームに入った主人公が、仲間と共に成長して、強豪チームに勝利する』というストーリーを吹奏楽でやったらどうなるか? という、きわめて単純な発想が元になっており、それ自体は構想の時点から一貫して変わっておりません。が、小説として本作を紡ぐにあたって、どうしても無理! と判断された事情が幾つかありまして。その中の一つが『登場人物の数』という要素の存在でした。

 野球なら9人、サッカーなら11人という、最低限必要な人数しか居ないという表現を用いると、読者に『このチームは弱い』という認識を与えやすいものですが、吹奏楽でコンクール出場が可能な人数を揃えるとなると、最低でも30人以上は楽団員が必要となります。そうなると、作者としても物語を紡ぐのが困難になりますし、何より読者の方で『コイツ誰だっけ?』という混乱に陥ってしまう事になる。そこで『部員数がありえないほど少なく、吹奏楽編成を組めない』吹奏楽部の描写を選んだ、という訳なのです。

 そこまで考え及んでいたのなら、描写も難しくないだろう……そうお思いになる方も居られる事と思います。しかし、予想外の障壁というものは、何処に潜んでいるか分からないものでして。

 実は先の着想を得た当時、たぶん他には無い展開だろう……と思ってたんですが、その直後に『美形男子が数名集っただけの吹奏楽部が再起していく』というストーリーの育成シミュレーションゲームが大々的に公開されている事を知って、その時点で本作は『パクリ』と見做される危険が高いと思い、一度は封印しようと考えたんです。しかし、吹奏楽というジャンルを描いた先行作品は多数ありますし、類似の設定・展開を持つストーリーに至っては、数えるのも馬鹿らしくなるぐらい存在しているぞという助言を頂いた事で、多少の手直しを加えた後に執筆を再開する事にしたのです。ま、そこまで開き直るのに、半年近くも掛かってしまったんですけどね(笑)


 ともあれ、作者自身が吹奏楽の経験者であり、これまでも『主要キャラが吹奏楽部』という設定を用いたストーリーを紡いだ事はありましたが、吹奏楽それ自体を主軸に据えた作品は本作が初となります。吹奏楽に詳しくないお方にも楽しんで頂けますように配慮したつもりではありますが、至らない部分も多々あると思われます。それでも、お話自体に興味を持っていただき、少しでも楽しんでいただけましたら幸いでございます。


 末筆となりますが、今回も当サークルの作品を手に取っていただき、誠にありがとうございました。


 2022年2月10日   県 裕樹

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