第14話 最終話
⑭某月某日某時
電子メール
ロダン、
犯人は佐賀に住む仏師の小暮万次という男だ。
そして君がいう例の博多天神にあった百貨店Mの宝石を強奪した窃盗団のリーダなんだ。
何故、仏師でもあり仏の側に仕える男があんな奇妙なことをしでかしたのか。
聞けば、往時あいつは仏師として腕は良かったが酒癖が悪く、色んなところに借金があった。それでその借金の返済の為に宝石強盗をして、行方をくらましていたが、遂に警察に見つかり巌流島付近を船で逃走中、警察に囲まれ、お縄になった。
その際、奴は海に落ちて掴まったのだけど、実は肝心の盗んだ宝石類は見つからなかった。
警察は躍起になってあいつに自白させようとしたり、また関係者や逃亡経路を懸命に捜索したけど、結局駄目だった。
しかし、すごいぜ、ロダン。
聞くところによれば強奪した宝石類の総額たるや、あいつが抱えていた三百万そこらの借金の金額に見合わない額の三億円相当だそうだ、全く驚くよな。
そしてあいつはつい三か月前、刑務所を出て、この付近を牧師まがいの姿でうろつき始めた。
それがメールにある通りだ。
何故あいつが牧師姿になったのかは、奴曰く――マリア像という事でそれに似合う姿になる方が良い、なんていう素人剥き出しの浅い考え方なんだ。
まぁ仕方ないよな。万次はホームズに出て来るモリアーティ教授のような犯罪の芸術家じゃないのだから。
だがな、ロダン。
あいつは意外と計算高い。
なんとここら辺をうろつく前にどこに往時の自分が投げ出された付近の潮の流れが海岸のどこら辺に辿り着くか、ちゃんと風船を流して実験して、見当を立てたそうだから。
それで奴は昔この付近で僕等親子が変な彫像を拾ったという噂を聞いたらしく(やはり田舎だな。都会ではこうした噂なんて三日もすれば消えてしまうのに)家にやって来て遂にそれを強奪したという訳さ。
だが、ロダン。
ほら、話しただろう。その後に家にやってきた目つきの悪い老人の事を。
実は奴なんだけど当時の万次の事件の担当刑事だったらしく、出所後のあいつの後を付けていたらしい。何とも刑事の執念というか勘なんだろうな。何としてでも宝石類を探し出したい、だからきっと奴は隠している宝石類に近づく筈だと言う、直感にも似た刑事の執念という一言に尽きるよ。
そして遂に万次が彫像を抱えて僕の自宅を走り去り巌流島へ逃げたとところ、その刑事、木刀を握りしめてかの宮本武蔵のごとく見事な跳躍で佐々木小四郎ばりの万次に飛びかかり、強烈な木刀の一撃を額に食らわして悶絶させて取り押さえたという訳さ。
ここにかくして万次は再び掴まり、彫像の秘密を警察に喋るという事になったのだけど、いやいや実際は中々上手くいかないもんだね。
つまりこの彫像は自分がある山中に隠した金庫の鍵を隠した仏像で、あの時海に落ちた際、この彦島に運よく流れると目算して、やがて時を経て回収し、中に仕舞い込んだ彫像から金庫の鍵を取り出すのだという算段の様だったけど、だが警察署で彫像の中を割って見たら何もない。
流石に万次、ここで運尽きたのか、声無く驚いてその場で勢いよく舌を噛んで自死したらしい。
…憐れだね。
さて、ロダン。
彼の自死には君も心苦しく思っているだろう。なんせ君が言った忠告がそうさせたのだから。
今君は馬蹄橋のある東夜楼蘭での観劇を終え、何やら傷心のようだと言っていたね。
失恋かい?まぁ失恋と言うのは気の毒だけど僕等にとってはとても大きなインフルエンザ風邪みたいなものだ。やがて治るさ、ロダン。
それでだけど、君は僕が餞別に渡したクロスカブを返しに傷心の旅で態々彦島まで来てくれるそうだね。
じゃぁその時にその後について話をしようか。
君の指示通り、彫像を電動ノコで彫像を割ったら出て来た…この鍵をどうしようか。 勿論、彫像は綺麗にアロンアルフアも真っ青の特殊ボンドで元に戻したから、逃亡に必死の万次の傍目には、それは分からなかった訳だ。
ロダン。
宝石類はなんせ時価三億円らしいぞ。。
えっ、
それがどこにあるのかだって?
君は言うだろうね。
だけどさ、
そんなのこの事件を遠くで解決した君程の明察な頭脳ならきっと分かるさ。
さぁ
ロダン。
僕は君がクロスカブに跨ってやって来るのを心待ちにしている。
じゃあ、その時にまた話をしよう。
某月某日某時
―――君の友人 Tより
彦島宝石強奪事件 / 『嗤う田中』シリーズ 日南田 ウヲ @hinatauwo
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