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3限目までは退屈な自習の時間だった。国数英のワークを解き、分からないところを先生に聞くという、学習塾のような時間だ。
それが終わり、3、4時限目の間のちょっとした休み時間となる。先生はプロジェクターを用意し始めた。
龍平は、和樹と目を合わせて、お互いにニヤリとした。
4時限が始まる。先生はプロジェクターの前に立って話し始めた。
「今から34年前の8月、この村に旅客機が墜落した。その事故の映像を、みんなには今から見てもらって、感想を書いてもらう。
そして、これからの授業のうち、この事故について、みんなには時々勉強してもらうことがあると思う。4ヶ月後の8月、もう一度この映像を見てもらって、感想を書く。
色々と辛い部分はあるかもしれんが、我慢してくれ。これは実際にあった出来事だから」
お決まりのセリフだった。龍平は、隣の席の和樹と目を合わせ、再び笑った。
スクリーンに、当時のニュース映像が映される。炎上する飛行機の残骸と、森の空撮映像が流される。
「ああ、ここにあの美しいモニュメントが建てられるのか」
龍平は毎年そう思っていた。
映像は続く。墜落していく飛行機の中で、機長達と管制塔とのやり取りの音声が流される。
「アンコントロール!アンコントロール!」
「パワーフラップアップ!パワーフラップアップ!」
龍平は、毎年、機長達が何を言っているのか理解は出来なかった。しかし、その凄まじい言い様などから、状況はなんとくわかった。
「うわーだめだ!」
爆音とともにボイスレコーダーの音声は途切れる。その音声を聞きながら、次第に彼は空想に浸っていた。
「ああ、あの美しい慰霊塔!敷き詰められた砂と、納骨堂と、観音様!なぜ、なぜあんなに美しいんだ。こんなものに、美しさを感じてはならないなんて理解している。しかし、感じざるを得ない!」
毎年だった。全部毎年変わらなかった。先生のセリフも、ボイスレコーダーの機長の声も、木々も人も動物も。この退屈な村じゃ何一つ変わらなかった。変わるとしても、それは非常に小さな変化で、とりとめもない物だった。
当然、あの慰霊塔にもなんの変化も起こらない。しかし、何故かその不動の、変化しない様は、悠久の時が過ぎようとも変わらず、その頂点に太陽を抱くような美しさが、彼には感じられた。
彼はそれを愛だと解釈していた。
「恋、非常に不安定で、アルコールのように人を酔わせ、完全な幸せか、退廃的な堕落を、あるいはその両方をもたらす物。
愛、不動で、何らかの衝撃を受けても動じず、両の足で立つ、この世で最も美しい物。
恋が愛になるには、絶対に死が関わる。この人の為に死ぬという覚悟!この人と共に死ぬという覚悟!きっと、あの慰霊塔は愛なんだ。事故死した遺族達の愛なんだ。そうじゃなきゃ、あの美しさに説明がつかない」
したがって、彼は軽々しく愛だ恋だ言う人間を侮蔑していた。
チャイムが鳴り、学校が終わった。
彼は愛を見に行った。
愛の夢 中下 @nakatayama
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