第12話『あの世界の真相』
『え? 母親だって? スカーレットさんが?』
『私の母の事、何か知ってるんですか?』
『いや、さっき話した夢の中で見ただけです』
『夢……ですか? どんな夢だったんですか?』
『実は――』
俺は夢で見たことを、覚えてる限り全て赤髪ちゃんに話した。
『なるほど、そんな夢を……確かに昔、母が話してくれた通り、当時ここは魔王城ではなくギルドの本拠地だったらしいです』
やはりギルドだったか。“任務”とか“団長”という単語を聞いたから、そうじゃないかと思っていた。
『アレンという方の事も聞いたことありますし、おと……団長のアクタさんの事も知っています。ただ……弟がいるなんて聞いたことがないです』
『え? 俺以外に、ダストという名を聞いたことないですか?』
『いえ、聞いたことないですね……』
俺以外のダストという人物もいない……?
じゃあ、なんで俺はあんな夢を見たんだ……?
所詮夢はただの夢だったってことか?
いや、ホントは分かってる。あの懐かしい感覚といい、兄貴やアレンとの思い出といい……。
ただ、分からないことといえば……
1、なぜダストの存在が消されている、あるいは存在を隠しているのか?
2、なぜ俺はこの世界で生まれ育った記憶があるのか?
3、そもそも魔王はなぜ俺をここに召喚したのか?
……?
…………??
ダメだ、やっぱり全然分からない。
どんなに考えても、まともな予想1つできない。
やはり俺を召喚した本人である魔王に問いただす必要がありそうだ。
理由もなく俺を召喚するなんてあるはずがない。きっと俺はこの世界と何か関係がある。そうに違いない。
『赤髪ちゃん、魔王はどこにいる?』
『魔王様なら、今は外の墓地にいらっしゃいます』
『墓地?』
『はい、街へ行く方向とは逆方向に庭があります。そこに……先程話したギルドの人達の墓地があります。
『……』
ギルドの人達の墓地……そっか……あいつらは……もう……。
なぜだろう。なぜか俺はあのギルドの連中がもう既にこの世にいないと分かると、悲しくて寂しい気持ちになってしまう。まるで俺がアレンやスカーレットさん、
『ダスト様……』
『ちょっと魔王の所へ行ってきます』
俺はベッドから降り、治療室を出た。
最初にこの世界に来た時、俺はこの魔王城が妙に懐かしく感じていた。
ダストという名前もなぜか自然と頭に浮かんできた。
つまり……そういうことなのだろう。
ついさっきまでは、なぜ魔王が俺を召喚したのか全く見当もつかなかったが、今はもうなんとなく分かった。
『あ、もう夜なのか』
扉を開けて外へ出てみると、太陽は姿を消し、闇夜を照らす月がまるで舞台に立っている演者を注目させるように、魔王城を照らしていた。
どうやら俺が寝てる間にもう夜になっていたようだ。常に殺気立つ猪のモンスターも、この時間だけは人間と同じように規則正しく眠っているようだ。
『なんて綺麗な夜……そうだ、前に兄貴やアレンとこの星空を見に行ってたな……あれ?』
突然、一筋の涙が流れた。
あの頃の……あるはずもない夢の中のダストの思い出が、頭の中に流れ込んできたからだ。
あの時兄貴とアレンと話した夢、希望……笑いながら酒を飲み、一緒に星空を眺めた……えらく冷えた夜だったけど、心は暖かった……。
だって、俺みたいな異端者に対しても解り合い、笑い合ったのだから……。
『暖かい……暖かいなぁ……』
暖かい記憶を思い出しながら、墓地の方へ歩いていく。
確信した。もうあの夢は夢ではない。実際にあったことなんだ。じゃなければなぜ俺は泣いている? なぜ悲しんでいる?
『あれが……墓標……か? いっぱいあるな……』
俺の記憶上では、墓標なんて知らない。恐らくだが、俺がいなくなった後で建てたのだろう。
いなくなった……か……。
なぜ俺はいなくなったんだ?
なぜ今までこの世界ではなく地球で普通の人として、住んでいたんだ?
なぜこの世界での記憶が消えているんだ?
そもそも俺は何者なんだ?
そんなことを考えている内に、魔王を見つけた。眉を寄せて夜景を見つめているようだった。
『やあ、ダー君。起きたんだね』
『ああ……魔王に聞きたいことがある』
相変わらずあだ名が変わっているのをスルーし、俺は魔王に夢で見たことを話し、そして俺が疑問に思っていることを遠慮なく質問した。
『なあ、俺って……この世界の人間……なんだろ?』
『そうだよ、君の名は偶然にも最初名乗った通りダスト。この世界で生まれここにあったギルドの団員だよ』
やっぱり……そうだよな……俺は日本生まれのただ高校生じゃ無いんだよな……?
『だが、分からないことがいくつかある』
『分からないこと?』
『なぜ、俺の存在が消されている?』
『消したんじゃなくて、君の事はギルド以外の誰にも周知させなかったんだ。アクタ君は、君が壊れた歯車だったから、弟がいたことを隠したのさ』
壊れた歯車……? それって……。
『なあ、その“壊れた歯車”っていうのは何だ?』
『”壊れた歯車”は、この世界にとって都合の悪い思想・力を持ったものに、与えられる不名誉な称号だよ』
『不名誉な称号……?』
歯車とは周囲の歯車をかみあわせ、一方の軸から他方の軸に動力を伝える装置である。
日本で言うところの“社会の歯車”というやつだろう。
確かに他の人間と比べて何か違和感があったり、思考が異なっていたりすると、社会の歯車としては、不良品のように扱われる。俺もそうだったから、俺が“壊れた歯車”だと自覚するのに、時間はかからなかった。
つまり、そうやって不名誉な称号を与えることで、人々に差別させ、都合の悪い者を排除するってことか……。
だけど、兄貴やアレン、スカーレットさんはそれが嫌で、俺を普通の人間として扱ってくれたのか。
全く……この世界も、日本と大して変わらんな。まあ結局は人間が世界を牛耳っているわけだから必然なんだろうな。
……でも本当にそれだけか? “壊れた歯車”というやつは。他にもあったような気がするが……思い出せない。
『他には何が聞きたい?』
『ああ、俺の記憶についてだ』
今の俺の記憶の中はめちゃくちゃだ。日本で生まれてから16年間の記憶と、この世界で生まれてから途切れ途切れの懐かしい記憶が混ざりあって、正直気持ち悪い。まるで自分の中に赤の他人がもう1人いるみたいだ。
『記憶……そうだね……まず君を日本人として記憶を書き換えてから、日本に転移させたんだ。でも儂は、君の親を、あんなろくでなしに設定したのは、完全にミスだったよ。あの人間はとても子供嫌いな人間だった……人を選ぶ余裕がなかったとはいえ、君をあの荒んだ家庭に放り込んだ事は……申し訳なかった』
日本での俺の家庭は、魔王の言う通り荒んでいた。母はろくに家事もせず、他の男と遊びまくり帰って来ず、父は酒ばかり飲み、出来損ないの俺に怒鳴り散らしていた。
本当にろくでなしだよ。今、あいつらが本当の親じゃないと知ってむしろ安心した。
『それはもういい、それより設定って何だ?』
『……それは、儂にはその権限があったからだ。どういうことかと言うと、君がいた世界は……我々が作った偽りの世界なんだ』
『偽りの世界……だと……!?』
これはさすがに嘘っぽいが……果たして……?
壊れた歯車は異世界に行っても壊れたままだった√α カオス @chaos0907
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。壊れた歯車は異世界に行っても壊れたままだった√αの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます