第11話『記憶の残骸』

 あれ? なにがどうなって……ん? 俺、どうなったんだっけ?


『思い出せない……うーん……』


 なんとか思い出そうと記憶を巡らせていると、霧が晴れてくかのように、徐々に思い出してきた。


『そうだった。確かあおいちゃんと一緒になんとかかんとか街の武器屋に行って、巨乳美人の店主のアミさんと出会って……でも武器は作れなくて……それで他の買い物をしようとしたら、あいつが……葛木とかいうクソ野郎が現れて……鎖でぐるぐる巻きにされて……地面に叩きつけられて……あれ?』


 そこから先が思い出せない。思い出そうとしても、頭に靄がかかってるように記憶が見づらい。


 まるで、この記憶だけは思い出してはいけない。そう言われているようだった。


『ダメだ……』


 何をしても思い出せそうにない俺は記憶の封印を解くことを諦めた。


 それよりもを考えた方が良さそうだ。


 ここは不気味で薄暗い森の中だというのは分かる。


 そしてこの森……見覚えがある。


 奥に行くほど、木々が何かを守るように密集しているこの不自然な配置……。


 そう……あの魔王城周辺の迷いの森に酷似していたのだ。


 だけどいつもと様子が違うようだ。


 いつもなら、某RPGかってくらいモンスターの群れに遭遇しまくるのに、この森には


 じゃあ、あの迷いの森ではないのか……そう思ったが、それならこの不自然な木々の配置はどう説明するのか。


『確かめてみる必要がありそうだな』


 その疑問を解消する為に、俺は魔王城があるであろう場所へ向かう。


『よし近道でもするか……ん?』


 あれ、何で今近道をしようとしたんだ?


 まるで


 まあ今は魔王城が我が家なんだけども、それにしたって、俺はこの異世界に来てから日は浅いはず。この迷いの森だってあおいちゃんと1回一緒に抜けていっただけで、そのルートさえ覚えてるか怪しいレベルのはずだ。


『俺はここをのか……? 』


 だけど、あおいちゃんと一緒に森を抜けた時はこんな感覚はなかった……なら、一体……?


 そう思いながら歩いている内に魔王城に着いた。


『お、魔王城だ……見た目全く変わってないな』


 ホントに見た限りでは、あの魔王城と外装は一致してる。間違い探しを出題されたら何1つ答えられないレベルで。……ただ何か……雰囲気が違う気がするが。


『入ってみるか……?』


 魔王城に入ろうと一瞬迷ったその時だった。


 突然、魔王城の扉が開き、チャラそうな金髪の青年が盗賊のような服装と武器を装備した姿で現れた。


 あいつは……?


 その青年を見て俺は何故だか安心感を覚え、思わず友達のように声をかけようとしたが、その前に金髪の男がにこやかに俺に話しかけてきた。


『よお、、もう帰って来たのか?』


『え?』


 どういうことだ……? なぜこいつ俺の名前……いや正確には俺がつけた適当な偽名だが……なぜそれを知っている? 


 というか、そもそもなぜこいつが見ず知らずの俺に話しかける?


 いやでも何だ……この感覚……? 懐かしいような……どこか悲しいような……?


『ん、何だ? どうしたんだよ? そんなボーッとしちまって』


『い、いや何でもない』


『そうか? まあいいや、それより聞いたか? さんが、また変な盗賊団にケンカふっかけられたけど、見事に返り討ちにしたみたいだぜ』


『へぇ……アクタさんが……』


 アクタさんが……なんてまるで知り合いのように言ってしまったが全然知らない人だ。


 ただその名前を聞くと、どこか懐かしいような感覚に襲われる。全く聞いたことがない名前なのに……。


『アクタさんって……お前何他人みたいな呼び方してんだよ』


『え?』


『アクタさんは、お前のだろ?』


『兄貴……ああ、そうだな』


『おい、お前大丈夫かよ? どこかで頭打ったか?』


『ああ、大丈夫だ』


 そうか、アクタさんは俺の兄貴だったな。


 今の俺の記憶上でもアクタさんは兄貴だ。兄貴アクタとの思い出もある。どれもこれも懐かしいなぁ……。


 え? ちょっと待て。懐かしい? 何で? 何でそう思った? そもそも俺には兄貴なんていないぞ。


 あれ? あれ? あれ? どういうこと? え? え?


 頭の中がまるで何かに掻き回されているように、ごちゃごちゃしてきた。


 一体何が起きてる?


 誰かが魔法か何かで俺の記憶を改変してるのか?


『……い……おい……おい!』


『え?』


『お前ホントに大丈夫かよ……もういいから、休んでろよ』


 どうやら少しの間、呆然としていたらしい。情報量が多くて処理しきれなかったからな。


『あ、ああ、そうするよ』


 俺はこの状況を整理するために、とりあえず部屋で休もうと魔王城へ入ろうとしたその時――


 別の男がから飛び降り同然で隕石のように落ちてきた。にも関わらず男はどこも痛がる様子もなく、当たり前のようにケロッとしている。


『よお、お前ら帰ってきたぞ』


『お、アクタさん! おかえりなさい!』


 金髪の男こいつは、兄貴アクタのダイナミック帰宅を見ても何も反応せず、既に日常いつものことだと受け入れている。


『お、おかえりなさい』


 ああ……この人がアクタ……。


 俺の兄貴……その姿を見て俺は、なぜか涙が出てしまった。


『ん? どうしたダスト? いきなり何泣いてんだよ?』


『アクタさん、こいつさっきから、なんか変なんすよ』


『変? 一体なにがあった?』


『いや、俺にも分からないんですけどね、さっきから、ボーッとしたり、兄弟なのに、アクタさんの事をアクタさんって呼んだり……なんか頭でも打ったんですかね?』


『記憶喪失か? もしかしたら変な奴に魔法でもかけられた可能性があるな。念のため治療室に連れていこう。、お前はいつも通り、任務をこなしてくれ』


『了解す。じゃあなダスト。お大事にな』


 アレンは俺を心配しつつ、手を振りながら、迷いの森の中へ去っていった。


 今思い出した。さっきから俺と話していた男の名はアレン……そうだ、俺の昔からの親友だ。記憶上ではな。


 俺はアクタさんに治療室に連れてかれ、そこにいたに診断してもらった。


 どうやら目の前にいる赤い髪の女性は医師の資格を得ているようだ。


 赤い髪なのもあるかもしれないが、この人……赤髪ちゃんに似てるような……?


『うーん、特に変な魔法にかかってるわけでもないかな……それに、体の方も至って健康みたいだし』


『そうか……』


『ちょっと疲れてるのかも、ベッドで寝かせましょう』


『そうだな、確かに最近ダストはいつもより多くの任務をこなしてくれている。俺の管理不足だ……すまない、ダスト』


 兄貴は俺に頭を下げた。


『いや、大丈夫だよ……兄貴』


 なんてアクタの弟として接しているが、演技をしているわけではなく、自然とその言葉が出てきたのだ。まるで本当に兄弟みたいに。


『……本当にすまないな、今日のところは大人しく休んでてくれ』


 俺は分かったよと頷いた。


『スカーレット、ダストの事頼んだぞ』


『任せて下さい!』


 赤い髪の女性……スカーレットさんは、アクタに頼られたのが嬉しかったのか、俺に向けた笑顔とは違う笑顔を向けた。


『スカーレット、いつもありがとう』


 アクタは、スカーレットさんに普段の感謝を伝えて、治療室をあとにした。


『あぁ……団長ってなんてかっこいいのかしら! しかもとても強くて色んな魔法が使えるなんて! あぁ……素敵……!』


 アクタが去ると、スカーレットさんは途端に頬を赤らめて狂ったようにアクタを褒め称えた。


『スカーレットさん?』


『あ、ああごめんなさいね、ダスト君』


 恋愛超素人の俺から見ても分かる。どうやらスカーレットさんは、兄貴に好意を持ってるようだ。


 スカーレットさんは恥ずかしそうにコホンと咳払いを入れると、元の口調に戻した。


『ダスト君、ちゃんとそのベッドで寝ててね』


『分かりました』


 俺はスカーレットさんの言う通り、ベッドに横たわった。


 まあ、特に体調不良ってわけじゃないんだけどな。


 まるで仮病使って保健室で休んでる時の罪悪感みたいなのが湧き上がってくる。


 しかし程なくして、俺はブラックホールに吸い込まれるような勢いで眠気に引っ張られた。


 ヤバい……眠い……! 瞼が……開かない……!


 この状況を頭の中で整理するつもりだったが、眠気に勝てず夢の世界へ誘われた。


 ――――――


『ダスト様!』


 懸命に俺を呼ぶ声が聞こえた。緊急事態なのか、無理やり夢の世界から引きずり出そうとしている。


 もうちょっと眠っていたいが、流石に無視はできないので、瞼を開けて現実世界にログインした。


『……ん、あぁ……スカーレットさん?』


『スカーレット!? なぜその名が……?』


 あれ? スカーレットさん……じゃなくて赤髪ちゃん……? でもここ治療室……あ、よく見るとベッドのちょっと配置が違うな。ということはさっきのは夢か……?


 夢にしては現実味があるというか、普通にありそうな出来事だったので、夢を見たという感じがしない。


『あの、ダスト様……さっき、なぜ私に、スカーレットさんと呼んでいたのですか?』


『え、いや、ちょっと夢を見てまして……その夢の中に赤髪ちゃんによく似たスカーレットさんという女性の方が出てきまして……』


 見れば見るほどスカーレットさんに酷似している。双子とか生き別れの姉妹とか言われても納得してしまうくらいだ。


『そうだったのですか……でもビックリしましたよ、急に私に向かって、で呼んでいたのですから』


 え? 母親……だって……?

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