第8話 まちにまったまちのまえ

 



 今日ようやく町に着くのか思いと朝早くに起きた。そしてアニムを半ば無理矢理に起こし、ぶん殴られた。結界が無かったら首がもげていた……すみませんもうしません。



 機嫌は悪かったが起きたので、昨日までよりも少し早くに出発することにした。











 少しの上り坂の道を歩いていると森の、木々の終わりが見える


 道の周りにあった木々が切れ視界が開けてくる。そして前方を広く見渡せる。


 今いる場所が、森を抜けた小さい丘のようなとこにいるのが分かる。


 そして何よりも緩い下り坂を行った先に城壁に囲まれた町が見えている。


 「おーーーあれが町か。思ったよりも大きいな」


 思ったよりも大きい。こんだけ大きい森(しかもあまり有効な資源がない)の近くにあるから田舎なのではないかと思っていた。


 「まぁそうだね。この国の王都にも結構近い町で、人の流れが盛んだからね。しかも比較的大きい町だからね」


 へぇ~王都にも結構近いのか。となると王都へ行く馬車なんかもあるのかな。歩くのはもういいからなぁ……


 「あ~~~リンドブルグ王国だっけ?今いる国は」


 「そうよ。よく覚えてたじゃん。国名とか歴史とか興味ないし苦手だとか言ってたのに」


 「いやいやいや今いる国くらいは覚えるだろ。まぁ他の国とかは印象的なのしか覚えてないけど」


 社会の科目は苦手だ。暗記するのが無理だ。特に人の名前や都市の名前などの固有名詞はうざい。ちなみにアニムの名前はもう全然分からん。覚えているか聞かれたら一巻の終わりだ。怒られる未来が見える。


 「じゃあ、あそこに見える今向かっている町の名前は覚えてる?」


 「もちろん」


 知らん。

覚えている訳が無い。ブーなんとかだった気がする。


 「じゃぁなに?」


 はいオワタ。すぐにばれる嘘ほど滑稽な物は無いな。


 「あ~~そういえばあの町の入り口ってどこにあるの?」


 苦しいか?あからさま過ぎたか?


 「あーあの町の門は南と北側に2つあって、ここからじゃ分かりにくいけどもう少し進めば見えてくるよ」


 よし。気を逸らせたか?


 「で、あの町の名前は?」


 やっぱ無理か…………そうなると後とれる行動は…


 「知らん」


 開き直りしか無いよな……


 「やっぱり分からないんだね。知ったかぶりや嘘はばれると恥ずかしいぞ」


 「いや、そもそも知ってるなんて言ってないし、覚えてるわけないし」


 「はぁ?覚えてるか聞いたときもちろんって言ったじゃん」


 開き直りは、相手を苛つかせたら勝ちだ。もちろん時と場合と相手にもよる……


 「もちろん知らん、って言おうとしたらもちろんのとこで痰が絡んで詰まって、知らんが言えなかったからね。人の話はちゃんと最後まで聞かないとね。早とちりは直しておいた方が良いよ」


 「へぇ~~」


 まぁバレバレではあるだろうけどこれ以上の追求は飛んでこないだろう。気持ち頬が引きつっている気がするから拳は飛んできそうだが………握った拳がギリギリいってるし………





 「冗談です。嘘つきました。ごめんなさい」


 謝罪は大事だ。特に相手が怖いときは正直が一番だ。















 「おお~門が見えてきた。少し列になっているのと、ガラガラの門がある?」


 目の前にあった城壁を北である左側に回り込むように歩いていたら、門へと続く他の道と合流した。


 その時にはすでに門があることと人がいることは分かっていたが、近づくと門が2つあることに気づいた。


 「あーそれは、貴族や大きい商会などのお偉いさんの門とそれ以外の一般人の門だよ」


 「へ~そうなんだ。じゃぁ俺たちはあの列に並ぶのか」


 「そうゆうことだね。まぁ入り口が2つに分かれていたりするのは大きい町や都市くらい」


 列自体は短いし、中に入るのはすぐだろう。ただ貴族達はほぼフリーパスみたいに早いんだろうな。うらやましい限りだ……


 

 後ろからガタゴトガタゴトと言う近づいてくる音が聞こえた。振り返ってみると馬車がやってくる。初めて見た。馬は動物園などで見たことはあるが、物を引いているのは初めて見た。


 避けた方が良いよな。どう考えても歩行者優先とか無いだろうしな。


 「おっと、馬車が来たから避けるか」


 「そうだね」


 アニムは特に馬車について気にしていない。まぁ俺もそこまで目を引くといったことはない。これからもよく見ていくだろうし。


 馬車が横を通り過ぎる。


 馭者の人が軽くお辞儀をしてきた。だからこちらも軽く頭を動かす。

 その後ろを別の馬車が三台付いていく。


 先頭の馬車の箱の所になんかのマークのような物と文字が書かれていた。初めて見るこの世界の文字だが、森にいたときアニムに聞いたように何て書いてあるか読むことができる。書くこともできると言っていたが………不思議な感じだ……


 「レイシャエス商会か…」


 「あ~レイシャエス商会って言うと、確か王都の中でも結構大きな商会だったはず」


 独り言のようにそっと呟いただけだったがアニムの耳には聞こえていたらしく、アニムが教えてくれる。


 「王都に本店を展開していて、3,4番目くらいに大きかったと思う。更に言えば、商会長が貴族の出身で、若くして1から大きくしたから今一番期待されているとも言われている商会だね」


 おお~~パチパチ

 流石ガイド。よく知っていらっしゃる。そうかそうか貴族か…


 門に向かっていく馬車を見つめながら話を聞く。


 「しかもさっきの馬車に商会長が乗っているかもしれない」


 「おーマジか。確かに先頭の馬車だけ高そうだったし商会名も書いてあったな」


 「多分後ろの馬車には商品などの荷物か護衛が乗っていただろうね」


 ん?待てよ?

思わずアニムに振り向く。


 「え、でも商会長が乗っている馬車が先頭を行くっておかしくないか?普通中じゃない?」


 先頭じゃなくて中の方が前後に護衛が付くから安全なはず。もしかしてなんか訳ありなのか?


 「ん~~~多分だけど、ここから王都は馬車で1日半ほどで着くからそんなに危険も無いからじゃないかな」


 アニムが人差し指を下唇に当てて首を少し傾げていた。少し思案げなのは確証も自信もそこまで無いからだろう。


 とりあえず俺も腕を組んで納得したかのように意味ありげに頷く。

 鼻でフンフンするのも忘れない。


 「って王都まで1日半って近いな」


 「だからこそこの町がそこそこ大きい町になっているだよね」


 「へ~~」


 何でだ?


 「この町は王都の南に位置していて、それ以南の国や町から来るときはこの町を通る。この国の王都の北には防衛都市と危険度の高い森しかないから、北からは来る者は少ない。しかもこの町の南にはこの国でも2番目に大きい領都があるからね。その中継地点や王都に店を持つ商会の倉庫としても使われるような町だからね」


 「ほ~なるほどな」


 ナイスだアニム。心を読んだのかな?恐ろしい子!?!




 中継地点や倉庫代わりなら王都にも負けず劣らずの品々がありそうだな。良さげな町だ。まぁそんなに長居はしないつもりだが……






 「あ、そうだソーマ。これ着といて」


 アニムが突然何かを思い出したかのように渡してきた。


 「なにこれ?フード付きの外套?なんで?」


 黒く深めのフード付きの外套だ。もちろん渡されたから袖を通すが、何でだ?アニムは少し派手なメイドって感じだから目立ちそうだし分かる。しかもメイドのような人を連れていたら貴族か何かかと思われるかもしれない。


 しかし俺が着る必要は無いのでは?


 「ソーマの着ている服はこの世界の物では無いからね。物珍しいし目立つからね」


 あーーはいはい。あるねそういう展開。それで服を売って別のこの世界にありがちな服を買うというやつね。


 今着ているのは死んだときのままの服。緩いパーカーにスウェットパンツだ。深夜のコンビニとかによく着て行きがちな感じだ。普段から着ていたものだから何も気にしていなかったな。


 だがこの世界の服飾としては珍しい物だ。このまま行っていたら俺も目立っていたのか危ない危ない。




 「それじゃあ町に入ったら最初は服を買いに行くか」


 「オッケーって言いたいとこだけど先に宿探した方が良いかも」


 おっとアニムの反論が入る。


 「??なんで?アニムはどこがおすすめか知ってるんでしょ。そこで良いじゃん」


 「いや、空いているか分かんないじゃん。中継地点の町だから旅人とか冒険者とかも多いんだからさ」


 「あーそっか。宿が埋まっている可能性もあるのか」


 あちゃ~完全に宿に空き部屋がある物だと思い込んでいた。下手したら全然宿が取れなくて、またまた野宿の可能性があるのか。危険は感じないけど、そろそろ柔らかいベッドで寝たい。


 うん宿が一番大事だな。うん


 「じゃあ先に宿決めて、その後服を買いに行きつつ、食べ歩きしながら町を見回るということにするか」


 「うんうんそれが良いね」


 アニムも今度は反論無いみたいだな。機嫌も良さそうだし…食べ歩きって言ったからかな………………


 









 流石中間地点の町だな、さっきから何台も馬車が通った。中には乗り合い馬車みたいな一般人も乗せたのもあった。冒険者であろう人達や馬に乗ったアニム曰く早馬で情報を運ぶ人ともすれ違った。町の賑わいが聞こえる。



 城壁は近づくとかなり大きく感じる。大体5、6メートルくらいだろうか。しかもかなり分厚い。


 列には並ぶが思った通り一人一人の時間はそこまででないみたいだから早い。


 ちなみに列の前後の人とは会話はしていない。前は一般人っぽいおっさんだし、後ろは多分行商人だ。面倒だし静かに順番を待つ。






 

 

 「次――」

 

 門兵が呼ぶ。


 やっとか、やっと俺たちか……まぁ十分程度だったが………

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