十字路の悪魔

愛嬌

俺と悪魔のブルース

ガタンゴトン、ガタンゴトン。終電の電車。誰もいない中で知らない町に着く。(はあ、何してんだろう俺。)あてもなくただ無心で電車に乗り続け見たことも聞いたこともない場所まで来て。「終電、終電」死んだ顔をぶら下げながら電車を降り駅を抜ける。くたびれたスーツを着て、すべてがどうでもよく憂鬱だ。誰もいない、街灯が消え切った町を歩む。まるで死に場所でも探すように歩き続ける。ねむるまちを徘徊し、行く宛なんてない。そんな事実ばかりが心臓にこべりつく。歩き続けていると、一つの店だけが明かりを灯していた。(ん、なんだ。こんな時間に空いてるのか。、、BARか。丁度いい酒でも飲むか)軋むドアを開け、中に入ると。明る過ぎない程よい照明と心地いいジャズがジュークボックスを伝い店内へと響き渡る。(当たりだな。)その言葉を胸に高揚感を抱きながらカウンター席に座る。すると同じタイミングでまたも軋んだ扉の音が響き渡る。店に入って来たのは高そうなスーツを着た二十後半ぐらいの男だった。バッチリと身なりを整え如何にもなすかした野郎だ。「マスターいつものお」「はい。わかりました」「お客様お決まりの注文はありますか?」「ああ、とりあえずジントニックを頼むよ」「かしこまりました。」すかした男はジュークボックスに向かい手慣れた手つきで曲を変えた。流れ出したのはロバート・ジョンソンのMe and the Devil Blues。店内を包み込むように流れる。「おれと悪魔のブルースか、」胸ポケットにある煙草に手を伸ばしながら呟くと男は微笑みながら隣に座る。「この曲知ってるんですね。良い友人になれそうだ。よろしく。」手を差し伸べ握手を要求してきた。本当にすかした野郎だ。「ああ、よろしく。」俺は差し伸ばされた手に見向きもせず胸ポケットから出したショートホープを加え、安い百均のライターで火をつけ、深く吸い込んだ。「はあ~」男もそれに続くようにシガレットケースを取り出し自前の巻煙草を加えジッポライターで火をつける。手首に巻かれた腕時計に目が行く。(ブランパンの腕時計。はあ。俺より若そうなスカした野郎が成功してる世の中か。)「良い時計してるね。」あざ笑いながら嫌味を言うように呟いた。「ええ。昔から愛用してるブランドでね。一昨日また新しく買い替えたんですよ。」憎たらしい。「どうぞ。ジントニックです」「どうも」ジントニックを一口飲み、また深く一服する。「普通ですね。」すかした野郎が俺を見つめながら言い放ち思わず声を荒げる。「あ?」「おっと失礼。馬鹿にしてる訳ではないんです。ただ楽しくなさそうだなと。」(これで馬鹿にしてる訳じゃないだと、、)「ああ。楽しくねえよ。おめえのせいでな!」「ははは。すみません。」「どうぞ。エル・ディアブロです」「ありがとう。マスター、相変わらずいい腕前だ。」「ありがとうございます」「乾杯しましょうよ。私たちの出会いを祝って。」呆れはてため息を吐いた。「はあ、はいはい」「最高の出会いに。」「最悪な出会いに。」「「乾杯」」

俺はジントニックを水のように飲み、店内を響かせるMe and the Devil Bluesに聞き惚れる。「ああ、最高の曲だ。」「気が合いますね。」「合いたくねえけどな。」男は微笑みまた笑う。(いい時計しやがって、スーツも)嫉妬心をむき出しにしながらも心の底で疑問が浮かぶ。(こいつ何の仕事してんだ。)「お前、何の仕事してんだ。」「ふふ。突然ですね。そうですねえ、何のと聞かれても。色々ですね。今は○○会社の社長をしてます。」「はっ。なるほどね。納得だよ。今一番伸びてる大企業の社長様かよ。わけえのにやるじゃねえか」またあざ笑うように不貞腐れながら言い放つとすかした男は絵にかいたような綺麗な笑みを不気味さすら感じさせるような綺麗な笑みを俺に向けた。思わず固まっていると男が質問して来た。「貴方は何を?」「あ?仕事か?はっ電機会社に勤めてたよ。」「てた?今は違うんですか?」「、、、ああ。今日、リストラされちまったよ。」酒が良い感じに回り。口が軽くなる。「はあ、20年務めて来たんだぞ、なのに。上の野郎どもが自分のミスを全部俺に擦り付けやがった。畜生が!」声を荒げ酒を飲む、すかした男は顔をビクともさせず表情一つ変えずに微笑み続けていた「それは大変ですね。」「ふッ。社長様には関係ない話よ。」目も当てられないほどの不貞腐れぶりに自分に嫌気がさしてくる。(はあ、何でこんな事になっちまったんだろうな。)もう一本煙草に火をつける。深く吸い、吐く。曲が変わりロバート・ジョンソンのHellhound On My Trailが流れ始める。また一服をし自分を落ち着かせる。「話変わるんですけど」「ああ、どうぞどうぞ変えてくれ。こんな話したくもない。」「僕副業で悪魔やってるんですよ」「へえ、そうなんだ。」(何を言っているんだこいつ。飲みすぎじゃないか。)「結構楽で、案外収入いいんですよ」「ほええいいね、」(はあ、楽で収入いい仕事なんてあるかよ、、)「悪魔やってみません?」男の口からこぼれ出た言葉に一瞬固まり、数秒間が開いた後。酒を全て飲み干し俯きながら言い放つ「やれるもんならやるよ、失うもんも未練も何もねえからな」あざ笑いながら呟くと男は手を伸ばし再度握手を要求してきた。「その言葉を待ってた。これからよろしく。和成(かずなり)さん。」俺はまた握手を要求する手をあざ笑い拒否した。「はっ。飲み過ぎじゃねえか?。マスターお会計だ。」財布を取り出し中身を見て唖然とした。四千円ほどしか入っていなかったはずの財布の中身が今まで入れた事のないほど一万円札がぎゅうぎゅう詰めに入っていた。「えっ、、え。」言葉にならない声を出していると男が言い放った。「それは前金みたいな物です。遠慮なく受け取ってください。」「ど、どうやって俺の財布に。しかもこんな大金、、」動揺していると微笑みながら男はまた呟く「細かいことは後々話しましょう。時間はたっぷりある。ね?和成さん。」男はまた手を差し伸べ、笑みを浮かべる。俺はいったい何と関わってしまったんだ。あれ俺、名前教えたっけ。あれ、俺は本当になにを。「マスターこの人の代金僕につけといてくれ。これから長い付き合いになる。これからよろしく。和成さん。」俺は指し伸ばされた手を震えた手で握りしめた。そう、悪魔の手にしがみついたのだ。

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十字路の悪魔 愛嬌 @aikyouganai

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