第5話
何だろう?今まで頑張ってきたことが、心の一番柔い部分を磨滅するから……私は未だ進まなければならないじゃないか。そんなものとうに無くしてしまったと思っていたのに。忘れてしまってなどいないのだね。こんなにも内臓が脈打って体液が染み出てくるのならば。
「忘れちゃったら駄目だよ。」
「どんな形式だっていいのだから、表現することを止めないこと。そして若しも其れが”書く”っていう行為だったら私は嬉しいな。」
全く以て、疑惑に点々と躓きながら歩いてきた。世界の裏に一匙の光芒が光っていた。その髪の毛程に細い明滅を直感的に愛した。人間が人間を捨てられないのは、本能に生命への希求がprogramされているから。自信を宜うために人々はpenを握るのだね。絵画も映画も小説も自己投機の結ぶ像なのだ
言葉を抱き給え!言葉を抱き給え!世界の一番高い位置で、言葉とwaltzを踊ろう!高い位置エネルギーを持った音の連鎖は、きっと地上に振り落とされたとしても尚高く跳ね上がるであろうから。言葉たちは猶真っ暗で退屈な素振りなど噫にも出さず生乾きな表皮を寝転がって露わにしている。近所に住むおじさんやおばさんは路傍に堆積する言葉たちを笑って見過ごす。私たちは其の最も高温な一点を自分の右手の感触で柔らかに確かめながら火傷さえ厭わずじっくりと身に認める。命というものは、其の時間的感覚の伸長と密接に連結している。時代錯誤も甚だしい!私の描く小説には二人称が欠けている。全てが人間の意志と衝動のみで構想される。Aと私の隙間を埋めるクッションは一体何重だろうか?私はAを理解しようと志す。共感しようと猛烈に悶える。理論ではなく扇情的に突端まで引っ張り上げようと心臓の尖端は鳴り響く。突き上げられる懊悩によって転がりながら私は共に感じ合う。二人が感じ合って伝播する一心同体の喜怒哀楽よ。理解することは叶わないかもしれない。けれど感情を分け与えることは有り余って自由である。たとえ考え方が違うくたって相手に寄り添うことは無限大に融通無碍なのだ。だから私はAを愛しているし、あと少し必要なのは其の表明のみだ。
恐らく夜通し通して太陽を見つみ続けた一つの経過が何かしらの自信を私に与えたのだと思う。私ははっきりと口に出してAに伝えた。穏和な私の唇は4回開閉を繰り返す。母音が4つと子音が2つ。
「おはよう」
Aは瞬きを数回して、その一瞬は恐竜の興亡と銀河の生成と何億年の時を含んでいたけれども、其の世界遷転の後コクリと麗しく頷いた。清々しいレモンスカッシュの息吹を私は全身に浴びた。私たちは又今からでも歩き出していける。未開の大地で鉄を精製し大洋を渡り、字面や衒学に惑わされず、五感の清麗な湖水を両腕で担い続けた。灼熱の太陽を脳内に綴じ込めたのだから。夜を越え朝を迎え、又夜を迎え朝を迎え……。Aは誰か?私は誰か?名前も人格も人種もはっきりとある。そしてありきたりの一個人は先へ進むことを選んだ。
ならば私は。ならば私は。
頑張って本当に一生懸命生きよう。
時間の選択(内的省察でもある) @copo-de-leite
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