第2話 初めてのモテ期

 家に帰った絢音は母親に「ただいま」と挨拶をし、自分の部屋に向かった。

 カバンを床に置き、中から袋を取り出して机の上に置いた。

 知らない人から貰ったため、袋の中を警戒心を持ちながら開けた。中には数粒の普通の種が入っていた。

(これが操れる種? あまりにも普通すぎるのだが……まぁ無料で手に入れたのは嬉しいけど)

 絢音は種を埋めるようの植木鉢をどうしようかと迷って周りを見渡すと、枯れそうな花があり、あれにしようと枯れた枝を引っこ抜き、ゴミ箱に捨てて早速埋めた。

「よし。あとはお水だ!」

 と言っても部屋にはないためお水を取りに自分の部屋を出て、キッチンの方に向かった。母親に怪しまれないように水をコップに注ぎ込んだ。そしてバレないようにそっと自分の部屋に行き、種が入っている植木鉢にそっと水を土に向けて流し込んだ。

(これでいいのかな?)

 心配にはなったものの、絢音は明日が楽しみだなと感じていた。

 


 翌日の朝、絢音は目覚ましの音で起き、あくびをしながら昨日種を埋めた植木鉢を見て思わず驚愕の声を上げてしまった。

「嘘! 本当に咲いてる!?」

 植木鉢には二輪の紫色の花が咲いていた。絢音はあの女の子の話は嘘ではないことが少しづつ確信をした。

 絢音は花を見つめていると、母親の声が聞こえてきた。    

「絢音ー。そろそろ起きなさい。遅刻するわよ」

「うん! 分かった」

 絢音は学校に行った時のことを考えるとワクワクしてきたのだった。

 朝食を終え、絢音は部屋にある花を優しく取り除き、袋の中に入れて学校ようのカバンの中でいつでも取りやすようにした。

 心臓をドキドキさせながらも、学校に着くと康介が一人で歩いているのを発見した。カバンの中に入れている花を一輪取り、心の中で願った。

(誰もが私に惚れますように)

 心の中で言い終えると、すぐさま駆け出した。

「康介くん!」

 絢音は走りながら声をかけると、康介は振り返って笑顔を見せた。

「おっ! 絢音じゃん。おはよう、どうした?」

 康介はそういうと、絢音は目を瞑って先ほど願いを込めた一輪の花を康介にかざした。

 そっと目を開けると、康介はいつの間にか顔を赤くしていた。

「あっ、絢音。お前っ、いつの間に」

 康介は照れるかのようにしながら頭を掻いて顔を逸らした。普段は照れない彼が目の前で顔をしていた。

(すごい。本当に効いている!)

 絢音は内心驚きながらも、笑顔を向けて話しかけた。

「一緒に教室行こ!」

 そういうと、康介は「おっ、おう!」とぎこちなく返事をした。

 康介と別れ、良い気分になりながら教室に着くと皆は何かに騒いでいた。

「どうしたの?」

 絢音はそこにいる話に混じっていた女の子に聞くと、驚いたような顔をしながら言った。

「実は茜ちゃん。昨日モデルの事務所にスカウトされたらしいよ! それも結構有名なところに!」

 女の子は興奮気味に話ながらも、その他の皆も「やっぱりね」「いつかは報告されると思ったよ!」と笑顔で口にしていた。

 その話にムカつきはしたが、あの花があることを思い出してすぐにもう一輪に願いを込めた。

(皆が私だけを好きになり、なんでもしてくれますように)

 そう願い、すぐに皆に声を掛けた。

「皆ー! ちゅうもーく!」

 絢音の言葉を聞いた皆はそれぞれ絢音が持っている花を見た。

 そして次の瞬間、皆は絢音に話しかけた。

「絢音ちゃんいつの間にいたの? もぉ、今日休んだのかと思っちゃったじゃない」

「そうだぜ絢音! お前が居なかったら皆今日のテンション駄々下がり」

 男の発言に皆は頷いた。絢音はこの光景に心底気持ちがよかった。

 絢音は皆のノリに合わせるかのようにニヤリと笑うと、すぐに皆に話しかけた。

「ふふ、そうなの? ごめんね私ちょっと寝坊しただけなんだ。心配かけてごめんね」

 手を合わせて笑顔でいうと、皆は「きゃー! 可愛いー」と歓声の声を上げた。

 すると、教室のドアから何も知らない茜が出てきた。

「皆ー! おはよう」

 元気よく挨拶をしたが、皆は絢音に夢中で茜には見向きもしなかった。

 初めて挨拶を無視されたことに茜は戸惑った。

「ねぇ、そういえば今日どこかに行かない?」

「えー。お金ない」

 絢音は上目遣いでいうと、周りにいた人たちが「俺が払う」「いや、私が」という人が手をあげて言った。

 すると、担任が教室に入ってきた。

「おーい、もぉそろそろホームルーム始めるぞ。まだ座っていないのか?」

 生徒に声をかけたが、皆絢音の事に夢中なため担任の声など無視をしていた。

「無視をするな。というか絢音さん、貴方何を持っているの?」

(やべっ。学校に関係ないものだからきっと奪われるなぁ。あっ。だったら尚更先生にもやっちゃお)

「おい! 何を」

 担任が言いかけた途端、絢音はすぐに花を先生に向けた。するとすぐに担任はにこやかに微笑んだ。

「おぉ。絢音。体調は大丈夫か? なんか具合悪かったらすぐに言ってくださいね」

「はーい」

 チャイムが鳴りかけようとするときに、美月は息を切らして教室に入った。

「ふぅ、ギリギリセーフ。あれ? 何これ状況はどうゆうこと?」

 美月は騒めく教室の光景に頭が追いつかなかった。


 ホームルームも終え、絢音は他の教室にいる人たちや先輩に花を見せつけると、先ほどのように花を見た人たちは絢音の姿を見て照れたり、話しかけてくる人たちが増えていった。

 その後は、生活が一転した。前まで無愛想な男子は絢音が重い荷物を持っていると運んでくれたり食べ物や飲み物などを買ってきてくれるようにもなっていた。話したことがない女子は笑顔で話しかけてくるようにもなった。

(ふふ、モテるって最高)

 絢音はここは天国かのように感じた。願いがなくなったとしても少しの期間だけがあるから大丈夫。切そうになったときに種を再び植木鉢に入れて願いを込めることを数ヶ月、繰り返していった。

「ねぇ、あんたどうしたの? 何かあったの?」

 突然のモテ期が数ヶ月間続いていることに疑問を感じた美月は問いただしたが、絢音は花のことを喋ったらきっと欲しがるに違いないと思い、黙っておこうと心の中で誓った。

「えー。秘密。教えてあげなーい」

 絢音はニコリと微笑んで言った。

「えー。だって皆数ヶ月まで茜に夢中だったのよ。なのにいつの間にかあんたに」

 そう言いかけた時、後ろから声が聞こえた。

「ねぇ、絢音さん」

 振り返ると、そこには茜が立っていた。

「あら、茜さん。どうしたのですか?」

「……ちょっと話良い?」

 茜は暗い顔を見せながら言った。美月は「えっ!」と驚きの声を出してしまった。

 絢音はこの誘いにきっと、急に人気を奪われたという恨みをぶつけるのだろうと考えた。

(良い度胸じゃない。まっ、その誘いに乗ってあげるわ)

「良いわよ」

 絢音はそう言い、立ち上がると茜は「着いてきて」と言って歩き出した。

 ついていこうとすると、美月は絢音の肩を掴むと小声で言った。

「ちょっ。絢音待ちなさい。貴方このままだとなんかされるんじゃない? 着いていってあげようか?」

 美月は心配そうにしたが、絢音はどうってことなかった。前まで人気だった茜から呼び出すなんてきっと何かしようと企んでいるに違いない。それはそれで何かと面白い展開に起こりそうだと絢音は思った。

「大丈夫よ美月。心配しないで待っていてね」

 絢音は美月にそういうと、茜の後ろについて行った。

 その後ろ姿を美月は心配しながら見つめていた。



 

 

  

 

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