願いが叶い、操る種
羊丸
第1話 願い、操り
教室の中で男女が騒ぐ中、絢音が机に座りながら大きくため息をついていた。
「はぁ」
「あら、どうしたの絢音。そんな大きくため息なんかついてさ」
絢音の友達の美月は絢音の大きいため息に思わず問いかけた。
「いやぁ、実はさ。最近お父さんがうるさいんだよ。勉強しろ勉強しろってうるさくてさぁ」
「そう、でもあんた最近全然勉強しないで遊んでばっかじゃん。それは言われるね」
美月の言葉が頭に刺さった。確かにここ最近は勉強せずに友達と遊んでばかりでいた。けれど今そうゆうことしなければ三年の時楽しめないということが頭の中に残る。
「いいじゃない。今は勉強しなくたってまだ私たちは一年生よ。二年になったらなったで頑張ればどうってことないわよ」
絢音は自信満々に美月に向かって言った。
「いや、成績やばかったら色々後先面倒になるわよ」
美月がそう言うと、
「そうだね。成績が悪かったら悪かったで後々困るのは絢音の方だぞ」
その声に絢音は思わず飛び起きてしまった。
「康介くん!」
茶ばつの髪をしている遠藤康介はニコニコしながら絢音に話し続けた。
「まっ、勉強が辛くても少しの間でもいいから頑張れよー」
康介は絢音の頭を優しく三回叩くと、「じゃあ」と言って教室を出ていった。
「ほら絢音、あんたの好きな康介くんもあんな風に言ってくれてるんだからしっかりと勉強しなさいって、あんた顔赤いわよ」
「うっ、うるさい」
美月にそう言ったが、心臓の音が鳴り止まなかった。
美月の言う通り、絢音は康介が好きだ。入学した数日後に初めて会い、笑顔で優しくしてくれた彼に一目惚れをしたのだった。告白しようと思っていても中々言えない中でいた。
赤くなった頬を冷ますため、トイレに向かうと教室を出ようとすると廊下から黄色い声が響き渡った。
「きゃー! 茜ちゃんよー」
その声とともに、先ほどまで教室の中にいた人たちは一斉に顔を覗かせた。
黒くて長い髪をなびかせながら笑顔で振りまく茜は皆は歓声をあげていったのだ。茜は先月の十月に転校してきた子で、整った顔立ちと可愛らしさと優しさで数日が経たないままで、学校中の人気者になったのだ。
けれど絢音にとって少し気に食わない存在だった。毎日のように皆にモテていて、調子に乗っているのかのようにも見えたのだ。
「おぉ! 茜だ。あっ、そういえばさ絢音聞いた?」
美月は茜の姿を見ると、思わず思い出したかのように話しかけた。
「うん? 何が?」
「噂で聞いたんだけど、なんか康介といい感じっていうのが噂されているらしいけど、知ってる?」
「えっ」
美月の言葉に呆気になっていると、茜の後ろから康介が笑顔で駆け寄ってきた。
「茜ー!」
康介の声に、茜は振り返った。
「あら康介くん。どうしたの?」
「なぁなぁお前さ、今度の土日どっちか空いてるか? この前お前の好きそうなカフェ見つけたんだよ。今度一緒に行かね?」
その言葉に、女子や男子が小さく歓声を上げた。
「えっ。そうなの? じゃあちょっと考えさせて」
笑顔で話している二人の風景に美月はその光景にニヤついていたが、絢音はそうではなかった。唇を噛み締め、拳を握り締めてその光景を見ていた。
「じゃあねー」
絢音は美月と途中で別れ、一人になった。聞こえるのは自分の足音とカラスの鳴き声が聞こえてくるだけだ。けれどそんな中、頭から今朝のことが思い浮かんだ。
笑顔でいる二人と康介からのお誘いの言葉を思い出して沸々と憎しみが込み上げてきた。
胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われた。これが嫉妬というものだろうか。そんなものがなければ今頃はこんな苦しい思いなんてしないだろうと絢音は思っていた。
(何よあの子! たかが顔と性格がいいからって調子乗りすぎなのよ。あーあ、あの子みたいにモテていたら人生バラ色になるんだろうなぁ)
そんなことを思っていると、誰かにぶつかってしまった。
「きゃ!」
「うわっ! あっ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
ぶつかったのは韓国風の黒い服を着た絢音と同じぐらいの女の子だった。
「いいよ。私が当たったんだからさ」
絢音は笑顔を見せながら答えたが、女の子は何も言わずに顔をジロジロ見ていた。
「あの、何か私の顔についてる?」
絢音は思わず聞くと、女の子は「ううん」と首を横に振って言った。
「ただあなたさ、何か悩んでいるなぁと思ってね。ねぇ、何か悩んでいるなら話してよ。気分がよくになるよ」
女の子は微笑んで絢音に言った。
絢音はどうしようかと思ったが、ただの愚痴を話すような感じなので話してみるかと思った。
「実はさ、茜っていう学校で人気者子が少し羨ましく思っているの。それから、あの子みたいにモテたり、好きな人と簡単に話せたりお出かけしたりしてみたいなーと思ってさ」
絢音がそう言うと、女の子は「出来るよ。それ」と言い出した。その言葉に唖然としてしまった。
「何を言ってるの? 出来るわけないじゃない。それか何、努力や整形などをしろっていうの?」
絢音がそう言うと、女の子は首を横に振った。
「違う違う。実は、そうゆう願いが叶うものがあるんだよ。それは、これ!」
女の子は服の中から小汚い紫色の袋を見せた。
「何これ?」
絢音がそう言うと、女の子はニコりと笑って説明し出した。
「これは願いを叶える種なんだ。何よりもいいところがこれは一日で咲くものなんだ。植木鉢に種を二個入れて水をあげると一日で咲くんだ。で、その花にまず願いを込めた後に相手に向けると、その願いの通りになるんだ。どぉ? すごいでしょ?」
女の子はこれでもかと言うぐらい目を光らせながら言った。絢音は胡散臭い話にしか聞こえなかった。
「なんかあんたの話胡散臭い話ね。言っとくけど、どこかの宗教の売り物だったら買わないわよ。こんなことでお金なんて使いたくないもの」
絢音は袋を見つめながら困惑の顔を女の子に見せた。
「えー、本当なのに。まぁ騙されたと思って試して! あっ、結構あるからしばらくは大丈夫だと思うけど」
女の子は不安そうにしながらも、「あと!」と大声を出した。
「願いを込めた花は六回まで使用できて、別の願いをするならばもう一輪の花に願ってね。効果は大体二週間ぐらいかな。あと! 注意することは二粒以上使ったらいけないこと。効果が切れた時に再び願いを向けること。いい? それからこれは無料だよ! じゃあねー」
女の子はそう言うと、絢音に袋を渡してその場を去っていった。
「あっ。ちょっ!」
絢音は引き止めようとしたが、女の子は早々とその場に去って行ったのだった。
「もぉ、なんなのよあの子」
絢音はイラついたが、もしも本当に願いが叶えられるとしたらと考えると思わず持っている袋を見た。
(もしも、本当だとしたら)
絢音は周りに誰もいないことを確認をすると、袋をカバンの中にしまって家に帰った。
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