第27話 同居を迫るというのは非常識。
「ええっ!?それじゃ、メディナも住所不定無職なのか!?」
「む、無職じゃないっスよ!一応!冒険者って仕事をやってるじゃないっスか!」
ミナが用意した一戸建て新居への引っ越し当日。
道端をフラフラと歩いていたメディナに声をかけたところ、急に「同居してください!」とか言い出して。
何がなんだかわからんが、とりあえず大変そうなので家に連れて帰り、ミナやシズクと一緒に話を聞き始めたところ、衝撃の事実を話された。
「ええと、今日まで住んでたお部屋を追い出されちゃったの?メディナちゃん」
「そうなんスよ、ミナさん。たはは……情けないところを見せてしまい、恥ずかしいっス……」
ミナが淹れたハーブティは俺たちの出身孤児院の特製のやつだな。
ズズズ……。この独特の酸味。鼻に抜ける、なんとも言えない爽やかな香り。
うまいと思って飲んだことはなかったが、久々に飲むと思い出補正でだいぶ楽しめる味だな。
「……この女は何?マサキ、何故この人を私たちの家に連れてきたの?いつもこんな風に簡単に連れ込んでるの?」
「いや、まあ。ほっとくわけにもいかないだろうよ。
一応女性陣もいるから、変なことにもならないだろうと思ってさ」
うちに帰るまでも微妙に一悶着あったんだよなあ。
天下の往来で泣かれても人目についちゃうし。と言って、喫茶店にでも寄って買い物が遅くなるのもミナに迷惑だし。
だから「ここじゃなんだし俺の家に来るか?ゆっくり話を聞かせてくれよ」と言ったら、ビックリしたような、それでいて何処か覚悟を決めたような、何かを期待しているかのような、もうはっきり言ってしまうとこいつセックスしようとしてんなって顔をしてついて来たワケよ。
で、家の外観にビックリ、中に入ってミナとシズクの存在で二度ビックリ、今日から同居を開始した旨を告げたらついに口をパクパクさせて。
ともあれダイニングテーブルに全員集合してメディナの話を聞き始めたって次第だ。
相談相手は多い方がいいからね!
メディナはなんかすげえ微妙な表情になってた気がするけど気のせいだよね!
で、メディナから、「実は住んでる部屋を追い出されてしまって……」と、どこかで聞いたような話が出たところで冒頭につながる。
「おいおい、何をやってるんだよお前。部屋追い出されるとか普通じゃないぞ。何やらかしたんだ。家賃でも滞納したか?」
「……それに、だからってマサキに同居を迫るというのは非常識。差し当たり固定住所を確保しないと次の賃貸契約も難しいからだとは思うけど、押しかけられる側の迷惑というものも考えるべき」
「あんたたちよく言えるわね……」
いや、お前もまあまあ言えた口ではないからな?
「いやはや、お恥ずかしいっス。金銭ってわけじゃないっスけど、ちょっとトラブルが生じて、今の部屋に居られなくなっちゃって。
それで、私の戸籍ではこの先この町で生活拠点を得るのが難しくて。
どうしたものかと途方に暮れていたらマサキ先輩を見つけて、気付いたら変なこと言っちゃて……」
私の戸籍、というのも、メディナは確かキタカントの農業地域出身の農村戸籍者だったはずだな。
シズクのような無戸籍よりはマシとはいえ、この迷宮都市ではかなり生活上の制限の多い身分だ。
所定の手続、例えば冒険者登録などがなければ定住さえ認められない程度には。
借りられる部屋や契約内容にも色々と制限があるはずだ。
「ねえメディナちゃん。
あなたは確か、パーティメンバーと同居してるんじゃなかったかしら?
覚えてるわよ、あなたがデビューした頃に、同郷出身の女の子達と一緒に、4人組でうちの店に武器を買いに来たじゃない。一緒に一旗上げにタチカワに来たって言って。
その子たちはどうしてるの?一緒に部屋を出されたんなら、困ってるんじゃないの?」
「そ、それは……」
「へえ。それは知らんかった。
あれ?でもお前ずっとソロで冒険やってないか?どっかのパーティにゲストやサポーターで参加したり。
……ああー、でもたしかに、お前のデビュー時期に一緒にサポートした子達がいたな。あれがパーティメンバーか?割とすぐに見なくなったから、田舎にでも帰ったのかと思ったけど」
冒険者を志して迷宮都市に来たものの、早々に夢破れて去っていく者は多い。
なにしろ命懸けの危険な商売だからな。意欲とか才能も大事だし、それ以前にモンスターと毎日殺し合う日々に耐えられる精神的な適性が要求される。
無理に続けても体や頭を壊すだけだからな。帰る田舎があるなら早めに諦めるのも勇気だと俺は思う。
……なんだかメディナが黙っちゃったな。
居心地の悪い表情をしている。
なんかマズいこと言っちゃったかな?
「……マサキもミナも、さっきから話を遮りすぎ。
そもそも、何故部屋を追い出されたのかをまだ聞いていない。変なトラブルを起こすような人間ならば、マサキに近づかないで欲しい」
「おいシズク、失礼なこと言うなよ。メディナはいい奴だぞ」
「ええ、メディナちゃんはいい子よ。せっかくだからシズクちゃんも仲良くしてくれたら嬉しいわ」
「いえ二人とも、そんな……。
そうっスね。私が何故部屋を出たかというと……」
「ああああああっ!もうこんな時間じゃねーか!
シズク!今すぐ寝るぞ!デイリーミッションを取りこぼしちまう!」
「……!本当!もう10分も猶予がない!」
「ちょ、ちょっとあんた達、メディナちゃんのお話がまだ途中でしょ!
それにお風呂にもまだ入ってないじゃない!」
「すまんミナ!ミッションのボーナスがかかってるんだ!ジュエルは取りこぼせないんだ!
歯だけは磨いて、風呂は明日入る!
悪いなメディナ!話は明日聞く!困ってるってんなら、泊まってってくれ!2階の女子ゾーンは部屋が余ってるはずだから!」
「え!?え!?え!?一体何が起こってるんスか?」
「んー……ごめんねメディナちゃん。私もよくわかってないんだけど、なんだか重要なことらしいのよ。
お風呂を入れるから、今日は泊まって行きなさい。話は私が聞くから」
「ミナ、あとは頼んだぞ!」
そう言ってバタバタと歯を磨き着替えて床についた。
シズクが音もなく俺の寝室についてこようとするのをミナが止めるなどあったが、ギリギリでミッションは達成できた。
ヒュウ。危ないところだったぜ。
——
更新お待たせしてしまい申し訳ありません!
プライベートでちょっとトラブルありましたが、概ね片付きました!
これからもよろしくお願いします。
星をくれ。
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