第13話 ダメだ。無理だ。あれには勝てない。

「なんだ、こりゃ?」



 ゴブリンキングのドロップアイテム。

 それは一本の鍵だった。見た目、純金製って感じ。



「……マサキ、それは?」


「ドロップみたいだな。シズクも見たことないか?」


 ない、と視線で返答してくる。


 まあいい。

 なんにせよこれで試験は合格だ。

 よし、今日からD級で頑張るぞ!



 ……とは、思えない事情があった。



【期間限定ミッション】

 ・エクストラボスを打倒しよう!



 やっぱこれと関係あるのかなあ。

 しかし、これ以上戦うのもヒヨる気持ちがある。


 正規ボスのゴブリンキングにあの苦戦ぶりだったからな。

 いやまあ、ファイナルストライクという誤算があったからで、ゴブリンキングの戦闘力自体には多少余裕があった気もするけど。



 俺が鍵をもてあそんでいる間に、シズクが一通り回復魔術を使い終える。

 よし、これで二人とも全快だ。



 連続で回復魔術を使ったせいか、シズクがまた疲れ顔を見せている。

 これ以上無理をさせるとあたぞろ喘息が起きるかもな。

 それでも試験を合格した喜びか、表情自体は明るいけど。



「……マサキには感謝している。私が昇格できたのはマサキのおかげ。これで、生きていける希望が持てた。


 ……もし、もしよければ。この先も一緒に仕事を出来れば嬉しいと思っている。マサキはどう?」


「あ、ああ。

 もちろん俺も、シズクとはこれからも一緒に戦いたいと思ってるぜ。

 いいコンビだったよな、俺達」


「……嬉しい」



 表情をほころばせるシズクをみて、もう一つ伝えなければならないことを思い出した。

 ミッション・コンソールの件だ。



 シズクのマイナスのステータス、体力や免疫なんかをボーナスポイントで改善してやれば、この子の状況も一気によくなるんじゃないか?

 いや、保証はないけどさ。



 しかし、そのためにはミッション・コンソールについて説明する必要がある。

 説明して理解してもらえるか、信じてもらえるかという問題がある。

 それ以上に、俺の切り札を簡単に開示していいのかという迷いもある。



 一瞬、こっそり勝手に色々レベルアップしたろかとも思ったが、流石になあ。

 俺のコンソールが無ければ持ち腐れるだけのジュエルだし、損はさせないからいいみたいな気持ちもあるが、他人の財産だしな。

 人の道的なものに外れる行為な気がしない?



 迷いはある。

 でも。

 シズク相手なら思い切って話しちまうか。


 こっちもシズクの”幸運”スキルを知っちゃってるわけだしな。



「なあ、シズク。

 一つ大切な話があるんだ。他言無用で。

 実は俺、最近凄く特別な力を授かってさ……」



 ―――



 俺の説明を受けたシズクの反応は、まあ予想通りのものだった。

 この人何言ってんだろ、でも恩のある相手だしなあ、まいったな。みたいな。

 いやまあそうなるよね。



「でさ。さっきの戦いでシズクとパーティ結成出来たっぽいんだよね。

 それで、シズクのコンソールも見えるようになったんだよ。

 ほら、この辺に浮かんでるんだけど、お前にも見えないか?」


「……私には何も見えない。そこに何かあるの?」


「やっぱ見えないかー。ちょっと手を貸してくれ」



 シズクの手を取って、彼女には見えないコンソールを操作させてみようとしたが、反応がない。

 試しに俺が操作してみると、コンソールは反応する。

 やっぱり俺がいじるしかないのかな。



「俺にはシズクのステータスが見えてるんだよな。レベルとか、スキルとか。

 それでここからが本題なんだけど。

 ジュエルってのがあってだな……」



 ジュエルの使用方針に話が入ると、俄然シズクの眼が輝きだした。

 そうだよな。今すぐ戦力強化できるなんて聞いたら、ときめいちゃううよな。


 で、さらに重要そうなのが、マイナスステータス達だ。

 これが彼女の体質に関係しているか保証はないが、もしかしたら良くなるかもしれないと話し始めたところで。



「……お願いしたい」



 食い気味に要請があった。



「……確実でなくても、希望があるならそこにジュエルをつぎ込みたい。ありったけ使ってもらっても構わない。

 ……体力、免疫、視力。どれも私にとって死活問題だから。


 ……正直、マサキの言っていることがまだ信じられない。信じられないというか、理解できていない。

 ……でも可能性があるなら、何でもする。マサキが私を助けてくれるというのなら、どんな対価だって払う」



「お、おう。

 そこまで言うならな。じゃあ、やってみるぞ」



 ここまでがっついてくるとは思わなかった。

 いや、彼女の立場からすれば当然なのか。


 コンソールを操作する。

 まずは体力から。



 ・シズク

 ・レベル11

 ・ジュエル:9

 ・スキル:

【身体】

 体力:0

 魔力:1

【技能】

 弓術:1

 回復魔術:1

【体質】

 視力:-1

 免疫:-2

【特殊】

 幸運:1


 問題ないな。

 -1を0にするには1ジュエル消費か。


 同じ要領で免疫と視力も矯正する。

 やはり一回目は消費1、2回目は消費2というルールは共通のようだ。

 免疫に3、視力に1ポイントを使ってそれぞれのレベルを0まで上昇させた。



 ・シズク

 ・レベル11

 ・ジュエル:6

 ・スキル:

【身体】

 体力:0

 魔力:1

【技能】

 弓術:1

 回復魔術:1

【体質】

 視力:0

 免疫:0

【特殊】

 幸運:1



「どうだ?楽になった感覚はあるか?」



 シズクはしばし、不思議そうな表情で自分の体をペタペタと触り。



「あ……ああ……!」



 不意に、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。



「見える……すごく、見える……!鮮明に!

 身体が軽い……呼吸が楽……!

 こんな……こんな感覚があったなんて!」



 どうやら、効果が覿面に出たようだ。

 よかった。……これは本当に良かったな。



「ありがとう……ありがとうマサキ!

 頭が、頭が凄く気持ちがいい。今まで、ずっと痛かったんだ。

 痛すぎて、痛いことを忘れていたんだ。

 痛くないっていうのが、力んでいないっていうのが、こんなに気持ちのいい感覚だったなんて!忘れていた!」


「……よかったなあ、本当に。

 どうだ?まだジュエルは6あるけど、他にも何か上げておくか?」


「……マサキが上げたいものを上げてくれればいい。マサキは私の救世主。

 ……私の望みはもう、達成された。この恩は、一生かけてでも返したい」


「いやいやいや!重いこと言うなよ!怖いから!

 もともとシズクが持ってたジュエルを使っただけだからな。俺に恩を感じる必要はないだろ」



 しばらくは感情が溢れだしていたシズクだが、宥めているうちに段々落ち着いて話ができるようになってきた。


 シズクは少しバツの悪そうな顔で、しかしなかなか冴えたことを言ってきた。



「……今ゼロにした視力や免疫、さらに上げることはできる?」


「いいアイデアだな。やってみよう」



 弱点を逆に強みにするってやつだな。

 体力スキルはさほどレアではない……シズクのような後衛職では珍しいが。


 だが、免疫だの視力だのはあんまり聞いたことがないからな。

 実際俺も持ってないし。

 これを上げたら、結構珍しい能力を持った冒険者になれるんじゃないか?

 珍しいってのはそれだけで価値だからな。



 6ジュエルを全て使用して、体力、免疫、視力をレベル1まで上げてやる。

 さらに鮮明な視界や軽快な体感覚が嬉しいのか、その場でピョンピョンと跳ねて確かめているのが可愛らしい。



 ジュエルが全部なくなってしまったな。

 まあ、レベルアップしたりミッションをこなしていけばまた増えていくだろう。


 ジュエルを得たとして、今後の使い先はメインスキルの弓術や回復魔術になるのかな。

 俺個人の考えとしては、幸運を上げるのがいい気がするけど。

 だって【特殊】とか書いてあるんだぜ?これ絶対いいやつでしょ。



「……とりあえず、今後のジュエルに使用方針はまた考える」


「そうだな。腐るもんでもなし。

 この先もミッション達成で稼げるからある程度気軽に使ってもいいと思うけど」



 シズクにはシズクのミッションが発動してたからね。

 俺にしか見えないから、口頭で伝達することになるけど。


 内容は俺同様、筋トレや瞑想、栄養や睡眠が中心だ。

 筋トレは俺よりも軽くて、瞑想が俺よりも多めに要求されてるな。



 そして。



【期間限定ミッション】

 ・エクストラボスを打倒しよう!



 こいつはシズクにも発動している。

 2人で倒せってか?



 とりあえず、5部屋目を出る。



 一本道の通路。

 30メートル程歩いたところに、転送用のゲートがある。帰還用だな。

 あれを潜れば試験完了。晴れてD級冒険者の仲間入りだが……。



「こりゃまた、露骨だな」



 転送用ゲートの手前、その右の壁に。

 鈍色の、いかにも頑強そうな扉がある。

 ゲート前にこんなものがあるなんて話、聞いたことがない。



「……これが、エクストラボス?」


「いかにもって感じだな。この中にいるんだろう」


「……どうする?戦う?私はマサキについて行く」


「うーん……。一応覗いてみるか。ミッションは基本的に取りこぼしたくないからな」



 扉を開けてすぐ戦闘開始ってわけじゃないだろう。

 ゴブリンキングからドロップした鍵を、扉の鍵穴に差し込む。



 ガチャリ。

 解錠された音が鳴る。



 シズクを少し下がらせ、俺は扉に手をかける。

 まずは敵情視察だ。どんなボスがいるのか確認だ。


 そっと、少しずつ扉を開きながら、慎重に中を覗き見る。



 広い空間だ。

 奥に、1体のモンスターが立っているのがわかる。



 俺は目を凝らしてその姿かたちを確かめーーー



 ーーーガチャン。

 そのままそっと扉を閉めた。



「撤退だ。ギルドに帰ろうシズク」


「……いいの?ミッションは貴重だから取りこぼさないほうがいいってマサキも言ってたけど」



 ダメだ。無理だ。

 あれには勝てない。


 エクストラボスとして部屋にいたモンスターは。



 オーガ。

 食人鬼として名高い、異形の怪物。



 本来の出現階層は12階層。

 C級・・に昇格した冒険者の死亡要因ナンバーワンとして名高い、殺意と暴力の化身だった。



——

【作者より】

面白かったら星をお願いします。

では、また明日の更新で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る