第11話 彼女には、幸運が重なり過ぎている。
さて。
気を取り直して。
「次は4部屋目。モンスターハウスだ。
普通なら20匹位の出現だけど、この分だと40匹位出てきそうだな」
かなりキツくなってくるな。
シズクの戦力……さっきの戦いを見る限り、かなり不安定な感じがするし。
偶然のファインプレーは計算に入れられないんだよな。
命懸けの戦いでは。
サイコロに例えると、10回投げて5回1が、5回6が出るサイコロより、10回連続で2が出るサイコロの方がありがたい。
弓といい回復魔術といい、シズクは完全に前者タイプだしな。
いっそ置いていくか?
いや見捨てるとかじゃなく、俺1人で入室して、敵を殲滅してからシズクを連れて次の部屋に進む、的な。
それもかなり危険ではある。
20匹ならともかく、40匹相手ともなると相当の被弾を覚悟しなきゃならない。
戦闘中に継続して回復魔術のサポートが欲しいのが本音だ。
とはいえ、シズクを連れて行って、庇いながら戦うことにもリスクはある。
お構い無しで1人で戦う方が気楽ってこともあるし。
被弾に関しては、体力のスキルレベルをポイント使って上げる手もあるな。
本当は敏捷性を上げたいけど、そのスキル習得してないからな。
クイクイっ。
1人物思いに耽る俺のシャツを、シズクがつまんで引っ張る。
「……私も戦う」
「お、おう」
「……マサキが強いのはわかった。でも、これは私の試験でもある」
しっかりと。俺の目を見てそう言ってくる。
そう言われてしまうと、こちらも返す言葉もない。
「役割はしっかり分担しよう。俺の後ろを離れるなよ。
背中は任せた。ダメージを受けたらシズクの判断で回復魔術を頼む。
多分、指示とかしている余裕はないから」
「……わかっている。私も役に立てる」
うむ。
一抹の不安を抱きながらも、4部屋目に突入した。
ーーー
ウォォ……ン。
さして広くもない部屋に、大量に敷き詰められたモンスター達。
ゴブリン、コボルト、ヴォーパルバニー、その他数々の低級モンスター達が、統率感もなくバラバラとたむろしている。
多過ぎて正確な数はわからないが、一見したところ50匹以上はいそうに見える。
……こりゃ、どのみち1人じゃキツかったかな。
「……シールド」
シズクの呟きと共に、俺の身体を薄い薄い防御膜が覆う。
こんな魔術も使えるのか!これはありがたいぜ。
「離れるなよ!シズク!」
「……わかってる」
唐突に、モンスター達が一斉にこちらに向かってくる。
3部屋目と違い、統制もなく本能のままの突撃。
モンスターハウスでの奴らは興奮・暴走状態にあるという噂は本当らしい。
閉めた扉の前に佇むシズクを背に、刀を構えて気を吐く。
シズクを守りながらの戦いにはなるが、変に突撃して囲まれるよりはいいだろう。
その場に留まってモンスターの攻撃を迎撃する形だが、背後を気にしなくていいのはありがたい。
で。
結論から言うと、危なげなくモンスター達を撃退できた。
かなり痛い思いはしたけどね。
数え切れないほど被弾したし、回復魔術も6回貰った。
シールドは2回貼り直したし、巨大毒蜂に襲われた際には解毒魔法ももらえて助かった。
意地でもシズクに攻撃は通さなかったぜ。エヘン。
今回も弓矢で何度かミラクルショットを見せていたな。
後半には例の如く体力切れを起こしたシズクだが、余裕を持って倒しきれる見通しが立っていたからあえて無理はさせなかった。
【メインミッション「刀で
お、図らずもミッションを一つ達成してたか。
これで俺もレベル13。なかなかのもんだ。
「ハアっ!ハアっ!」
「大丈夫か、シズク。水を出そうか?」
ゴクゴクと水を飲み、息を整える。
聞けば、体力が切れたところで無理に魔法を使うと、またぞろ喘息の発作が起きることが多いそうだ。
しばらく腰を下ろしていると、モンスター達の死骸が消滅する。
「……あと、1部屋」
「まあ、もう少し休もうぜ。
なんなら軽く食事して、一眠りするぐらいの休息を入れてもいい。
……ん?」
消滅する死骸の内の一つ、ゴブリン1体が眩く輝き出す。
コトン、とその場に何かが出現する。
近寄って拾ってみると、簡素なデザインの指輪だ。
こ、これは……!
「体力の指輪!まさか、レアドロップって奴か?」
レアドロップ。
モンスターを倒した時に、極稀に出現するというマジックアイテムだ。
その確率は数万分の1とも数十万分の1とも言われている。
特殊な効果を持つドロップは当然高く売却できるため冒険者は皆その獲得を夢見るが、俺を含むほとんどの冒険者は一度もドロップに立ち会ったことはない。
「なあシズク。
まさかとは思うが、お前、こういうことが初めてじゃなかったりするか?」
俺の質問にしばしバツが悪そうに目を泳がせたのちに。
やがてシズクは、コクリと小さく頷いた。
……いくらモンスターハウスで大量のモンスターを倒したとはいえ、こんなものがドロップするのは普通じゃない。
いや、それだけならば貴重な偶然と解釈できなくもない。
しかし、弓矢によるクリティカルヒットの連発。
それ以前に、攻略が難しいダンジョンに(自発的とはいえ)閉じ込められるや否や、俺という援軍の合流を可能性とする、試験用ダンジョンの被りという偶然。
彼女には、幸運が重なり過ぎている。
不可解だった。
まるで何か、得体の知れない力が働いているかのような。
……もちろん、俺のステータス・コンソールのように、本人にも説明不可能なものかもしれないが。
「とりあえず、これはお前が装備しておけ」
体力の指輪をシズクに渡す。
体力が向上すればこの喘息の苦しみも緩和されるかもしれないからな。
「……!?」
指輪を渡すと、シズクは心底意外そうな顔をした。
なんだよ、この状況で渡すのは別に変じゃないだろ。
俺はミナに貰った腕輪があるしな。
彼女と話をしてみたいと思った。
シズクに本当に特別な力があるのか。
もしあるとしたら、それほどの力がありながらどうして、実力的に無理な状況でこの試験に挑まなければならなかったのか。
「8時間ほど大休止を入れよう。
食糧や寝具はあるか?無ければ俺のをお裾分けするよ。
考えてみりゃ、俺たちはお互いの事もロクに知らない。
シズクが嫌でなきゃ、少し話でもしないか」
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