第4話 今日の俺はお前らの知ってる俺じゃないぜ

 早朝。

 ギルドは既に人でごった返している。



「おう、はええなマサキ。張り切ってんじゃねえか。

 デカいサポート案件でも入ったか?え?自分の冒険?お前が?

 ……無茶はするなよ?」


「マサキさーん。今日俺達、中層まで遠征するんですよ。

 バイト代弾むんで、サポートお願いできませんか?

 え?……あー、たまにはそういう日もありますよね。

 ま、今度飲み行きましょ。すげー旨い店みつけたんすよ」


「オッス!マサキ先輩!

 先日はご指導ありがとうございました!

 是非今日も……あ、今日はご自身の冒険でしたか。

 自分も同行……いえ、力を付けて出直してきます!」



 どいつもこいつも俺をサポーター専業みたいに思ってるな。

 見てろよ。今日の俺はお前らの知ってる俺じゃないぜ。



 構うことなく受付で手続きを済ませ、”メインダンジョン”に潜り込む。

 俺は最下級のEクラスだから、冒険できるのは1-5階層までだな。



 薄明りの灯るダンジョン1階層。

 壁全体が常に淡く光っているので、ランタンなどがなくても視界を確保できる。

 これが深層とかになると明かりがない階層もあるらしいけど、そういう場合は魔法で照明をともすらしい。



 しばらく歩くと、曲がり角の向こうに魔物モンスターの気配を感じる。

 足音からして2匹だな。


 静かに剣を抜き、足音を殺して角に接近。

 愛剣を上段に高く掲げ、機を待つ。


 間違って人間に斬りかかることのないように、慎重に敵の姿を確認する必要がある。

 冷静に。慣れた仕事程丁寧に。



 曲がり角から現れたのは、やはり2匹のゴブリンだった。



「フッーーーー」



 渾身の一撃を1匹の脳天に叩き落とす。



 一瞬、空振りしたのかと思った。

 それほど何の手応えもなく、俺の剣はゴブリンを真っ二つにしていた。



「う、うおおっ!?」

「ギギっ!?」



 これがレベルアップの威力か。

 だが敵はもう一匹いる。

 俺は油断なくゴブリンに向き合って構える。


 この7年間、ひたすらゴブリンを狩り続ける日々だった。

 親の顔より見たゴブリン。

 まあ俺は孤児だから親の顔を見たことないんですけどね!(自虐)



 だからまあ、こいつらの戦闘スタイルや癖なんかは身に沁みついている。

 やり方はこんな感じだ。


 まず相手の目をよく見て。

 左右にステップを入れて、牽制の軽い斬撃と飛ばして。

 過剰反応した隙に懐に飛び込んで一撃を入れる。

 その後、欲張らずにすぐバックステップ。

 ルーティン化したフェイントを織り交ぜながら、同じことを4-5回繰り返す。

 それで安全にゴブリン討伐完了だ。



 さて、いくぞ。

 右に軽くステップして視線を振り回しーーーーん?

 こいつ、俺を見てない?というか、反応できてない?


 とりあえず、牽制の軽い突きをーーーーズバぁっ!!!

 あれま。

 一撃でゴブリンの肩が吹き飛んじゃったよ。



「そらっ」



 もう脅威がないので、無造作に間合いに飛び込んで袈裟切りにする。

 豆腐でも斬るような手応えのなさで、あっという間に真っ二つだ。


 マジかこれ。

 こんなに世界が違うのか。駆け引き要らないじゃん。

 今まで俺が培ってきた経験は何だったんだ。



 こりゃあ、レベル1が舐められるわけだな。

 レベルが上がればこんなに簡単に戦えるものを、えっちらおっちら毎日苦労してんだもん。

 ていうか、ずりーよみんな。いつもこんな感覚で戦ってたの?


 3日前までレベル1だった俺でさえ、もし今レベルが上がらなくて悩んでる人に会ったら、「へえ、大変ですね(笑)。ま、頑張ってくださいよ!(肩ポンポン)」とかやりそうだもん。

 性格悪すぎだろ俺。



 ま、んなこたどうでもいい。


 戦利品の魔石を拾う。

 こいつがタチカワの都市機能を維持するための重要な動力として、ギルドで定価買取してもらえるんだ。

 これが俺達冒険者の収入源だ。



「よしっ、どんどんいきますか!」



 これなら100匹くらい行けるだろう。

 俺は時間を忘れてゴブリン狩りに夢中になる。

 三昧境ってやつだ。



【メインミッション「ゴブリンを討伐しよう」(100匹)を達成しました。ジュエルを一つ取得しました】

【メインミッション「ゴブリンを討伐しよう」(300匹)を達成しました。ジュエルを二つ取得しました】


 途中からコンソールを見ることもなく一心不乱に狩り続けた。

 ゴブリン8匹の群れとかもお構いなしに飛び込んで、無傷で殲滅してたからな。

 俺の安物の”アイテムボックス”じゃ、そろそろ魔石が入りきらなくなってきた。



 そこでようやく休憩を入れる。

 お?

 なんか思った以上にミッション達成してたな。


 普通、レベル4くらいじゃこんなペースでゴブリンを狩るのは不可能だ。

 ここは俺の経験が活きた。


 もう7年も1−2層という低階層をホームグラウンドにしてるから、索敵、戦闘、撤退、休憩の全ての面で地の利を活かせるからね。

 初心者連中とは効率が全然違うわ。

 戦闘だってレベル1で戦い続けた熟練度があるからね。一戦の所要時間が他のレベル3とはそりゃ違いますわよ。



 よしよし。

 それじゃあミッション達成の成果を確認しようじゃないか。

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