第3話 俺にスキルが発現したぞ!
おっしゃ!トレーニングメニュー4つ全部消化したったわ!
ウォールプッシュアップ、ウォールプルアップ、チェアーズレッグレイズ、リバーススクワット。
4種のトレーニングを完了すると、以下のメッセージが出現した。
【デイリーミッション(鍛錬)を達成しました。ジュエルを一つ取得します。】
【メインミッション「デイリーミッション(鍛錬)を達成しよう」を達成しました。レベルが一つ上昇し、ジュエルを一つ取得します。】
「うおお、マジかよ……!」
ステータスを見ると、こんな感じになってた。
・マサキ
・レベル3 (0 / 145)
・ジュエル:2
・スキル:なし
「レベル3になっちまったよ……」
デイリーミッションの(鍛錬)の部分を達成したことでジュエルを一つ。
ややこしいが、「デイリーミッションの(鍛錬)の部分を達成する」というメインミッションを達成したことで、レベルが一つ上がり、さらにジュエル一つを取得できている。
で、メインミッションの項目を見ると、さっきの「デイリーミッションを達成しよう」と「デイリーミッション(鍛錬)を達成しよう」が、ともに(1/1)となってグレーアウトしている。
——あー、なるほど。多分これは最初の一回だけボーナスが貰えるやつじゃないか?
下の方見ると、「デイリーミッションを全て達成しよう」「デイリーミッションを一週間連続で全て達成しよう」「デイリーミッションを1ヶ月連続で全て達成しよう」とかあるな。
これらを達成するたびにレベルやジュエルをもらえるとすると……燃えてくるものがあるよな。
んで、これ、もらったジュエルを利用してさらにレベルアップできるんなじゃいか?
さっきの要領で、ジュエルをタップ、消費先にレベルを選択。
すると—ジュエル消費量が「2」と表示される。
「あれ?さっきは1だったのに。
ええと、おお……長押しすると解説が出てきた。
どれどれ、『同じ対象のレベルアップは、消費1でアップできるのが1回。消費2でアップするのが2回、消費3でアップするのが3回と徐々に消費量が増加していきます』か。なるほど」
「まあ、やっちまったもんは仕方ないか。
うーん、戻せないな。キャンセル!キャンセル!……無理か。
まあ、しょうがない。勉強代だと思おう。
しかしジュエルか……レベルを直接アップできるとかとんでもないな……ん?」
となると、今ここでレベルアップしちゃうのは考えものだ。
今のレベルアップに必要な経験値は常識的な範疇に見えるから、できるだけ自力でレベルアップして、いつか行き詰まった時にジュエル消費した方が良さそうだな。
あー、結果論だけど、さっきジュエルでレベル1から2に上げたのもったいなかったかなー。やっちまったか!
「いや、落ち着け。
まだ何も定かじゃないんだ。
とにかく……とにかく様子を見よう。
この得体の知れないこの板……ミッション・コンソールだかは、これからも使っていくことになりそうだ。
色々検証しながら、最適な使い方を模索していこう。最初の失敗は必要経費だ。
ともあれ、今確かに言えることは……」
俺は考え事をする際、頭の中にある言葉を全部声に出す癖がある。
無言でジッと考えを深めるという行為ができないのだ。すぐに気が散って他のことに反応してしまう。体を動かしながらじゃないと一つのことが考えられない。
さて。
重要なのは俺のレベルが上がってるってことだ。
7年間。微動だにしなかった俺のレベルが。
今までの人生は何だったのかと思ってしまう。
これ現実か?
あまりの現実の辛さに、死ぬ間際に俺の脳が作り出した幻想じゃないよな?
脳からなんか出てるのを感じる。
生きててよかったレベルの幸福感があるわ。
……ミッション・コンソール(?とやら)について、現時点でわかっている情報を整理しよう。
まず、こいつは俺にミッションを与える。
で、ミッションを達成すると、レベルが上がったりジュエルをくれたりする。
ジュエルを消費すると、レベルを上げることができる。
ミッション達成の報酬が、必ず毎回1ジュエルなのか。もっとくれたり別のものをもらえたりするのか。
ジュエルの使い道はレベルアップだけなのか。他にもあるのか。
この辺は引き続き調べていくしかないな。
ともあれ、ミッションは全部達成していきたい。
「いや、一つ気になることがあるな」
ジュエルの使い道なんだが……。
これ、もしかして「スキル」とかに関係あるのかな?
いや、レベル以外にも消費先の選択肢がありそうだったじゃん?だからもしかしてさ。
スキルってーとあれだ。
稀に先天的に、基本的には訓練で後天的に発現する特殊能力ってやつでさ。
「筋力が向上する筋力スキル」とか、「剣術が向上する剣術スキル」「魔法を使える魔法スキル」みたいに、その人の能力を向上させる不思議なパゥワーだ。
俺もこの7年間、必死で筋トレや剣術の鍛錬をやってきたつもりだが、筋力などの基礎スキルや剣術の技術スキルは得られなかった。
……これを、ジュエル消費で得られる、的なものか?
夢みたいな話だよ。皆、必死の努力でこれを得ているってのに。
いやそれを言ったらレベルも同じか。
欲しい。スキル、死ぬほど欲しい。
どうやったら手に入るんだ。
ステータス欄下部のスキルの部分が臭いが、押しても弾いても何をしても反応しない。
クソっ!しゃあない、一旦保留だ。
んで、残りのミッションか。
(回復)
・睡眠を取ろう(8.3/12時間)
(栄養)
・タンパク質を摂取しよう (0/60g)
・野菜を摂取しよう (0/300g)
【期間限定ミッション】
・ダンジョンを控えよう (0/3日)
またよくわからんミッションだな。
睡眠12時間って、寝すぎだろ。
8.3時間ってのは、今朝8時過ぎまで寝てたからか?普段は6時半ぐらいには起きてたのに、えらく寝坊しちゃったな。
それでも全然ミッション達成には足りない。
どうする?今からでも寝るか?
いや、夜早く寝ることにしよう。
20時過ぎに寝るとか老人かよって感じだが、俺が起きててやれることより、ミッション達成で得られるものの方が大きいからな。
しかし、3日間ダンジョンに行くなってのはどういう了見だ。
こちとら、その日暮らしの薄給冒険者だぞ。
3日も収入が止まったら生きてけない。
しかしなー!一時間足らずの筋トレで得られた成果がこれだよ?
3日がかりのミッションとか、ちょっと取りこぼせないよな。
どんな恩恵があることやら。
んで、タンパク質に野菜か。
要は肉とか魚とか栄養のあるものを食えって話だよな。そういうの、高いからなー!
平素、安物のカチカチのパンとかで飢えをしのいでる身分としては敷居が高い。
「……背に腹は代えられないか」
一応、アテはある。
あまり甘えたくない相手だけれど。
ーーー
「マサキ!よく来たわね!
なによもう、水臭い。2週間も顔を出さないなんて、どうしたの!?
こないだから話してるごはんの件、今日なら行けそうかしら!?」
迷宮都市タチカワでも有数の高級武具店。
底辺冒険者にとってあまりに場違いな場だが、カウンターの女性店員は嬌声をもって俺を迎えてくれる。
……彼女のこういうところ、本当に苦手だ。
つい、甘えたくなる自分を感じるのが嫌だから。
「ああ、久しぶり。ミナ」
「ていっ!」
「あいたっ!?」
挨拶を返したらノータイムで脳天チョップを食らう。
「ミナお姉ちゃん、でしょ!何度言ったらわかるの!
もう、反抗期なんだから!ちっちゃいころはあんなに可愛かったのに!」
「いや、勘弁してくれよ。もうガキじゃないんだからさ」
彼女はミナ。
この武具店の店員にして、俺と同じ孤児院の出身者だ。
物心着いた時からの付き合いで、たった1つ歳が上ってだけで俺をずっと子ども扱いしてくる、苦手な存在だ。
嫌いってわけじゃない。
ガキの頃から散々世話をされて頭が上がらない分、どうにも気後れするって言うか。
俺が冒険者として名を馳せていれば、もうちっと気分も違うんだろうけど。
実際、彼女はすごい。
顔を視れば10人中12人が可愛いというであろう美貌だが(10人が可愛いと言い、その内2人が結婚したいと言う)、孤児院を出た後全くそれが活きない「鍛冶師」という仕事に就いて。
今ではこの有名店で、気難しいと評判の店長に認められて主任鍛冶師として活躍している女傑だ。
ウチの孤児院の出世頭だな。
仕送りだって、俺なんかより遥かにしてる。
「それで、食事の約束、もし今日が大丈夫ならどうかなって」
「いいわよ!まったくマサキったら!誕生日のお祝いにご馳走してあげるって言ってるのに、忙しいとか何とか言って一か月も延び延びにして!
あんた、また痩せたわね。今日はとことん食べてもらうわよ!」
「ああ……肉でもいいかな?野菜もたくさん食えるとより嬉しいけど」
「オーケーよ!いい店知ってるから連れて行ってあげる!」
超ド級の美貌をくしゃくしゃの笑顔にして喜びを全開にしてくるミナ。
……気後れするなあ。
わかる?俺の気持ち。
「実はもう一つ頼みがあってさ。
ほら、前にも何回か、武具の修繕を手伝うアルバイトをさせてもらったことがあっただろ?
今日から3日間、またお願いできないかな。
いや、3日全部じゃなくて、需要がある分だけでいいんだけどさ」
「……ふぅん?」
ミナが訝しげに目を細める。
「珍しいわね。あんたみたいなダンジョンジャンキーが。
3日もダンジョンを開けるなんて」
「あ、あー。まあ、そのね。
たまには別の仕事も挟んで、気分を変えてみようかなって」
「まあいいわ。それなら3日間来てくれるかしら。午後だけとかでもいいけど
正直すごく助かる。
仕事ならいくらでもあるし、マサキの仕事は信用できるから。
前に店長も褒めてたわよ?あれは、武具を本当に愛してるやつの働き方だって」
「……ん。ありがとう」
「ねえマサキ」
そこで、ミナが急に真剣な顔になる。
「冒険者の道を選んだマサキの判断、私は尊重するわ。
でも、もしも。もしも迷いがでたのなら。
決して意地にならないでね。立ち止まるのも、引き返すのも勇気よ。
マサキのことを求めている場所は世の中に沢山ある。少なくとも、ここはその一つよ」
息をのむ。
唐突な言葉に俺が固まっているのを見て、ミナが表情を崩す。
「なんてね。まあ、頭の片隅にでも置いてくれればいいわ。
さ。まずはお昼ご飯にしましょう!しっかり食べて、働いてもらうわよ!」
敵わないな。
でも俺が強くなれば、きっとミナと対等の関係に立てる。
そのためには、今やるべきことに集中しよう。
ーーー
そんなこんなで、3日がたった。
初日同様の筋トレをこなし、睡眠時間や栄養を摂取したったぜ。
栄養だが、昼飯にミナが豪勢な弁当を作ってきてくれたし、バイト代もそれなりだったから夜にいいもの食えば何とか達成できたぜ。
睡眠時間確保のために短めの出勤だったから、金銭的な収支はギリマイナスだけど、金はダンジョンで稼げばいい。
案の定というか、デイリーミッションは回復や栄養を達成してもジュエルをくれた。
鍛錬を全部こなすと1。回復や栄養もそれぞれ1。
そして、デイリーミッションを全部こなすと、初日に限り、メインミッション達成としてレベルが1つ上昇し、ジュエルも一つ貰えた。
そしてさらに、期間限定ミッションの3日間のダンジョン断ちを達成した結果。
【期間限定ミッション「ダンジョンを控えよう」を達成しました。ボーナスとして身体スキル「体力」を取得しました。】
【メインミッション「期間限定ミッションを一つ達成しよう」を達成しました。自動スキル「HP自動回復」、「感覚鋭敏」を取得しました】
「スキル!俺にスキルが発現したぞ!」
部屋の中で叫んでしまった。
俺の人生で、こんな日が来るなんて!
試してみたくてウズウズするぜ。
3日もダンジョンを離れるなんて初めてだ。
飢えている。俺はかつてないほどダンジョンに飢えているぞ。
レベルが上がったおかげか、スキルを得たおかげか、たっぷりと睡眠を取ったおかげか、栄養を取ったおかげか、あるいはその全てなのか。
今まで生きてきた中で、一番体が軽い。
燃えている。今ならなんでもやれる気がする。
そんな俺をにおあつらえ向きのミッションがある。今日はこれを目標にしよう。
【メインミッション】
・ゴブリンを討伐しよう (0 / 100匹)
「やってやろうじゃないか」
一端のプロの冒険者が一日ゴブリン狩りに集中して、成果は30匹ほどと言われている。
これまでの俺なら、ソロで挑むと頑張っても20匹も行かなかった。
戦力的に群れを狙えないし、連戦すると殺される危険が増すからな。
でも、レベルを上げた今ならきっと。
愛用のロングソードを入念に手入れする。
今日、何かが始まる。
そんな気がしてならないんだ。
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