つれづれ怪異探訪

@HanzoS

vol.1:お化け屋敷

 私の住んでいるこの部屋はなんとまぁ絵に書いたような木造二階建てアパートの四畳半で、他の住人もまぁ適当な人間ばかりなのか玄関のポストはチラシまみれなんですよ。そのせいか、人はここをお化け屋敷だと言って止まないんです。

 

 ただね、言ってしまえば正解で、廊下を歩けば建物全体がキィキィ鳴いて、蛇口を捻ればズダダダダと暴れ出すんです。後者はウォーターハンマー現象というんですかね?ボロさに関係あるのか知りませんが、その現象が起きると建物全体が揺れるんですよ。その様は生きているみたいだったでしょう?お化けがいるわけではないんですが、生活するだけでお化けがいるかのように感じられてしまうんです。


 そんな具合でお化け屋敷のお化け役にならざるを得ない私ですが、こんなところ住むつもり無かったんです。一人暮らしするにあたってお金がなくて、どうしようといったところに築10年に満たない物件で、しかも家賃は4万を下回るというので、これはと思い選んだんです。もちろん内見もしましたよ。ただその時は木造でも感じは悪くなくて、どうでしょう、白を基調とした高級住宅街の一角に佇む家屋といった様子だったんです。階段の鉄骨は一切の錆もなく、一面が塗装したての清々しささえ感じる、そんな建物だったのです。これで決めたお前が悪いと言われても仕様がない。


そう言いたいんでしょう?


 問題はここなんです。私はまだ住んで半年程度なのですが、この棟の恐ろしいところは尋常ならざる劣化速度です。


 私が住み始めて一週間前後でしたか、なにやら外観の塗装が一部、ほんのごく一部です。剥がれていたんですよ。些細なことですからあまり気に留めていなかったのですが、これが一週間、また一週間と経つにつれそこを起点に大きなひびとなったのです。


 階段の鉄もそうです。確かに鉄は風雨に晒されれば年月が過ぎて錆も進行するでしょう。だけど今年は雲ひとつない快晴が日本中を襲ったでしょう。あの日照りで、しかもたったひと月で、どうして錆びることがありますか。


 そうして半年過ぎた結果がこれですよ。階段は穴が空き、廊下は朽ち果て、塗装は完全に失われ、見るも無惨なこの現状。見えないところも駄目になっているのは、水道でご覧になったでしょう。


 先程私は、この建物は生きているかのよう、といった内容を口にしました。白粉をそのままにした女が最後に朽ち果てるようで、ここに人間を感じざるを得ないんです。まさしくお化け屋敷でしょう?どうです、雑誌に載せるにはうってつけでしょう?載せてくださいよ。でないともう、やってられないんです。



 彼のインタビューはここまでである。私は後日、この建物の話を伺いにこの物件を管理する大家に連絡した。大家からは、そのアパートでこの物件に関する話をしましょう、ということになった。


 そして改めて大家の話を伺うためにそこを訪れると、そこには新築さながらの、彼の住んでいたアパートがあった。大家の話は、物件紹介以外の何物でもなく、彼のことを尋ねると、存じ上げないの一点張りだった。


 思い返せば、インタビューの帰り際に違和感を感じていた。アパートの住人の気配が感じられなかったのである。玄関だけならまだしも、のドアの郵便受けまでチラシや新聞でいっぱいになっていたのだ。彼以外にも、絶対に誰かが住んでいたはずなのだ。


 その後結局、彼の消息は途絶え、この話は結ばざるを得なくなった。そういえば、別件でそのアパートの前を通り過ぎた際、2階に明かりが点いていた。建物は、彼にインタビューをしたときそのままの風貌であった。

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