231 7月14日(日) 困ったこと1

 以前、この日記に「怖かったこと」をいくつか書きました。・・例えば、以下です。 https://kakuyomu.jp/works/16816927862654115962/episodes/16817330648397661127


 で、今度は「困ったこと」です。


 「怖かったこと」と「困ったこと」はよく似ていますが、まったく違いますね(笑)。。


 ここで、いつもの口調に戻って・・


 さて、ボクの日記にはときおり新幹線が登場するが・・この話も新幹線の駅でのことだ。ただし、個人が特定されるといけないので、駅の名前は出しませんよ。


 ボクがよく使うその駅では、在来線と新幹線の乗り換え口の改札が、しばらく自動改札にならなかった。たぶん、乗り換え客が多かったことなどから、工事が厄介だったんだと思う。もちろん、今では自動改札に代わっているが・・当時はその改札だけが手動の、つまり、係員が改札に立っているという昔のスタイルだった。


 だから、この話はずいぶん昔のことなのだ。


 さて、当時、その改札は在来線と新幹線の乗り換え口で、とっても便利だったのだ。このため、ボクはよくその改札を使っていた。他の乗客も同じだったようだ。だから、その改札はいつも大変込み合っていた。改札に立っている係員も、乗客の切符を目で確認するだけで、いちいちスタンプを押したりはしていなかった。


 あるとき、ボクはいつものように、在来線から新幹線に乗り換えようとして、その改札に向かった。ボクの前には中年の女性、つまり、おばさんが歩いていた。


 ボクのすぐ前で、おばさんが改札を通った。その後に続いて、ボクも改札に入って・・立っている係員に切符を見せた。で、そのまま、通り抜けようとしたのだが、係員が片手をボクの前に突き出して、ボクが改札を抜けるのを阻止したのだ。


 ボクはびっくりした。思わず、係員を見た。


 すると、係員がボクにこう言った。


 「前の人の切符は?」


 係員の眼が、さっき改札を通ったおばさんを指していた。ボクも前にいるおばさんを見た。おばさんの背中が見えた。


 しかし・・その背中は混雑する人込みに紛れてしまって、たちまち見えなくなってしまった。


 係員が手でボクを静止したまま、もう一度言った。


 「前の人の切符を出してください」


 絶対にここを通さないぞ・・といった意思があふれ出た言葉だった。


 人間というものは、咄嗟に思いもつかないことを言われると・・状況が理解できなくて・・言葉がまったく出てこなくなるようだ。


 このときのボクがそうだった。


 係員が言ってるのは日本語なので、日本語としての言葉の意味は分かるのだが・・状況がまるで理解できなくて、ボクの口からは言葉が出てこなかった。


 前のおばさんの切符?・・


 ボクに出してください?・・


 これはどういう状況なのだ?・・


 ボクは一生懸命この事態を考えようとした。でも、置かれている状況がまるで分からない。


 呆然として突っ立ているボクに係員がさらに言った。かなり、きつい言い方だった。


 「あなた、前の人の切符を持ってるでしょう!」


 前の人の切符をボクが持ってる?・・


 分からない?・・


 何のことだ?・・


 ボクの頭は混乱する・・


 どうして、ボクが前のおばさんの切符を持っているのだ?・・


 あのおばさんは誰なんだ?・・


 そもそも、どうしたら、こんな状況になるのだ?・・


 普通なら「何のことですか?」と係員に聞けばいいのだが・・ボクの頭はあまりに混乱していて、ボクはそう聞くことすら出来なかったのだ。


 ボクは一生懸命に考え続けた。


 でも、分からない・・


 黙って立っているボクに、係員もイライラしてきたようだった。


 ただでさえ混雑している改札口なのだ。見ると、ボクの後ろには行列が出来ている。行列には10人以上の人が切符を持って並んでいた。そして、その人たちがみんなボクに「何をしてるんだ?」という批判の目を向けているのだ。


 何だかボクが不正でもして・・それを係員に見つかったかのようだ。


 係員が今度は、はっきりとイライラした口調で、もう一度同じことを言った。


 「あなた、前の人の切符を持っていないんですか?」


 だから、なんで、ボクが前のおばさんの切符を持っていると、あなたは思うのですか?・・


 この状況を説明してもらわないと、ボクは話す言葉も見つからないんですが・・


 これらは、ボクの心の声・・残念ながら、実際の言葉には出てこない。


 ボクは呆然として黙っている。


 後ろの行列から、「早くしろ!」、「何してるの!」という多くの無言の声がボクに飛んできた。ボクが乗る新幹線の発車時刻も迫ってきた。係員はさらにイライラを募らせている。


 困ってしまった・・


 係員が言った。


 「切符を持ってないなら・・ちょっとこっちに来てください」


 こっちに!・・そんなバカな!


 その係員の言葉で、やっとボクの声が出た。何だか、ようやく呪縛が解けたようだ。・・ボクは言った。


 「ボクがどうして、前の人の切符を持っているんですか?」


 係員が怒鳴るようにボクに言う。


 「前の人が『切符はあなたが持ってます』と言ったんです」


 「???」


 すると、ボクの後ろの行列の中から、一人の別のおばさんが出てきた。


 おばさんがボクに言った。


 「それ、私です」


 ボクは首をひねる。


 「・・・?」


 分からない? 何のことかさっぱり分からない?


 すると、そのおばさんがハンドバッグから切符を2枚取り出したのだ。


 これで、ようやく分かった。


 つまり、こういうことだったのだ・・


 前のおばさんと、後のおばさんは二人で新幹線に乗るので、後のおばさんが二人分の切符を持って改札口に歩いてきたのだ。


 で、二人は前後に並んで歩いていたのだが、改札前の混雑で・・いつの間にか、二人のおばさんの間に、ボクを含め何人かの人が入ってしまった。


 前のおばさんは、そんなことを確認せず、後のおばさんが自分のすぐ後ろにいると思って・・「切符は後ろが持っています」と言って改札を通ってしまったのだ。


 で、おばさんの後から、何も知らないボクが改札に入ったので・・係員が「前の人の切符を見せてください」とボクを引き止めたという次第なのだ。


 分かってしまえば、何でもない話なのだが・・しっかし、迷惑な話ですよね。。


 まっ、ボクも、『人間は突然思いもつかない状況に置かれると・・まず、その状況を頭で理解しようとして・・言葉がとっさには出てこない』ということが、よぉ~く分かりました。


 言葉が全く出てこないなんて・・こんなことがあるんですねえ・・


 皆さんも気を付けてくださいね💦


 いつ、思いもしなかったことが、みなさんに降りかかるかもしれませんよ~。。

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