230 7月13日(土) 永痴魔先生の科学講座2(カタツムリ)

 司会の姉ちゃんが新しい封筒を取り出した。中には手紙と写真が入っている。


 「では、次のご質問です。質問者は、ペンネーム、結音(Yuine)さんです。結音(Yuine)さぁん、ご質問、ありがとうございまぁすぅ」


 私も頭を下げた。


 「結音(Yuine)さん、ありがとうございます」


 「で、結音(Yuine)さんのお手紙を読んでみましょう。・・・結音(Yuine)です。永痴魔先生、まず同封の写真を見てください」


 私は姉ちゃんの前に置いてある写真を手に取った。


 (著者註:今日の近況ノートに、結音(Yuine)さんからの写真があります。

  https://kakuyomu.jp/users/azuki-takuan/news/16818093080962953338 )


 「ほう、カタツムリですね」


 司会の姉ちゃんも、私の手元の写真を覗き込んだ。


 「まあ、カタツムリ。かわいい!・・では、結音(Yuine)さんのお手紙に戻ります。・・写真は、私の家の近所にいた、カタツムリを撮ったものなんですが、右から左に3匹のカタツムリが写っています。永痴魔先生、分かりますかぁ?」


 3匹? 私は写真を覗き込んだ。


 「はて? 写真の黒い木の中央右寄りに大きなカタツムリがいて・・その左上に小さなカタツムリがいますね。・・写真に写ってるのは、この2匹ではないのですか?」


 すると、司会の姉ちゃんが手紙の続きを読んだ。


 「2匹と思うでしょう。でも、よく見てください。小さな赤ちゃんカタツムリが写ってるんですよ」


 (著者註:皆さん、分かりますか? これ、クイズです(笑)・・・💦)


 司会の姉ちゃんが手紙から眼をそらせて・・再び私の手元の写真を覗き込んだ。


 「あっ、永痴魔先生。ここに、赤ちゃんカタツムリがいますよ。わ~、かわいい!」


 姉ちゃんが、写真の中に水平に写っている、黒い木の一番左の上を指差した。よく見ると・・黒い木の陰を背景に、3匹目の小さなカタツムリが写っている。


 私はびっくりした声をあげた。


 「あっ、ホントだ! 結音(Yuine)さんがおっしゃるように、3匹のカタツムリが写ってますねぇ」


 司会の姉ちゃんが手紙の続きを読み始める。


 「永痴魔先生。分かりましたかぁ。きっと、お母さんカタツムリが、2匹の子どもカタツムリを連れて散歩してるんだと思うんです」


 「そうですね。そんなふうに見えますね」


 「で、私、不思議に思ったんですが・・」


 「はい。結音(Yuine)さん、何でしょう?」


 「この3匹のカタツムリって、よく見たら、殻の色や模様が同じなんです。親子のカタツムリって、殻の色や模様が同じになるんですかぁ? そもそも、カタツムリの殻の色や模様はどうして決まるんですかぁ?・・という、結音(Yuine)さんからのご質問です」


 私は、うんうんと頷いた。


 「たいへん、いいご質問ですね」


 司会の姉ちゃんも私を見た。


 「私もカタツムリって不思議だなあって思ってました。永痴魔先生、カタツムリって、ナメクジと同じ仲間なんですか?」


 「はい、カタツムリとナメクジは、生物学的には同じ『巻貝』の仲間です。両者は軟体動物門、腹足鋼ふくそくこう有肺目ゆうはいもくに属する陸生貝類であり、カタツムリは貝殻を持っている一部のグループで、ナメクジはその中で貝殻が退化してなくなったものです。カタツムリは殻を背中に背負っているため、ナメクジとは外見が異なりますが、生物学的には同じ仲間とされています」


「すると、カタツムリの殻を取ったら、ナメクジさんになっちゃうんですか?」


 私は笑いながら答えた。


 「とんでもない。同じ仲間といっても、生物学上の大きな分類では『仲間』という広義の意味ですので・・カタツムリとナメクジは別の生き物なんです。カタツムリの殻の中には内臓なんかがあって、殻は体の一部なんですよ。・・ですから、殻を取ったら、ナメクジになるどころか、カタツムリは死んでしないますよ」


 「あっ、そうなんですか! では、永痴魔先生。結音(Yuine)さんのご質問の・・カタツムリの殻の色や模様はどうして決まるんですかぁ?・・という点は如何でしょうか? ひょっとして、食べ物で殻の色や柄が決まるんですか?」


 私は首を振った。


 「いえ、食べ物には影響されません。カタツムリの殻の柄や色は、体内で合成される色素で決まるんです。ですから、食べているものにかかわらず、そのカタツムリに固有な柄や色が出てくるんです」


 「そうなんですか」


 「で、カタツムリの殻の模様は『色帯しきたい』と呼ばれているんですが・・この色帯は、殻の頂きを上にしたときに、水平方向に走る帯状の模様をもつものが多いと言われています。このパターンは系統とは関係なく世界中のカタツムリに多く見られるものなんですね。また、日本産のマイマイ属では色帯の出る位置が決まっており、その位置は上から順に1-4の番号が振られ、帯がない場合は0で表記されています。全部の色帯が出たものは1234、まったく色帯のないものは0000となるわけです」


 「まぁ? カタツムリの殻の模様って、番号で分類されるんですね?」


 「そうなんです。そして、色帯は遺伝子に支配されていると考えられています。ですから、同じ種類のカタツムリは、基本的に同じ色や柄の殻を持つわけです。でも、よく見ると、微妙に個体差があって、同一種の同一個体群内でも微妙な色や柄の違いがみられるんですよ」


 「なぁるほど。ということは、遺伝子情報で、カタツムリの殻の色や模様が決まると考えられている・・ということですね。結音(Yuine)さん、お分かりいただけましたかぁ? ご質問、ありがとうございましたぁ」


 私ももう一度頭を下げた。


 「結音(Yuine)さん、ご質問ありがとうございました」


 司会の姉ちゃんが、再び新しい封筒を手にした。


 「それでは、次のご質問でぇすう・・」


      (つづく)

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