229 7月7日(日) 永痴魔先生の科学講座1(蜘蛛の糸)
司会の姉ちゃんが、頭から抜けるような声で言った。
「はぁ~い、皆さん、お元気ぃ~。今日は、当ラジオ局の人気番組、『永痴魔先生の小説講座』の特別番組でぇすぅ。タイトルは『永痴魔先生の科学講座』でぇすぅ。おなじみの永痴魔先生が、リスナーの皆さんのどんな質問にも答えてくれますよぉ。リスナーの皆さん、不思議に思ったこと、疑問に思ったことをなんでも結構ですので、お手紙に書いて送ってくださいねぇ。・・では、永痴魔先生、よろしくお願いしまぁす」
ここは、『ラジオやりっぱなし』というラジオ局の収録室だ。私は、姉ちゃんの甲高い声に、手で耳をふさぎながら答えた。
「はい。よろしくお願いします」
姉ちゃんが封筒を取り出す。中から手紙を抜き出して読み始めた。
「では、最初のリスナーのご質問です。質問者は、この美のこさんです。この美のこさん、お手紙、ありがとうございましたぁ。では、お手紙を読みますね。・・永痴魔先生。はちにんこ」
「はい。この美のこさん。はちにんこ」
「梅雨で大雨や雷雨がやって来たと思ったら、ものすごい晴天の日が続いたりして、大変ですね」
「はい、そうですね。この時期は体調管理が大切ですので・・のこさんもラジオをお聞きの皆さんも、体調には充分気を付けてくださいね」
「で、私は先日の雨の日に、ある発見をしたんです」
「ほう、どんな発見ですか?」
「私に家の庭に蜘蛛が糸を張っているんですが・・雨が降ったときに見たら・・その糸に雨の水滴が一杯ついていたんです。写真を同封します」
姉ちゃんがそう言うと、封筒から写真を取り出して、私に手渡した。
(著者註:今日の近況ノートに、この美のこさんからの写真があります。
https://kakuyomu.jp/users/azuki-takuan/news/16818093080601758711 )
私は写真を覗き込んだ。
「ほう、確かに、蜘蛛の巣に一杯水滴がついていますね」
姉ちゃんが再び手紙を読みだす。
「で、発見というのは・・雨が降らないときに、蜘蛛の巣を見たんですが・・結構、糸と糸の間が離れていて・・糸と糸の距離は、雨の水滴よりもはるかに大きいと思います。でも、雨が降ったら・・どうして、あんなに蜘蛛の糸に水滴がついているんでしょうか?・・というご質問です」
私はポンと手を打った。
「すばらしい。のこ美のこさん、実にすばらしい観察ですね!」
司会の姉ちゃんも写真を覗き込みながら言った。
「確かに、この美のこさんから送っていただいた写真を見ると、蜘蛛の糸に雨の水滴が一杯ついていますね。こういうのって、私も今まで気がつきませんでした。永痴魔先生、これはどうしてなんですか?」
「はい、実はですね。蜘蛛の糸は、水に濡れると構造が変化して、コブのようなものを作る性質があるんです。で、そのコブの部分に糸の表面の水が集まって、大きな水滴を作るんですよ。このため、この美のこさんが送っていただいた写真のように、雨が降ると、蜘蛛の巣に大きな水滴がたくさんできるのです」
「まぁ、そうだったんですか!」
「そうなんです。雨が降らなくても、霧のかかった朝なんかに、蜘蛛の巣がキラキラと光っていることがありますよね。これは、朝、気温が下がって・・蜘蛛の巣に空気中の水蒸気が結露するんですが・・蜘蛛の糸にできるコブにその結露が集まって、水滴になるためなんですよ。・・で、蜘蛛の糸のこうした性質は科学的にも注目されていまして・・蜘蛛の糸を使って、将来、空気中の水分を集めることができるようになるかもしれませんね」
「まあ、そうだったんですか! よく分かりましたぁ。この美のこさん、お手紙、ありがとうございましたぁ・・・それでは、次のお手紙です」
(つづく)
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