腹が非常に立って来た。

結騎 了

#365日ショートショート 109

 吾輩は猫である。名をタマという。しかし、これは飼い主である人間がつけた名だ。吾輩は実のところ気に入っていない。そもそも、タマとはなんだ。どう見ても吾輩は球形ではないのに。それにつけても人間とはなんと不遜な存在だろう。人語を操れぬ犬や猫を従えたと思ったら、それをいいことに好き勝手に名前をつけてしまう。その者は生涯にいたってその名を自身の看板にするというのに、人間の一方的な都合や嗜好でそれを背負わされるのだ。なあ、二軒隣の犬の名を知っているか。なんだ、あの読めもしない名前は。当て字にも限度というものがあるだろう。身勝手な趣味や短絡的な思考に付き合わされたあの犬は、なんと可哀想なことか。たとえどんなに聡明で忠義に厚くとも、あの名では好奇の目に晒されるだろう。きっと馬鹿にされる半生を送るだろう。だからこそ、吾輩も納得はいっていない。よりにもよって、タマとはなんだ。失礼な。このすらっとした四肢を見ろ。伸びた背筋を見ろ。高貴な立ち居振る舞いを見ろ。物事を捉える思慮深さを見ろ。名前とは、それを背負う者に似合うものを、人間が覚悟と責任をもって全身全霊で編み出すものである。決して一時の感情に流されることなく、対象となる者の死に際までを想像してつけるものである。床にふすその瞬間、子に手を握られその名を呼ばれる場面を想像するべきである。だからこそ、吾輩は受け入れない。いずれ本当に吾輩にふさわしい名を、どうにかして手に入れてやる。諦めるものか。であるからして、名前はまだ無い。

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