あとがき

 文哉と申します。『お鶴のおんがえし』をお読みいただきありがとうございました。カクヨムに投稿するのは二作目になりますが、念の為僕のあとがきのスタンスについてお伝えしておきたいと思います。

 率直に言えば、ネタバレを多分に含みます。あとがきを先に読みたいという方には非常に申し訳ないのですが、あとがきは作品について読者に何かを伝えられる最後の場だと僕は考えています。どうかお付き合いいただければ幸いです。

 それでは、作品に込めた意図やら何やらの話に移ります。

 ・タイトル→見ての通り『鶴の恩返し』を元にしています。しかし、実際は「恩返し」ではなく「怨返し」。恩返しとしてお鶴が用意した料理を食べた主人公は、「食材」の怨念を身体の中に溜め込んでいきます。

 ・お鶴の動きを止めていた石→いわゆる要石というものだと考えられます。主人公がこの石をどかしてしまったことで、この物語が始まったと言えるでしょう。

 ・とんとん、からり→作中で何度も繰り返されるこの擬音。『鶴の恩返し』では機織りの音です。音のする所を覗いてしまうと、幸せな日々は終わりを告げてしまう。その物語の結末を知っていたからこそ、主人公はあえて最後まで覗き見ることをしなかったのです。余談ですが、僕は機織りの擬音を「とんとん、しゃー」だと勘違いしたまま書き始めてしまい、危うく成立しなくなるところでした。本来は襖が開く音の予定でしたが、障子ならギリギリ「からり」でも通るだろうと思って障子に切り替え、事なきを得たり得なかったりしたという裏話があります。

 他にも細かいところはあるかもしれませんが、ひとまず伝えておきたいことは以上になります。

 ホラーを書いたのは今回が初めてなので、不慣れな点もあったかと思いますが、お楽しみいただけたら幸いです。

 重ね重ねになりますが、『お鶴のおんがえし』をお読みいただき、誠にありがとうございました!

 最後に、この物語の続きをもって、あとがきの締めくくりとさせていただきます。

 ◆

「……というお話なんですけど」

 一通り話し終え、目の前に座っている男の顔をちらりと見る。男は片手で頭をかきながら返事をした。

「なるほど……これを小説にしたいと」

「ええ」

「うーん……正直なところ、物語としてはイマイチというか……繰り返しが多くて飽きちゃう人もいるかもしれないし、人気は出ないかもしれませんよ?」

 男はやや言いにくそうにしながらそう言った。しかし、人気が出る必要はないのだ。

「それでも良いんです」

「はあ……それなら協力しますが。報酬はお支払いいただくということで良いんですよね?」

「もちろんです。私のために作っていただくんですから」

 私は頷いて、再び頭を下げた。いやいやそんな、と男は私に顔を上げるように促して、顎に手を当てながら呟いた。

「……分からないなあ。イマイチと言われても、わざわざ小説にするだなんて……」

「趣味ですよ。私がそうしたいから、そうするんです」

 答えながら会釈をして、代金を置いて喫茶店を後にした。お店を出た直後、思わず笑みがこぼれた。彼の話を、一体どれだけの人が読んでくれるのだろう。

 人間は忘れてしまう生き物だけれど、文字に残せばその日の出来事を思い出すことができる。だから、私は彼の話を小説にすることに決めた。

 小説を読めば、彼の怨みが読者に伝わる。物語のことを思い出す度にその怨みが増幅されて、美味くなる。私が読者を食べて被害者が出れば、呪いが込められた小説として噂になる。そうなれば、被害者の話を聞いて、彼らの怨みを身に宿した多くの物好きがサイトを開くだろう。

 今度はきっと、もっと美味くなる……

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お鶴のおんがえし ゆうとと @youtoto238

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