第11話お祭り編 ~屋台~
葵が自分の顔より大きいわたあめを唇でちぎっては口に入れる。すると満足そうに一瞬笑顔になり…また唇でちぎって口に入れる…。
───昔っからわたあめ好きだもんな……
俺は葵から並ぶ出店に視線を移した。
焼きそばに、たこ焼きにお好み焼き。
「葵、今日晩飯作らないから、ちゃんと腹にたまるもん買ってこうな」
「……ん」
葵は俺の言葉を聞いているのか、いないのか……相変わらず幸せそうにわたあめを口で溶かして楽しんでいる…。
──あ……じゃがバタある……後で買ってこ……。
「葵!」
後ろから声を掛けられ2人で振り返る。
「……美月じゃん」
甚平姿の中学生男子の様な子が浴衣姿の女の子と手を繋ぎ
「こんばんは」と俺に笑顔を向ける。
俺はペコッと頭だけ下げ、2人の姿を見る……。
───確か……彼女がいる女の子……。
「葵……また甘い物食べてんの?」
美月と呼ばれたその子が揶揄う様にりんご飴を持った葵を見て笑った。
「うるせぇな、ほっとけ」
葵が面白くなさそうにりんご飴に齧りつく。
「あっち見に行った!?射的あったよ。後、韓国ワッフルも!」
「え?ガチで!?」
「1件だけだけど、早く行った方がいいかも…。凄い並んでたから」
それから俺の方を見て目から首筋に視線を落として…ニヤッと笑った。
「もうやってきたの?」
そう言って俺と葵を交互に見る…。
一瞬で顔が熱くなって俺は俯いた。
───だから……帰ってからにしようって言ったのに…………。
「……うるせぇな……」
さすがの葵も顔を赤くして目を逸らしている…。
「まぁ、仲良くて良いんじゃない?」
そう言って笑うと「じゃあ、また学校でね」と彼女と手を繋ぎながら人混みに姿を消して行った。
葵がその後ろ姿を見て
「……女同士って良いよな…………」
そう呟いた。
「───え!?」
俺は意味が解らず顔を顰めた。
───女同士って……良いよな……って……ちょっと…どういう意味…………?
「──え!?違うよ!変な意味じゃなくて!!」
葵が顔を赤くして慌てて否定する。
「手とか繋いでても変に思われないしって、意味だよ!」
──ああ……そういう事か…………。ちょっと……びっくりした…………。
俺は何となく周りを見回した…。別に付き合ってる訳じゃないだろうけど、手を繋いでいる女の子同士が探す必要も無く目に入る。
───確かに……女の子同士で手を繋いだり、腕を組んでるのはよく見かけるし違和感ないけど……。男同士でそれをやったら……間違いなくアピールでしかない……。
「俊!あっち行こう!韓国ワッフル食べたい!」
葵が俺の浴衣の袖を掴んだ。
───きっと……本当は手を繋ぎたいんだろうな…………。
そう思いながら俺は葵に引っ張られ歩き始めた。
「嘘だろ…………」
片付け始めている屋台を目の前に葵が愕然と立ち尽くしている。
まだ祭りの途中だと言うのに売り切れになってしまったんだと、聞きに行った俺に少しガラの悪そうなお兄さんが教えてくれた。
「……今度作ってやるから……」
本気で落ち込んでいる葵に声を掛けると
「……クリームたっぷりのやつがいい……」
と、葵は恨めしそうに呟いた。
「分かった、分かった」
俺は苦笑いしながら葵の頭を撫でる。俺よりよっぽども背も高くて大人びて見えるけど……。やっぱり……甘えん坊だ。
葵は結局、すぐ近くにあったクレープの屋台でチョコレートとクリームがたっぷり入ったクレープを買い、やっと機嫌を直した。
───祭り来てから甘い物しか食べてないけど……見てるこっちが胸焼けしそう……。
俺がクレープにかぶりつきご満悦な葵を尻目に夕飯になりそうな物を選んでいると
「───俊輔……?」
すぐ近くから呼ばれ視線を向けた。
「──結衣」
偶然すぐ隣に綺麗な紫陽花の柄の浴衣を着て薄らと化粧をした結衣が立っていた。
お互い大学が始まってから忙しくて会うことも無くなっていた。
そして……それに気付いた葵がすかさず俺と結衣の間に入り込んだ……。
「よお、ブス。久しぶり」
葵が結衣から優に20センチは高い目線から見下ろす。
「……まだ俊輔にくっついて歩いてるの?ブラコン」
結衣も相変わらず戦闘態勢に入る。
「ブラコンじゃねぇし。『恋人同士』だから一緒にいて当然なんだよ。ちなみにお前はただの『幼なじみ』な」
葵がわざわざかがみ込み結衣の耳のそばで言い返す。
「松下さん……。友達?」
結衣の隣にいた男が少し申し訳なさそうに顔を覗かせ葵と俺に視線を向けた。
「あ……幼なじみ…の、俊輔と、その『弟』」
結衣が『弟』を強調しながら俺と葵を紹介すると
「大学の友達の……本田くん」
俺に向けて言った。
「あ!ブ……結衣の彼氏!?」
葵が嬉しそうに本田と紹介された男に話しかける。
「……あ……いや…まだ彼氏にしてもらえてないんだけどね……」
と、少し頬を赤くして笑う。
すごく……優しそうな人だ……。
「あ、『まだ』ね!」
葵の言葉に結衣が思い切り睨みつける。
「お祭り……来てたんだ…?大学、忙しそうだから来ないかと思った」
結衣の笑顔に少し胸が痛くなる。
「……葵が…楽しみにしてたから……」
「…………そっか……」
俺と結衣の間に微妙な空気が流れているのに気付いたのか
「俊、そろそろ行こうぜ。2人の邪魔しちゃ悪いし」
葵が冷たく言い放つ。
───あ…………また怒ってる…………。
「そう…だね」
俺は焦りながら結衣に笑顔を向け
「またね」
と、ごくごく一般的な別れの挨拶をした。
「あ……うん。また……」
結衣がそう言うと、俺の浴衣の袖を掴み
「本当に…ただの友達だから……」
俺にだけ届く声で告げた……。
「何が『またね』なの?また…なんなの?」
葵が不貞腐れながら横目で俺を睨む…。
──あれは……ただの言葉の綾で……。
「それに!結衣のヤツ最後になんて言ってたの!?なんか言われてただろ!」
俺はため息をつきたくなったのをグッと堪えた…………。
祭りに来てまで葵とケンカになるのだけは避けたい……。
「大したこと言ってないよ……。また…遊びに行く……って言われただけ……」
つい……嘘をついた……。
別に後暗いところや、やましい事がある訳じゃないけど……言えば確実にへそを曲げると分かっていたからだ。
葵が訝しげに俺を見下ろす。
「……ふぅん…………」
───ヤバい……確実に機嫌が悪くなっている………………
「ほら!晩飯、買っちゃおうよ!また売り切れちゃったら嫌だろ!?」
俺は笑顔で焼きそばの屋台へ向かった…。
夜空に大きな花火が咲くと、みんな一瞬歩くのをやめ空を見上げた。
そして花火を見る為の広場へと向かう人の波が動きを早めた。
葵はチョコバナナを食べながら呑気に空を見上げている。別に広場まで行く気は無いらしい。
俺は葵と手分けして持っていた『晩飯』を「貸して」と受け取り、それにキョトンとした葵に手を差し伸べた。
「どうせだからさ…広場まで見に行こうよ」
葵はチョコバナナを咥えて首を傾げている。
早足に広場へと急いでいる人の波の中で俺は葵の手を取り歩き出す。
すると葵は右手で持ったチョコバナナを食べながら少し嬉しそうに笑って俺の手を握り返した……。
夜空にこれでもかと言いたげに大輪の花が咲いて、みんな後で首が痛くなるだろうな…と思う程にそれを見上げている。
その群衆の中、ずっと手を繋いだまま2人で並んで花火を見上げる。
そろそろ終わりが近付き、一斉に花火が上がった。
───すごい…………。やっぱり…見に来て良かった……。
そう思った瞬間───
花火を見上げる俺に葵が口付けた───。
最後の花火に歓声が上がる中…………
葵が照れくさそうに……俺に微笑んだ……。
◇BL◇俊輔くんと葵くんの甘々な日常 海花 @j-c4
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。◇BL◇俊輔くんと葵くんの甘々な日常の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます