半年間無料!友達放題プラン!

御厨カイト

半年間無料!友達放題プラン!


「おい、達也!帰ったらいつもの公園でサッカーしようぜ!」


「おっ、いいね!カバン置いてすぐ行くわ!」


「はっ?ちょっと待てよ、達也。俺の家でゲームするっていう約束はどこ行ったんだよ!」


「おっと、忘れてた。うーん、でも今日はサッカーの気分なんだよな。また埋め合わせするから今日は蓮も一緒にサッカーしようぜ。」


「……仕方ねえな。分かった俺も行ってやろう。」


「よっしゃ、蓮も追加だ!じゃあ、俺がサッカーボールを持って行くからな。」


「おう、頼んだわ大輝。」



下校中、俺たちはいつも通りそんなやり取りをする。



中学に入学して半年。

地元から離れた学校に進学したことで友人が出来るか凄く心配だった俺だが、この様子を見ると杞憂だったようだ。

なんなら放課後はいつも誰かと遊ぶようにすらなっていた。


今日も俺は親友の大輝たちといつも遊ぶ公園でサッカーをする。



「それじゃ、また後でな!」


「おう!」




そんな感じで一旦別れた俺たちは家に帰り、準備をする。

準備と言ってもただカバンを置くだけ。

あと、中学生になってから買ってもらったスマホの通知をチェックする。



おっ、Li○eの通知が結構溜まってる、どれどれ……


やっぱり雅也からか。

アイツとオタク談義するの楽しんだよな。

でもこれからサッカーだから話するのはまた晩飯食ってからな、っとこれで良し。


後はちらほら暇だから喋ろうぜって言う感じのやつばかりだな。


一通りチェックし終えた俺は、スマホを閉じ公園へと向かおうと靴を履こうとする。

するとその時、スマホの通知音が鳴った。



……ん?何だ?



そう思い確認するとメールが届いたようだ。

今時メールで連絡する奴なんて珍しいなと思いながら開くと、どうやら携帯会社からだった。




件名は「友達放題プラン無料期間終了について」




……友達放題プラン?

そんなのに入った事あったっけ?


と言うかそういう契約関係は親がやったから知らねえや。





俺はそんな感じでこのメールについて考えることを放棄し、楽しいサッカーへと向かって行くのだった。










********











結局昨日は日が暮れるまでサッカーをし、日が明けるまでオタク談義をした。

正直に言うと凄く眠いが、後悔はしていない!



眠さでショボショボしている目を擦りながら、登校をする。

そしていつも通り元気よく教室の扉を開け、「おはようございます!」と挨拶をする。



大抵コレをするといつも蓮あたりが笑いながら話しかけて来てくれるんだが……




……あれっ?

アイツらまだ来てないのかな?


いや、でもいるな。


話しかけて来ないなんて、珍しい事もあるもんだ。



そう思いながらカバンを自分の机に置いて、話しかけに行く。



「よっ、蓮!昨日はありがとうな。今日こそ一緒にゲームしようぜ!」



肩に腕を掛けながら、そう元気に言う。

流石にこの距離なら気づくやろ。


ニコニコしながら蓮の反応を待つ。



「あっ?何でそんなに馴れ馴れしいんや?……やめろ。」


「……えっ?」



嫌そうに俺の手を離しながら、言う蓮。



……あれっ?……こんなに冷たい奴だったっけ?



……いや、分かった。

これはドッキリだ。


どうせ内心では笑いながら、こんな対応をしているに違いないな。



「いやいやいや、前からこんな感じだったじゃん!今更どうしたんだよ?」


「はっ?マジで何言ってんだ?意味分かんないこと言うなよ。」


「滅茶苦茶冷たいな、お前!おいおい俺との親友の絆はどうしたんだよ!w」



ニヤニヤしながら、そう言う。



……だが、依然俺たちの間の空気は氷のように冷たいまんま。



「俺とお前が親友……?……マジで何言ってんだ?頭イカれてんのか?」



今度は凄く心配そうに言ってくる蓮。

……なんか思ってたのと違うな。



「お前こそ何言ってんだよ。いつも朝来たら仲良く喋ってたじゃねえかよ。なんなら昨日だって一緒に日が暮れるまでサッカーしたじゃないか。」


「昨日?……昨日は俺、塾に行ってたぞ?それに朝は今まで一緒に話したりしたこと無かったじゃないか。」


「えっ?いやいやいやいや、昨日いつもの公園で大輝たちと一緒にサッカーしたじゃん!……何なんだよ、ゲームする約束を守らなかったのは謝るからさ、機嫌直せよ。」


「……本当にお前が言ってることが分からないんだが。俺が?お前と?ゲームする約束?そんなことした記憶自体無いぞ!」




今までにない怒り方を見せてくる彼。

余りの迫力に俺は思わず、たじろいでしまう。



……ドッキリだとしても流石にここまではやりすぎじゃないか?

俺と言えど傷ついてしまうぞ……。


と言うかあまりにもリアルな対応にドッキリじゃないのかと疑ってしまうほどだ。






俺は一旦、蓮から距離を取り近くにいた雅也に声を掛ける。



コイツとは昨日夜遅くまで、いや何なら朝近くまでオタク談義をしたんだからな。

流石に大丈夫だろ。



「おっす、雅也!昨日と言うか今日はヤバかったな!今度、お前が言ってた漫画貸してくれよ!」



さっきの動揺を隠しながら、言う。

だが、本から顔を上げた雅也は不機嫌そうに、



「ちょっと、机揺らすなよ。折角今良い所なんだから。」


「お、おぉ、ごめん……。」


「で?なんか用?」


「あ、そうそう、昨日お前がおススメしてくれた漫画、今度貸してくれよ。」


「昨日?一体何の話だ?」


「はっ?お前もかよ。昨日の夜、というか今日の朝まで一緒に色々通話で喋ったじゃないか?」


「……本当に何の話だ?昨日は僕は録画したアニメを見て、サッサと寝たぞ?」


「えっ?そんな馬鹿な……。通話履歴だってちゃんとここに……」



そう思いながら、Li○eの通話履歴を開くが……、無い。

昨日のはおろか、今までの記録すらも無くなっている。


そんな馬鹿な……

消した記憶も無いのに……



「やっぱり無いじゃないか。というかそもそも僕たち、通話をするような仲じゃなかっただろ。」



色々なことに混乱している俺にトドメの一言を刺してくる。


それもおちょくってくる感じじゃなくて真剣に、真顔で。




まるで「俺」と言う存在が今までいなかったようなこの空気感に耐えられなくなった俺は、廊下に飛び出してしまう。






どうして、どうしてだよ、皆!








どうして、どうしてだよ…………













********









はぁ、結局一体何だったんだか……




そんな感じで頭を抱えながら、俺は1人で下校する。

いつもなら大輝とか蓮とかとワイワイしながら帰るのだが、今日は1人。


「一緒に帰ろう」と言ったのに、ガン無視されてしまった。



……何だ?一体何が起こっているんだ?

大規模な俺に対するドッキリでもしてるのか?


いや、だとしてもアイツらの目的が分からない。

それにそうだとしたらLi○eとかの通話記録が消えていた理由も説明が付かない。

自分で消した記憶も一切無いし……


……本当にどういう事なんだ。

未だに混乱している頭で悩む。


すると、その時ふと頭の中で何かがよぎる。



まさか……昨日のメール?

そう言えば「友達放題プラン」って書いてあったな……

これが今回の件と関係している……?


一気に頭の中で駆けあがって行くその考えに居ても立っても居られなくなった俺は走って家へと帰る。



そしてドタドタドタと階段を上がり、机の上に置いてあるスマホのメールをチェックする。



昨日は件名を見て、すぐに電源を消したから中身までちゃんと確認していなかった。



えっと…………あった、これだ。



『友達放題プラン無料期間終了について』



うんと、なになに……






…………うーん、よく分からない。


契約がなんたら、とかプランがうんたら、とか色々難しい事が書いてあって、頭がおかしくなりそうだ。



……と言うか、直接聞いた方が良いんじゃね?

ちょうどメールの末尾に電話番号が書いてあることだし、電話で聞こう。


善は急げと言わんばかりに俺は早速電話を掛ける。




プルルルル、プルルルル、ガチャ



「はい、こちらNDD docodeお客様センターでございます。」


「あの、えっと、少し質問があるんですが……」


「はい、何でしょう?」


「えー、昨日届いたメールに友達放題プラン無料期間終了という事について書いてあったんですが、そもそもこの友達放題プランって一体何なんですか?」


「友達放題プランについてのご説明ですね。このプランは名前の通り友達が沢山出来るプランとなっております。」


「……えっ?」


「もう少し詳しく説明いたしますと、こちらのプランに入っていただきますとどんなに初対面の人とも凄く仲良くなることが出来るという効果がございます。」



……おおよそ現実のものとは思えない内容が耳に流れる。


どんな人とも仲良くなれる?これに入るだけで?

……意味が分からない。



「……本当にこんなものが存在するんですか?というか一体どんな仕組みでやっているんです?」


「申し訳ありません。こちらの仕組みにつきましては企業秘密となっておりますので説明は出来かねます。ですが、勿論このプランは存在しておりますし、何でしたら我が社の主力商品でございます。」


「主力商品!?……そこまで人気なんですか?」


「えぇ、特に新しく中学校や高校などに入学するお子様がいらっしゃる親御さんからの大変な人気を誇っております。やはり、新天地での人間関係というのはとても大事なものでございますから、そういった事を解決しようと思われる方が多いのでしょう。」


「な、なるほど……」


「それはそうとして、……お客様はもしかして新中学生様ですか?」


「あ、はい、そうです。」


「スマホももしかして新しくご購入された?」


「はい、この4月に。」


「ふむふむ、なるほど……」


「……一体それがどうしたんですか?」


「あぁ、これは失礼いたしました。お客様の状況を考えましたところ、多分携帯をご契約された時に友達放題のお試し版が含まれたプランで契約されたのだと思います。」


「えっ?」


「そのプランで契約なさると友達放題が無料で半年間、お試し期間として付いてくるんですね。そして、そのお試し期間が終了する際にはメールでご連絡することとなっているんです。」


「……あれっ?それって……」


「はい、お客様が最初に仰られていたメールでございます。」


「……という事は俺は知らず知らずのうちにその友達放題というのを利用していたんですね…………」


「そうなりますね、はい。」




……嘘、だろ。

俺の友情はそんなプランなんかで作られたものだったのか……

マジかよ……



余りの衝撃に俺は言葉を無くしてしまう。

今まで自分で積み上げたのだと思っていたものが全部テンプレだったのだから。




「あのー、大変ショックを受けているところ申し訳ないのですが、こちらの友達放題、ある重大な欠点がございまして。」


「……なんですか。」


「実はこちらの友達放題、利用をやめてしまうと今までの友達関係が全部リセットされてしまうんです。」


「全て……リセット…………?」


「はい、今まで一緒に話したり遊んだりした記憶は勿論、その際の記録や作ったものなども全て無くなってしまいます。」



……だから今日のアイツらの様子がおかしかったのか。

ドッキリでも何でも無く、ただ単に「記憶」が無かったんだな。


俺と夜遅くまで遊んだ記憶も、寝落ちするまで好きなものについて語り合った通話も、ゲームをすると言った約束まで……!

……全部ッ!全部ッ!

クッソ!



俺にはちゃんと今まで一緒に笑いあった記憶が残っているっていうのに……

これから今日の朝のような関係がずっと続くなんて、俺には……耐えられない。



一気に入って来た膨大な情報量や感情に心がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。




「……心中お察しいたします。ですがご安心ください!なんとですね、こちらの友達放題、一度プランを解約した後でもまた契約していただければ消えていた記憶なども全て戻ってくる仕組みとなっております!」


「え、ほ、本当ですか……!」


「はい!ですが……、再契約する際には結構な料金がかかってしまうんですけども、どうなさいますか……?」







そんなの、決まっている。














********










次の日







「おい、達也!今日も一緒に公園で遊ぼうぜ!」


「あぁー、ごめん。今日は流石に蓮たちと一緒にゲームをする予定なんだ!」


「そうだぜ。この間は大輝たちには譲歩したんだから、今度は俺たちの番だ!」


「あぁ、そうか。それは仕方が無いな。それなら、俺も行っていいか?」


「おう、いいぜ!ちょうどこの間新しくコントローラー買ったばっかなんだ。」


「よっし、じゃあ今日も帰ったらちょっぱやで蓮の家に集合な!」




今日も俺たちの教室ではそんな楽しそうな声が騒がしく響く。


結局俺はあの後友達放題プランを再契約した。

大分痛手ではあったが、こればっかりは仕方がない。

これから楽しく学校生活を送るには必要不可欠なのだ。



そして、登校し教室の扉の前に立った時、俺は酷く緊張していたが意を決していつものように「おはようございます!」と元気よく挨拶をした。

すると、いつものようにアイツらは笑って返してくれた。

良かった、戻ってる!



そんな訳でいつも通り、俺たちは放課後何をするかで盛り上がる。



この雰囲気、この空気感!

うんうん、やっぱこれだよな~!





やっぱり「友達」って最高だぜ!
















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