第6話 とどのつまり
26歳で結婚した私は、結婚する夢が叶い、退屈だった。家事の合間、暇つぶしに夫の書斎にいた。経済書、ビジネス書ばかりを読み漁った。専門用語を検索しては、夫に近付いたと思っていた。そして、夫の裏切りで奈落の底に突き落とされた。今までにない絶望感を味わった。あの日、ゴミ捨て場で出逢った女神。彼女には、感謝してもしきれない。
玄関のチャイムが鳴った。すっかり見慣れた女性調査員。私は、家政婦と出迎えた。
「お待ちしておりました。どうぞ」
中へ通した。国境を越えて、また私は同じ事をしている。
「またご用命いただき、ありがとうございました」
「またお世話になりました」
私達の甲高い笑い声が響き渡る。女性調査員が、上海支社長に栄転した事を知った私は、また依頼を掛けた。私の再婚相手を探してもらった。私が憧れてきたセクシー女優の熱烈なファンで富裕層であること。それが条件だった。提出された再婚相手候補調査資料のとおり、彼女のトークライブに行くと、今の夫がいた。連絡先を聞かれ、交際した。何かと趣味が合い、すぐに再婚に至った。
「ご主人は、今日、お仕事ですか」
「はい」
「日本ですか」
「はい。日本の企業を買収しましたから」
「奥様がアドバイスなされたと聞きました」
「はい。私なりにお勉強しておりまして」
今の夫が買収した企業、そこは前の夫が勤める企業。
2年後、私は、子育てと夫のサポートに追われていた。東京と上海に家がある。家政婦はいるが、小さな子供がいる家は気忙しい。歩けるようになったばかりの息子が、テレビのリモコンを操作し始めた。チャンネルが次々と変えられる。息子は、リモコンに飽きて、今度は積み木で遊び出した。私も参加した。つけっぱなしのテレビから、前の夫の名前が聞こえてきた。迷惑行為防止条例で現行犯逮捕された。無職と字幕が出ている。移送車の中の彼は、夕暮れに染まっていた。
夢見る主婦の夢 有寄無美 @ariyorinashimi
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