メダカの冒険 🐠

上月くるを

メダカの冒険 🐠




 野山にひかりが満ち、生命あるものに生きるちからをもたらせ、春もたけなわ。

 菜の花、すみれ、踊子草、犬ふぐり、なずな、はこべ……色とりどりの花の宴。



      🌞



 と、土手一面に小さな太陽を咲かせていたタンポポの様子が変わって来ました。

 一夜にして白い綿毛に変貌したかと思うと、風にのって、旅に出てゆくのです。


 その一部始終を見ていたメダカの子たちは「ぼくたちも行く」と言い出しました。

 で、かあさんに頼んで、兄は銀色、弟は青色のリュックを縫ってもらったのです。



      🎏



 さあ、これから出かけるよという朝、カラカラした乾いた音が聞こえて来ました。

 川面を跳ねてみたメダカの兄弟はびっくり仰天! 巨大な魚が空を泳いでいます。


 「うわ、怖い! なに、あの大きなお魚……。ぼくたちなんか飲みこまれそうだ」

 「目玉だってほら、あんなにギョロッとしちゃって、なんか怒ってるみたいだよ」


 とうさんのメダカが、さもおかしそうに笑いながら、兄弟に説明してくれました。

 「あはは、大丈夫だよ。あれは鯉のぼりといって、ほんものの魚ではないんだよ」


 一方、かあさんのメダカは少し困った顔をして、心なし、沈んだ声で言いました。

「お気の毒に。あの鯉たちは布で出来ているので、一生、水へは入れないのよ💦」


 メダカの兄弟はしばらく考えていましたが、申し合わせたように口を揃えました。

「じゃあ、あの鯉のぼりは、タンポポの綿毛と同じように、空を旅しているんだね」


 とうさんとかあさんのメダカは顔を見合わせ、うんうんと急いでうなずきました。

 かなしみを感じるこころがゆたかな幼い兄弟を、傷つけたくなかったのです……。



      🐟



 それからメダカの家族は1列になりました。

 とうさんが先頭、しんがりはかあさんです。


「さあ、出発だよ。せっかくの家族旅行だ。海までの冒険、精いっぱい楽しもうな」

「まずは少し下流の小さな滝が第一関門ね。みんなで格好よくジャンプしましょう」


 それぞれリュックを背負った4匹のメダカは、尾びれを光らせて泳いでゆきます。

 かあさんメダカが大好きな花桃が、紅白の花弁をそよがせて見送っています。🌺








 

 


 

 

 

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メダカの冒険 🐠 上月くるを @kurutan

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