愚かな婚約者気取りの道化師様。


皇族の男性は何も知りません。

皇族の女性には大きな役割を持っていることを。


例えば、皇太子妃となられる方を害しようと計画した弟君を臣籍降下させた程度で許した国王を脅すこともあります。

祝い品の中に病原菌を含んだ物を混ぜて公爵家に贈りました。

研究途中のものですが証拠は残りません。

空気に触れると数分で無毒化します。

そして十歳前後までの子供には感染しないのです。

公爵家には幼い子はいなかったので、残念ながら研究発表には足りないでしょう。


ええ、そうですわ。

この国を実験の舞台に使わせていただきました。


フンッ、公爵家の結婚祝いを届けにきた私に、私の婚約者様を国に返したらお兄様の婚約者様を送ってやると脅してきたからですよ。

その足で公爵家に結婚祝いを届ける際に細菌爆弾も贈らせていただきました。

公爵家の者たちの全身がかぶれてもがき苦しむ姿の報告が上がったときに、すでに感染はしなくなっていました。

ですが国王にお声掛けさせていただきました。


「私の婚約者様に手を出さなければ、ほかの人たちは死なずにすんだかもしれませんねえ。お義姉ねえ様のお嫁入りの邪魔をした時点で未来を閉ざして当然でしたが。このままこの国が『原因不明の病気でお義姉ねえ様以外皆殺しで国の破滅』になることをお望みですか?」

「バカな……そのようなことが……」

「あら? 私と婚約者様の愛を妨害する邪悪な国など、この世界に残しても害しかありませんわ。あ、お義姉ねえ様に関しては大丈夫ですわ。帝国の優秀な影が何人もついておりますもの。仮にも帝国の皇太子の婚約者ですもの。わずかな害意からも守らせていただかなくっちゃ」


国王は青ざめて恐ろしいものを見るような目で私を見返してきました。

そんな様子に周囲は私に視線を集中してきました。


「失礼ですが皇女殿下、陛下に何を仰られたのです……?」

「『私は似た症状を知っている。ただ、その感染者で助かった人は今まで見たことはない』と。使用人たちも感染している可能性がありますわ」


実際にはそんなことはありません。

最初の細菌爆弾を吸い込んだら最後。

そして潜伏期間は五日。

その間にキスを交わしたり性交渉を繰り返せば相手も感染します。

元々これは不貞を繰り返す相手とその不貞相手をさせるもの。

ただし不貞相手が節操なしだった場合、感染は広がっていきます。

感染から五日間潜伏してるから自覚症状はありません。

そして最初の感染者の発症後、次々広がっていくのです。

新婚なのだから相手はほかにいないでしょう。


そう思っていたのですが、このとき公爵家と複数の使用人たちが亡くなりました。

さらに貴族間でも感染が広がった結果、乱れた性関係と素行の悪い子息令嬢を一気にお片付けできたようです。


小国の国王の分際で、とってはいけない行動をとったのがこの度の騒動の原因です。

態とらしくお義姉ねえ様のお見舞いにきたところ、あの愚かな男を使って私が婚約を破棄するように仕向けたのです。

同姓同名だから何とでもなると思ったのでしょうか。

その結果、国の領土とお義姉ねえ様を失うことになりました。

ですが、これからですよ。

まだお母様と研究中の薬物がありますから。


私への謝罪と迷惑料と慰謝料はいただいていません。

だって今回のは『自国民が帝国の皇太子が乗る馬車に身投げした』謝罪と慰謝料です。

私が受けたことに対する謝罪も迷惑料も慰謝料もありません。

私もですよ?


きっとお義姉ねえ様を手放せば助かると思ったのでしょう?

残念ながら、お義姉ねえ様が最後のストッパーだったのです。

これで遠慮なく私とお母様の研究実験牧場として、病気を蔓延させてを高値で販売しますわ。

人体実験……いえ、この国では『治験』ですわね。

そちらも協力をお願いしましょう。

その頃には帝国の一部になっているかしら?


国を差し出すのは愚か者の行為ですよ。

今は別の国だから手加減しているのですから。


お兄様には光を浴びていただくため、私は闇を歩くことを受け入れたのです。

お母様も、お父様には傷ついてほしくないから、自らの手を汚すことにしたのです。


兄を慕う妹とはそういうものなのですよ、……愚かな婚約者気取りの道化師様。





(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

これも愛のカタチ アーエル @marine_air

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ