第8話 『王家の墓』
なぜこうなったのか。どうしてこうなったのか。何度も自問自答し。繰り返した。
激しい吐き気に襲われ、胃の中全て吐き出しても気持ち悪さがぬぐえず、ふと視線をあげるとあの日殺した私の母がほくそ笑んでいた。
『ざまぁみろ』
愛した人がいた。愛していたはずだった。愛されていたはずだった。
家族とはそういうもので。母は私にとても優しくて。だから当然愛されていて。望まれて生まれたのだとごく普通に認識していた。
『殺せ』
父が私に言った。死にかけた状態で目を見開き、絞り出した憎悪を声に乗せて。
あぁ、この世は狂っている。狂っていなければ。
───────私だけが間違いのようだ。
──────────────────
────────
「ここが王族の墓...」
ぼんやりと目の前の、神殿のような建物を見上げる。やけに天井が高い。フラヴィ公爵はため息をつき、俺のことを肘でどついた。
「ゼクス、しっかりしろ...声を出すなよ。怪しまれたら終わりだぞ」
「...はい」
気を引き締め。背筋を正す。俺は今フラヴィ公爵の騎士団の格好をしている。前髪を垂らし、顔を隠し。きっちりとしていれば昔を思い出す。近衛で働き始めの時はいつも緊張感があった。
門番である兵がフラヴィ公爵へ深く頭を下げる。許可フラヴィ公爵が許可を出すと、口を開いた。
「武器は全て置いていってください」
思わず出そうになった声をのみこむ。公爵でも武装解除をされる?たかが王家の墓と言うだけで。
フラヴィ公爵は慣れたように俺に目配せをし、俺は従い腰から剣を抜いて預ける。門番は受け取り再度俺たちを確認した後中へ通してくれた。
随分とまぁあっさりしたものだ。
「もう喋っても構わん......ところで何故かわかるか?」
「はい?」
「武装解除しか託さないで本人確認もしない理由だよ。確かに私は顔が知れている。だがこの世には姿を変える魔法も魔法具もある。本来であれば魔力で確認するが、入り口ではそれがない。その理由が分かるか」
少し考えてみるもののちっともわかりゃしねぇ。王家の墓なんて興味もなかったしな。
「私の体に流れる血が鍵なのさ、だからここは王家の墓。王家の血の者がいずれ収まる場所。そして...」
「嫁いだ妃たちも収まると聞いてはいます」
「そうだ。ここには機密な魔法が組まれ、本当の意味で縁を結んだものがおらねば入ることができない。墓荒らしとして捕まった例の檻の中にいる者も入れずにバレたのだろう。通常知る術のない情報だからな」
王家の血が鍵。機密な魔法が箱。ならその中には何があるのか。
「私も彼女が亡くなってから来るのは初めてだ。気をしっかりともて、彼女は手強かったからな 」
彼女が、前王妃を指すならば。俺の知るあの人はいつものほほんと微笑んでるだけだった。時に厳しい目をする時はあったが自分の子を守る時のみその様子が見られて、母とはそういうものだと思っていた。
「先日聞いた質問だがな」
「?」
「陛下の母君が亡くなった理由。あれはとても複雑である意味簡単な答えだ」
気の所為か?さっきから含みがある発言が多いな。
「結局なんなんです?」
「陛下が殺したのだ」
変に心臓が大きく脈打つのが分かる。ゾワゾワと禁忌に触れているのような、恐怖の様な。
「陛下は前王に命令された。腰に下げたその剣で、実の母を殺せと」
不快だった。話も雰囲気も。そしてこの王家の墓に入ってから変な違和感がある気がする。なにかに誘導されているような違和感。
「⋯前王に言われるがまま混乱した頭で震える手で実の母を殺した陛下は私を呼びそして一つだけ語った」
ゆっくりと。ゆっくりと。染み込んだ狂気が足元から上がってくる。
「世界は狂っている、でなければ私だけが異常ではないか、と」
こつん、と。やけに足音を響かせ公爵が足を止める。視線を辿り目を上に向けると祭壇のような場所に沢山の棺がありその中のひとつを公爵が触れると勝手に蓋が空いた。そして中には寝かされ氷の中に閉じ込められている、人がいた。懐かしい、眠っているようにしか見えないこの人は。
「この方が我々をここに導いた本人。王太子の母君であり、お前の主君であった────前王妃シルビア様だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます