第18話 「辺境の街ルド」


 門に着くと門番だろう兵達に質問を受け、書類を記入してもらう。文字が読める上にかけるのは珍しい気がするが、貴族の出だろうか。


「えっと、シエルさんと、ヴァンさん、それと途中で親を亡くしたため引き取る事にしたシエラさんですね。シエラさんのご両親について分かるような物はありませんでしたか?」


「この子自身随分逃げ回ったそうで、死体すら見つけられませんでした」

「それでも死んだと判断なさったのですか?」


「一晩森で夜を過ごし様子見しましたが、両親らしき人の存在はありませんでした。シエラから聞いた内容と合わせれば死んでいるのではないかと考えるのは自然ではないでしょうか?」


 はっきりと言い切ればそれは確かにと頷いてもらえる。それでも心配そうにシエラを見る辺り、単純にこのバイオレットの瞳を持つ子供が犯罪に巻き込まれるのではないかと警戒しているだけなのだろう。


 どれだけ質問されても少しも気が悪くなることはなく、仕事に丁寧なこの門番への印象が寧ろ良い方へと向いていく。


「…わかりました、入ることを許可します」

「ありがとうございます」

「この街でも王都と変わらず理由なく子供を虐げれば罪に問われることはよく覚えていてください」


 心配そうに見ていた方にぶっきらぼうに言われ、離れた場所に居たもう一人の門番が近付いてきたと思えば真っ先にしたのは謝罪だった。


「申し訳ありません、気分を悪くしてしまいましたよね。こいつ言い方がアレですけどただ心配してるだけなんで…特に子供だとその心配がすぐ口に出ちまって」

「大丈夫です、誤解などしてませんから」

「していない?本当ですか?今の発言を聞いても…」


 ぽかんと門番二人に唖然とされてしまう。

 何やら変に警戒されてしまった気がするので、訂正はしておくべきか。


「昔、そういった癖のある方と仲良くさせて貰っていたので」

「そういった癖…」

「真っ直ぐな物言いに、少し冷たい様な印象を与える表情を作ってしまう癖ですね 」


 微笑んで答えてやれば困惑がかえってくる。

 何かおかしなことを言った覚えは無いので少し静かにしておこうか。


「…つまり、俺と似た存在に慣れていたから誤解をしなかったと」


 しばらくして、困惑はまだ抜けないようだが、私達を担当していた不器用な方が私に目を向けてくるので肩をすこし竦ませてながしておく。


「納得したなら中に入っても?」

「あ、あぁ、何かあれば街長を訪ねて下さい…」


 そそくさと三人で門の内側に入ってしまえば、緊張していただろうシエラの肩の力が少しだけ抜けた。


「怖くなかった?」

「怖い、ない、シエルいる、から」

「じゃあどうしたの?」

「私、変?」


 予想外の発言に私は驚いて言葉を無くしてしまう。動揺を誤解したのか瞳を潤ませるシエラに慌てて弁解をする。折角門を越えたのにシエラとの関係が可笑しくなれば誘拐犯のようになってしまう。


「シエラは変じゃないよ」

「…でも、皆、驚く」

「それはシエラが綺麗だからだね」

「きれい?私、あちこち、土だらけ」


 きょとんと見上げてくるシエラになんと言うか迷っていれば先にヴァンがサラリと口にした。


「シエラの瞳が宝石の様に美しいという事ですよ。他の人にとって珍しいものではありますが、それが変という答えにはならないかと」


 予想外にはっきりと伝えてしまうヴァンとびっくりした顔で固まってしまったシエラ。

 シエラは少しきょろきょろと周りを見回してからゆっくりと頷いた。


「ヴァンがそんな事を口にするのは珍しいね」

「そうですか?事実を伝えた方が早いこともあるでしょう」

「事実…なんだけど、まぁ…うん」


 変に拗れないと良いけどと呟くとヴァンとシエラが二人とも揃って不思議そうな顔をしていた。


 見守るのも一興かな。良く考えると私も女性を褒めることはあまりしたことないし、そういった面ではヴァンは私より上手かもしれないし。


 何より、面白そうだ。



「じゃあ、冒険者ギルドでシエラを登録したらまず手がかりを探すことにしよう。いつまでもここに居たら心配性の門番がまた声をかけてきそうだから」


 視界の端にちらちらとはいる先程のシエラを心配してくれた門番を任されている青年兵の薄い茶色の髪に苦笑いしつつ二人に声をかけると直ぐに歩き始めてくれる。


 なんだかんだ似ている所がある二人だと改めて思う。ヴァンも素直な所があるし、喧嘩するほど仲がいいと言うのも聞いたことがある。


 シエラが母親以外で初めて会話したのが私で、食事を与えたのも私だからか懐いてくれているけど今後共に行動するにつれてもしかしたらヴァンの方に懐くこともあるのだろうか。


 少し寂しい気持ちに今からなってしまうが、仕方ない事でもあるし、今はシエラの母親を探して買い出しをすることを考えよう。


 とりあえずここで宿を取って出来れば明日か明後日には他の街へ向かいたい所だけど…。


「さて、すんなりといくだろうか」





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