第150話
両替は三六〇〇万エルで五〇〇〇万ポスの交換になった。
布製の防具はメイが交渉し、その場で材料はあるからと早速作り始めた。
武器は剣と槍と
とか言われたので、属性付与するから現物を用意してくれと頼む。
「わたしのスキルだと鍛造品に劣る武器になるから、大きいのは付与だけの方がいい」
「そうか、なら折れた剣からナイフも作れるのか?」
「そのくらいならできる」
武器が用意できるまでの間、差し押さえした物の現金化できなかった金属製品をドサっと持ってこられた。メイの針仕事の横でエイコは錬金術を使うことにする。
「あっ、これ呪いの剣だ」
折れて柄の近くしか残っていなが、しっかりと呪いだけはあるようだ。
「これだけ買取できる?」
応接室使わせてもらっているせいか、見張のように男が部屋に残っている。
「何に使うつもりだ?」
「何か面白そうなのはできそうだけど、使える物になるかはやってみないとわからない」
面白そうな物は作ったみたいので、錬金術は使いたい。
「失敗対策?」
使えない物ができた場合の保険として、買取しておきたい。
「失敗か成功しかないギャンブルみたいなもんか」
やれ、と男は和かに告げる。
どうせ元は不良在庫品。成功したらラッキーくらいの気楽さで、許可が出た。
何ができるかわくわくと錬金術を使えば、大型のナイフができる。
「あっ、ヤバ」
鑑定して、すぐに近くにあった素材を適度に掴んで鞘を作る。刃がむき出しのままは良くない。あと、ナイフと鞘、両方の製作者の隠蔽も付与しておこう。
「いやー、お見事。売る相手は選ばないといけないが、折れた剣よりは価値があるな」
男はハッハッハッと笑う。
「鑑定結果聞いてもいいです? わたし、呪いのナイフだったんですが?」
「おっ、そこは一緒だな」
「効果がですね、治癒阻害になってまして」
「あー、うん。ポーションだと治らない傷になるみたいだね」
目を合わせて二人して笑う。
「これ、あれですかね。手足ケガしたら、切り落として欠損回復系のポーションで治す感じですかね?」
「内臓も抉れる部位なら対処できるかもな。もしくは、ハイポーションなんかの上位回復薬だな。阻害される以上の回復薬があれば効くはずだから」
「売るつもりなかったんですけど、ハイポーション買います?」
「あぁ、買わせてもらうよ」
「ハイポーションの出所は秘匿して欲しいな」
「そこは対処させていただきます」
そっちも製作者隠蔽は付与するが、作っているところを見られている相手には隠しようがない。
まあ、いい。気を取り直して次の素材にいこう。
「バカ」
ぼそっとつぶやかれたメイの言葉が痛い。
好奇心に負けるのは、生産職の宿命だと思う。メイだって、目の前に呪の糸とか布があったらやらかすはずだ。
しばらくナイフやアクセサリー作りに勤しんでいたら、木箱の奥の方から呪われている折れた剣先が出てくる。
「どうしましょう?」
「とりあえず、ナイフはダメだ」
「ネクタイピンクとかカフスにしてみますか?」
「今までアクセサリーは女性用で作っていたよな?」
「特別な素材なら趣向を変えるべきかと」
間違っても自分で身につけないためには、男性物の方が無難だ。
呪いの装身具なんて、健康に悪そうなイメージがあるのがいけない。
「ここはあれだ、身につける物は避けよう。ランプとか、燭台とかドアノブとかはどうだ?」
「ランプはここにある物だけでは素材が足りないです。燭台ならできます」
レシピそのままの定型になるけど、その分失敗もないだろう。
蝋燭を載せる皿に持ち手がついたシンプルな燭台が八台できる。鑑定結果も手持ち燭台となっており、呪いなんて単語は存在していなかった。
ちょっと気になるのは聖なる燭台にはならない。と、あること、二対以上同時に使用すると何か起こるかも。という注意があることくらいだ。
「単体で使う分に問題がない物ができてよかったです」
「そ、そうか? 試しに対で使ってみたいが」
「手持ち燭台ですよ。対で使う物ではないわ」
「でもな、お勧め儀式に四方陣と八方陣とあるんだが」
「わたしの鑑定ではないので、わかりかねます」
余計な情報をしゃべるな。今までなかったのに鑑定結果が追加された。
追加されたからって、もともとあった鑑定結果が変わるわけでもない。安全に使うなら、一台だけにしておくべきだ。
あまりにじーと見つめてくるので、エイコはため息混じりに告げる。
「ナイフだと治癒阻害ですよ。健康にいい方陣になるとは思えません」
健康にいいなら聖なる燭台になれるだろうし、良い結果になるとは思えない。
呪い素材は、作る分には何ができるかわからなくて楽しいが、出来上がった物の扱いに困る。
元々が不良在庫だし、折れた剣よりは役に立つはず。残りわずかとなった素材でブレスレットや髪飾りを作っていると武器が届いた。
二人して作業が終わった時にはすでに昼はすぎており、お勧めされたレストランへ向かう。
野菜スープに香草焼き。それから三種類のパンとジュースとデザートのプリン。
この辺りでは高級な分類のレストランだが、衛生面に不安がないところがとってもいい店だ。
「とりあえず、金策と換金は考えなくてもよくなったね」
入国早々にお金の不安がなくなったのはありがたい。満足そうにしているエイコに、メイはジト目を向ける。
「そうね、お金の問題はなくなったわ。悪目立ちしたとは思うよ」
「まあ、目立ったら勇者の方から見つけてくれるかも知れないし、ね」
エイコとマナミは仲が悪かったが、マナミがエイコに嫌がらせをする時は側に取り巻きはいなかった。同性なら気づいていたのはメイだけじゃないだろうけど、異性である勇者は誰も気づいてなかった可能性もある。
おそらく最初から敵対はしてこない。メイは遊び友だちの一人でもあったし、会えれば会話くらいはできるだろう。
その会うのが難しい相手ではあるが、それは何処にいるか見つけてから考えることにする。
「この後はダンジョンに行くのよね?」
「うん。星三つのダンジョンならそう危険なこともないでしょ」
過剰防衛の心配なく対抗処置が取れるので、高スキル持ちの戦闘職のいないダンジョンは街中より安全に感じる。
「国が変われば服の流行も違うから、レシピはいっぱいありそうよね」
メイもダンジョンに行くのを楽しみにしているようだ。
エイコからすれば、さほど服に差はかなったように思うが、メイにとっては着替えしたいレベルで違うらしい。
他所者の格好よりは現地の格好の方がトラブルは減りそう。そんな思いで、エイコは服についてすべてメイに任せている。
わかる人にはわかる違いがあるというなら、次の街に行く前にはどうにかしてくれるだろう。
この店、フルーツタルトが食べられるみたいだ。運ばれてくるお皿を見てエイコはテーブルに置かれた鈴を鳴らす。
お菓子は何があるか問えば今日はフルーツタルトが二種類とパウンドケーキが三種類あるそうで、全種類一ピース持ってきてもらう。
持ってきてもらった物はメイと分ける。最初から偶数になるように分け切り、全種類を大皿に乗せて食用花や果物で飾りつけられていた。
試食気分で頼んだのだが、思ったよりもボリュームがある。けれど、食べられてしまう美味しさがあり、持ち帰り用に購入できるか保存容器を出しながら問う。
買えるだけ買ってから店を出て、食べすぎたと後悔する。
「お腹が、苦しい」
「ダンジョンに行って運動しないと」
夜はあっさりスープですませよう。今運動するとお腹が痛くなりそうなので、街を出てアオイを呼び出し運んでもらうことにする。
移動している間に、きっと落ち着くだろう。
女神さまの慈悲により、異世界で受肉しました。 葉舟 @havune
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