第39話
「分かりません……いえ、きっと恨まれているんです。勝手に離婚して、子供を連れて逃げた私を。だから煽って脅しているんです」
千晶は
「覚醒剤を使って、他人を
二度目も家に突然警察が来て夫の逮捕が知らされた。今度は覚醒剤の
「覚醒剤で刑務所。ああ、それは酷いねぇ」
「でも、おかしいんです。出所日、刑期を終えて刑務所から出るのはまだ先のはずなんです」
千晶がそれほど強烈な記憶を持つ愛葉大我と、後ろを走っている黒い車のドライバーを結びつけなかった理由もそこにあった。懲役七年の判決を受けて
「もしかして、あいつは刑務所から脱走したんでしょうか。そんなことをしてまで私を……」
「脱走なんてできないよ。刑期が短縮されたから早くに出所できたんだよ」
「短縮?」
千晶がちらりと左を振り向く。龍崎は目を閉じたまま、船を
「
「あいつが模範囚なんて……」
「僕は知っている。刑務所は服役囚を公平に扱う。でも外の世界は
龍崎の言葉に千晶は思わず息を
雨に
「どうしよう、逃げないと……」
開き続ける目に痛みを感じ、ハンドルに
「千晶さん」
「ちょっと待ってください! 今は!」
声を上げて龍崎を制する。なんとかしなければならない。考えなければならない。車を
「ネズミが……」
「ネズミが?」
「車を捨てれば、なんとか……」
届かない雨の代わりに涙が視界をぼやかせる。ネズミがライオンに勝てるはずがない。でも必ず食い殺されるわけではない。草むらの中に飛び込んだり、地面の穴や木の
「千晶さん」
「龍崎さん、あの、私は……」
「すまない、千晶さん。幽霊がくる」
「え?」
「僕の頭に幽霊がくる。頭の運転を奪われる。ああ、困った。どうしようもなく眠いんだよぉ」
「り、龍崎さん、大丈夫ですか?」
千晶は我に返って左を窺う。龍崎はシートで小さくうなだれたまま、顔の前でさかんに右手を振り続けていた。認知症による
「だ、大丈夫、僕は平気だよ。もう何度も経験しているからね。しばらく眠れば収まるんだ。でもこんな時に。千晶さんを助けないといけないのに」
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